正しくTogetter / min.tにログインできない不具合が発生中です。X側の修正をお待ちください(詳細はこちら)

宵の血に依る契約城:一日目夜

──そして時は移り。
0
前へ 1 2 3 ・・ 12 次へ
ヴァエク @elqVaec

「────なァ、アルカ」 ヴァエクの声は、静かに聞こえた。 しかしそれは、静かではあっても、穏やかではない。 立ち上がる。 肘掛けには、潰されたようなひびが入っていた。 回りこむ。机を破壊しなかったのは、調度や料理を思っての事ではない。 へたり込む二人。それを、見下ろした。

2014-12-28 19:06:16
ヴァエク @elqVaec

シアに向けられる目。 昼間に「そそる」と言っていた時のものではない。 「どうして、こんなつまんねェ奴を選びやがッた」 手を、払った。 直接触れた訳でも、何かを投げた訳でもない。 起きた現象を例えるならば、風か。あるいは圧。 人一人を払うだけの、威をもったそれ。

2014-12-28 19:06:32
ヴァエク @elqVaec

「さっきから見てりャあいちいち他人の面色確認してよォ。ンだこら。ただ喰われるだけに来たのか手前ェ」 喜悦の視線、ではなかった。 黒い眼は、侮蔑の感情を露わに。 「手前もだ、ウィータスラーウァ」 襟元を掴む。 凝った方を掴んでは剥がれてしまう。だから、逆側を掴み上げた。

2014-12-28 19:06:40
ヴァエク @elqVaec

二人には、身長差がある。 掴み上げた今、その視線は同じ高さで重なっていた。 「喚くな。とっとと席に着け」 それは、まさしく『命令』。 有無を言わせぬ、言葉の暴力か。 「オレ様は手前にそんな顔を要求した覚えはねェ。すぐに直せ。殺すぞ」

2014-12-28 19:11:24
シア @ConcesC_Cia

其れ迄静かだった男の声に、固まった。宿る響きは少なくとも快を示す物ではない。ウィータスラーウァと共に、見下ろして来る眼差しも、また。 「────ッぐ、ぁ」 一振りの風圧に弾かれた。この躯は軽い、容易に威力に乗って、壁に強か打ちつけられる。呼気が詰まって息が吸えない、言葉が出ない。

2014-12-28 20:00:06
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「アケイシアは悪くないだろ!!」 触れもせず払いのけられたシアを庇うように。動転して、涙で濡れたままの顔で、膝立ちになって手を広げた。吸血鬼(ヴァエク)に、人間(シア)を、それ以上傷付けさせないように。 襟元が掴み上げられる。痩せた小さな身体は軽々と、膝立ちから、宙吊りにされる。

2014-12-28 20:02:30
匿名企画『宵の血に依る契約城』 @Conces_Castle

——黒い群青の空に月が上がる。 ——瞬いた二つの新たな月は、もう一度瞬いて、ぐるりと『城』を見渡して。 ——かちりと嘴の音が一つ。 ——それ以外に音は無い。

2014-12-28 20:03:35
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

そして、下された“命令”。 「――ッ」 言葉は呼吸と共に詰まって、目の前が暗くなる。吊り上げられただけで、絞められたわけでもないのに、呼吸ができなくなって、そのまま。 「――諾(はい)」 答えたのは、“あたし”。無理のある話だとわかりきっていた。それでも、ため息ひとつ、落として。

2014-12-28 20:12:47
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

曇った菫の目から、涙は止まっている。 「下ろしてくれないと、座れないわ。顔は、これでご満足?」 薄らと形ばかりの笑みを、同じ高さにある黒い瞳へと向ける。 「……もっとも、不満だと言われても、あたしにはどうしようもないのだけど」 不自然に優しく、撫でるように囁く声で、あたしは言う。

2014-12-28 20:19:43
ヴァエク @elqVaec

シアの身体が飛ぶ。 吸血鬼(ヴァエク)にとっての軽い挙動でさえ、人間(シア)にとっては命を左右する。 それほどまでに、違いがある。 であれば、生まれる関係性は。 「なァに寝てんだ人間。オレ様は手前に聞いてンだよ早く答えろ。 ンなつまんねェ心持ちで此処に立ってんのか、手前はよ」

2014-12-28 21:32:06
ヴァエク @elqVaec

ヴァエクの向ける視線は、変わらぬもの。 薄く笑みに、その表情は返さない。 「なァに笑ってやがる。オレ様は手前にンな面要求した覚えはねェよ止めろ。 オレ様がウィータスラーウァに気に入ったのは、自分を自分と言い切った時の面だァ。 その自信は、自負はどこに捨てやがった」

2014-12-28 22:05:20
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

言われるままに笑みを消す。虚ろなばかりの無表情。 「あなたの問いかけに対する答えを、あたしは持たないわ」 声だけは同じ調子で、柔らかく耳を撫でる。 足が床から浮いたままの状態から、下ろされるのを待ちながら。 「“俺(この子)”は、あなたじゃないのよ。あなたにとっての自己と――」

2014-12-28 23:13:57
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「――“俺(この子)”にとっての自己は、違うわ」 あたしは淡々と、あたしにとっての事実を語る。 「それと、ひとつ、誤解を解いておくわね」 “俺”が明らかにはしない事柄を、“俺”に断ることなく晒していく。 「“俺(この子)”が承諾したのは、あなたの契約者になることでは、なくてよ」

2014-12-28 23:14:02
シア @ConcesC_Cia

勝手に涙が滲むのは、呼吸出来ない苦しさと痛みの為。吸えない息。蹲り、咳き込んで、空気を求めて。 (嗚呼……) 成る程、と、思考の片隅で浮かんだ得心。喜怒哀楽を問わず、他者に惑わず表に浮かぶ気性を好むのか、と。躯はこの状況を危険と判断して震えていたけれど、怖いとは感じていなかった。

2014-12-28 23:33:41
シア @ConcesC_Cia

弾かれる前に見えた、困惑した様子のアルカが思い浮かんだ。今は、襟首を掴まれる、ウィータスラーウァが見えた。 (ごめんね) 恐怖は無い。怒りも無い。咳込み、押さえた口元。指で覆った唇は。 「────ふ」 我知らず笑みが浮かんでいた。 「くふ、ふ、ふふふ」 笑いが湧いて、肩が揺れる。

2014-12-28 23:33:47
シア @ConcesC_Cia

顔を上げる。息を吸った。嗚呼、もう喋れる。 「笑ってくれる?餌になる以外の事を求められるなんて、私、これっぽっちも考えてもいなかったの」 震えるように小刻みに溢れる笑いは、まだ止まらない。 「私、なんにも知らなかった。吸血鬼の事も、貴方達の事も。……此処に来る以外の選択肢だって」

2014-12-28 23:34:04
シア @ConcesC_Cia

「でもね、ヴァエク。私が何の為に来たかを、貴方に言う理由は無いわ」 告げて、笑ったまま目を伏せた。痛む、軋む、震える。床を這う虫のような無様な格好で、ゆっくりと起き上がる。その間、言葉を発する事を私は控えていた。今は自分の事をあたしと呼ぶ、ウィータスラーウァの声を妨げないように。

2014-12-28 23:34:27
ヴァエク @elqVaec

「だッたらなんだァ。お前に出来んのは、その薄気味悪い笑い方だけかよ」 ヴァエクは、相手を気に留めない。 己が何かしらで満たされぬ限り、止める事はない。 「ンな事ァ分かってんだよ。手前らが幾ら逆立ちしたって、オレ様になれるなんざ微塵も思っちゃあいねェよ。言葉の文みてェなもんだ」

2014-12-29 04:30:16
ヴァエク @elqVaec

それ故にヴァエクは下ろさない。 襟元を掴んだまま、視線を逸らさない。 己と相手の自己に大きな隔たりを感じていて尚、止めはせず。 「あン?だったらいったい、何に答えたって言うンだよ」 問いかけは一つであった筈。 ならば、一体何に『諾』と応えたのか。

2014-12-29 04:33:07
ヴァエク @elqVaec

「───あァ、いいぜ。 笑ってやるよ。まさか手前に、ンな笑い方が出来るたァ思ってなかったからなァ」 黒い眼が見る。 壁際のシアを、その震笑を、その眼を。 「別に構わねェよ。何を願うかなんて知った事じゃあねぇし、呉れてやるとも言った覚えもねえ。 だがよ」 掴んだまま、近づく。

2014-12-29 04:51:40
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「他の誰の契約者にも、ならないことよ」 問いかけは一つであった。 “俺”は『諾』とのみ答えて、言葉の隙間に真意を隠した。 「どういう意味かは、あなたが考えたほうがいいわ。まだあなたが“俺(この子)”を見ようとするなら、だけど」 あたしは笑みを消したまま、吊られたまま、応え続ける。

2014-12-29 07:23:15
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「とっても大変よ。“俺(この子)”は、あたしと違って嘘つきじゃないけど、隠れるのは上手だから」 街の陰に。人と吸血鬼の目も届かぬ場所に。言葉の隙間に。人にも吸血鬼にも気付かせぬように。そうすることで、それだけで、生き延びてきた。これまで生きた時間を、長いとは決して言えないけれど。

2014-12-29 07:23:18
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

シアに近付いていく吸血鬼を、あたしは阻もうとしない。あたしにそんな“意志”はない。両手は体の脇にだらりと下げたまま、声は静かに囁くまま。 ――あまり、煽るような真似はするな。 あたしは、続く言葉を飲み込んだ。 (あなたに、できるのかしら。“俺”を“人形(あたし)”にしないことが)

2014-12-29 07:23:20
シア @ConcesC_Cia

ウィータスラーウァはまるで自身を別人のように言うと思っていたけれど、本当にそうなのかも知れない。茫洋とそう考えていた。 「私も、知らなかったわ」 距離が詰められて行く。大きな体躯から覚える威圧感。その向こうに居るアルカの紺青が隠されて行く──嗚呼、まだ彼と、なんにも話せて居ない。

2014-12-29 08:20:18
シア @ConcesC_Cia

窓から覗く空の色が、変わって来て居る。刻々進む時間の経過を示すように。 「だが?」 彼女を掴んだ侭の男を見上げ、血色の合間の闇色を見返す──降ろして、と唇を開きかけて止める。口内に薄らと鉄の味が滲む事に気付いて、銀扇で口元を覆った。どのみちワゴンの品は、直ぐに食べられそうに無い。

2014-12-29 08:30:40
前へ 1 2 3 ・・ 12 次へ