FF6二次創作SS【鎮魂のアリア】その9
- minarudhia
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フィストの目には、今ここにいるロック達の他に、だらしなく首をだらけさせながら部屋の中を探し回る死体がいた。 死体…ジュリアスは、一体どこから拾ってきたものかわからない手斧を床に引きずるように持っている。 その手斧の刃から刃の部位に近い柄にこびりつく赤い物にフィストは気づいていた。
2014-12-29 22:34:08(途中で一人無関係な人間を殺したか) 「スコット…スコット…」 死体はクローゼットの中を物色したりしていたが、何度もそれを繰り返している。 死体がロック達と重なってもその身体をすり抜けていくだけで、誰一人ぶつかり合うことがない。
2014-12-29 22:36:38やがて、ジュリアスが出ていき、階下から騒がしい喧騒と何かがぶつかるような音が聞こえた。 フィストの口が軽く何かを呟いた途端、パキンと何かが弾けるような音がした。 「!?」
2014-12-29 22:40:45辺りを包む異様な空気は元に戻ると同時に。 ロック達は下で悲鳴や恫喝、さらには誰かが複数人慌ただしく動くような足音を聞いた。 「な、なんだ!?」 「パックの部下が下でジュリアスと交戦しているようね。今のうちに窓から降りましょう。でないとパックの部下達がここにもやってくる」 「よし」
2014-12-29 22:42:25ズゥン、と外で白い巨体が屋根を下り着地した。 「テラ!」 窓を開け、フィストが下で待つ白いグリフォンに呼びかける。 翼を広げこちらに背を向けて座り込むグリフォンの姿勢を確かめて、フィストはリルムとストラゴスを除く全員に先へ行くよう促した。
2014-12-29 22:45:50「マッシュはキランに乗って。あの子は私がとある軍にいた以前から乗っていた子、幾度となく戦いを共にした子だから力は強いし足にも自信はある。余程の相手でもない限り敵の攻撃にも怯まないわ」 「わかった」 その速さは実際に追われた事のあるロックとセリス、セッツァーがすでに実感している。
2014-12-29 22:47:44「よし、俺が先に!」 ロックが最初に窓を飛び出す。 グリフォンの背をも覆う甲冑より下へと落ち、硬い毛に包まれたライオンの下半身を滑りながら着地していった。 それにパックを抱えたマッシュ、セッツァー、そしてティナとセリスが続き降りていく。
2014-12-29 22:50:31「ストラゴスさん、リルムちゃん。私達はテラに乗って少し離れた場所へ行きます。場所的にはあまり縁起の良くない場所ですが…」 「どこへ?」 「ここより少し離れた場所に墓場があったはず。そこへある物の材料を取りに行きたいのです。…構いませんか?」
2014-12-29 22:52:49「リルムなら平気!お化けなんて怖くないわよ!ジジイはもうじきぽっくり逝くかもしれないけどさ」 「これリルム!?ワシはまだまだ現役じゃゾイ!…すまんゾイ、フィストさん」 詫びるストラゴスにフィストは微笑みながら肩に手を置いた。
2014-12-29 22:56:16キランとチョコボに跨り、いち早くジドールを出たロック達は周囲への警戒態勢に入っていた。 キランの背にはパックを担いだマッシュが乗っている。
2014-12-29 22:57:45周囲は静かだが、その静けさがよりにも増して不気味さを増していた。 すでに死した者が復讐者として追いかけてくるのだ。 これ以上に不気味な、緊張をもたらす間を感じたことは一度もない。
2014-12-29 23:01:07「あいつは一体何考えてるんだろう」 「まだ彼女のこと疑ってるの?」 「いや、もうあいつが敵とかそんなんじゃない事はわかったからこの際いい。俺が考えてるのは別のことだ」 セッツァーは言いながら、チョコボの手綱を軽く手繰る。
2014-12-29 23:04:07それに反応した彼のチョコボはクチバシを上下するように頭を振り後ろへ下がった。 「あいつは一体何者なんだ?もうこの世界じゃ魔法は使えないってのに、俺やロックを動けなくする、こいつを抱えて空を飛ぶ…じゃなかったな」 「んーと…あれは歩いてる感じだった」
2014-12-29 23:06:43「それと、さっきやったようなおかしな術。俺達が今まで戦ってきたドラゴンであんなの使った奴が一頭でもいたか?」 全員を沈黙が包む。 誰一人として、その口から答えを出せる者はいない。
2014-12-29 23:09:37世界が崩壊した後に地割れから這い出した伝説の七竜も、とある場所で戦った竜の王も、強力でありながらあのような術を使ってきたものはほとんどいなかった。 その上で、ティナが言う。 「私、始めてあの人を見た時…」 恐る恐る口に出す。
2014-12-29 23:11:50「あの人から、とても強力な力を感じたの。三闘神よりも強い力を」 「…そんなふうには見えなかった」 「でも、本当よ。本当に世界を壊してしまうんじゃないかって思うくらい。私、ちょっとあの人が怖い。でもそれより不思議なのはね、あの人…とても優しそうで、寂しそうだったの」
2014-12-29 23:14:25グルッ キランが突如ジドールの方角へ首を振り向け牙を剥いた。 「来たか」 遠くから走ってくる影に全員はマッシュを乗せたキランを先頭にチョコボを走らせる。
2014-12-29 23:20:12その影は一見スローモーでとてもチョコボに追いつくことさえ叶わないように見えた。 その逆だ。 片腕だけで手斧を引きずり、身体中至る所を血で濡らしたそれは恐るべき速さで迫ってきたのだ。 「スコットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
2014-12-29 23:22:37ある所に二人の飛空艇乗りがいた。 一人は飛空艇に華美を求め、一人は飛空艇に速さを求めた。 二人は友であり、競い合うライバルでもあった。 ある時速さを求めた一人がもう一人に告げた。 『私に何かあった時はファルコンを頼む』と。
2014-12-29 23:24:08ファルコン――― それは世界最速を誇る飛空艇。 ほんの数隻しかない飛空艇の中でも、紛れもなく最高の翼。 しかし、かの飛空艇乗りがその翼で空を誰よりも速く高く駆け、最後に見たものは果てしない空だけだったのだろうか。
2014-12-29 23:26:19友の死は残された一人の手により厚く葬られた。 今こそファルコンが再び翼として彼と共に空を駆けている今、そこに残るのは眠りに就いた主だけだ。 飛空艇の持ち主、セッツァーの無二の友にしてライバルであったダリルのみが。
2014-12-29 23:28:20翼を休めるグリフォンの傍らで、フィストとストラゴス、リルムは大きな墓石の前に立った。 「フィストさん、一体これから何が必要ですゾイ?」 「そうですね、まず…」 軽く周囲を見渡してから、フィストは続けた。
2014-12-29 23:30:54