会場に設置された控え室は、全部で17室。試合が別室から見れるよう、中継モニターが設置された大部屋と、各選手に一つずつの個室が16室。大部屋を中心に、小部屋が四角く取り囲んでいる形だ。その控え室前の廊下を、二人の少女が歩いている。
2015-01-04 16:12:06一人はジャージを着込んだ少女、西条友喜。もう一人は額にバンダナを装着した褐色肌の小柄な女性、春原円子だ。西条に付いていた弐羽は、上司である西条の父に呼び出され、今はいない。二人が出会ったのは選手登録確認のカウンターである。
2015-01-04 16:15:32円子が登録確認の書類を書けず職員と揉めていたところを、見かねた西条が助けたのだ。西条も円子の頭の悪さには悪戦苦闘したが、どうにか書き上げる事ができ、今に至る。
2015-01-04 16:21:54円子がぺこぺこと頭を下げながら話しかける。「本当にありがとうございます!西条さんが居なかったらどうなっていた事か!感謝してもしきれないっす!」「何、困った時はお互い様だ!しかし驚きはしたがな!予選の時はどうしたのだ!まさか予選で頭を打って書けなくなったのか?」
2015-01-04 16:26:14「いや、最初から書けなかったっす!でもその時は真野さんって言う人が居て手伝ってもらってたんすよ!」円子の外見描写は最初に出るときにする予定だったが、忘れていたので今回やった。「今日も手伝ってもらおうと思ったんですけど、真野さんトイレに行ったきり帰ってこなくて!ほんとこまるっす!」
2015-01-04 16:32:27「心配はしないのか?」西条の問いに、手をブンブンとふって答える円子。「しませんしません!よく居なくなるんですよあの人!それでひょんな所からでてきたりとかするんで、もう心配するのも馬鹿らしく成っちゃいました。今回もどうせすぐに……ってあっ!」
2015-01-04 16:50:54円子が驚きの声を上げる。廊下の角を曲がり、大控え室に入ろうとした先に、一人の女性。学生服を着たロングポニーシルエット、真野来人が居たのである。「真野さぁーん!どこ行ってたんすかーっ!大変だったんすよもー!」
2015-01-04 17:02:06真野も円子に気づき、駆け寄ってくる。ポニーテールがふわふわとはためく。「いやーごめんごめん。道に迷っちゃってさ!登録一人で大丈夫だった?」「大丈夫じゃないですよ!この西条さんがなければどうなっていたことか!反省してください!」怒る円子!
2015-01-04 17:06:04「後で飯おごるからさ。それで許して?」「二食!」治まる円子!「で、貴女が西条さん。円子がお世話になったみたいでどうも。」礼を言う真野。「なんの!あれくらいお安い御用だ!」無い胸を張る西条。実際にはお安くはなかった。
2015-01-04 17:27:35さて!と真野が手を叩く。「少しおしゃべりしてたい気持ちも有るけど、実は私、まだトイレ行けてなくてさ。円子、案内してもらっていい?」驚く円子!「マジッすか!だから言ったじゃないですか一人で行かないほうがいいって!まあいいっすけどね!」
2015-01-04 17:44:47「それじゃあ西条さん、ありがとうございました!本戦もお互い頑張りましょう!」最後に礼を言って、円子と真野は去っていった。二人の話し声は大きく、廊下で喋る様子が暫くの間聞こえてきた。
2015-01-04 17:49:27「うむ、仲のよい二人であったな!」改めて大控え室を見渡す西条。しかし、中に選手は殆ど居ない。鍋を被った人間が一人と、隅で剣を研ぐ女性が一人。「なんだ、こんなに広い部屋に二人だけか!寂しいな!」
2015-01-04 20:00:27「全く同感ね。」西条の言葉に答えたのは、剣を研いでいた女性だ。上着は黒いタンクトップに下はジーンズの軽装で、髪は前髪を少し残し、後ろで団子状に纏められている。彼女は剣を研ぐのをやめ、西条に右手を差し出した。
2015-01-04 20:16:24「ハロー、西条のお嬢様。アタシは東郷優希。知ってる?アタシの事。有名人なつもりだけど。」手を握り返しながら西条が答える。「うむ、勿論だ!東北の地で竜を殺したという話は聞いているぞ東郷優希殿!」
2015-01-04 20:21:35「いい返事ね。」満足げな笑みを浮かべる優希。彼女は功名心が人一倍強いのだ。「でも、そう言ってくれたのは貴女だけ。さっきのポニーちゃんは私の事知らないし、そこの彼女は一言も喋ってくれないの。他の人達は顔を見せもしないわ。」
2015-01-04 20:25:02優希は大きくため息をつき、続ける。「皆、他の参加者と顔あわせるのが怖いのかしら?なんだか拍子抜けしちゃうわよね。私は臆病者を倒すために来たんじゃないってのに。」「まだ開会式も始まってないぞ!決め付けるには早すぎるのではないか?」宥める西条!
2015-01-04 20:31:46「そうかもしれないけどねぇ。」優希が西条から目線をはずす。いつの間にか鍋人間は居なくなっていた。「ま、このまま待ってても増えそうにないし、一旦私も個室に帰るかな。じゃあねん。」「うむ!また会おう!」
2015-01-04 20:36:39優希が一度伸びをし、部屋を出てこうとする。その時であった。優希が出て行くのと同じタイミングで、部屋に入ろうとした女性が一人。両者とも通路の真ん中を通ろうとしていたため、二人は丁度向かい合う形で、足を止める事になった。
2015-01-04 20:50:57「あら、これは……」優希が目の前の女性を見て、思わず声を漏らす。入ってきたのは、着物を着込んだ長身の女性……この世界に住むものなら、彼女を知らぬ者は殆ど居ないだろう。この地下に光を……つまり、擬似太陽を作り出した、若き天才陰陽師。今大会優勝候補筆頭……白上光その人である。
2015-01-04 21:05:46「どうも、東郷さん。お噂はかねがね、聞いております。申し訳ありませんが、少し、退いてもらっても?」ゆったりとした、しかしよく響く、鈴の音のような声で、白上光が語りかける。その、何とも言えぬ迫力に、優希は思わず従ってしまう。
2015-01-04 22:01:14「ふふ、ありがとうございます。」微笑み、悠然と優希の前を通る光様。「光栄ですね、貴女程の人間にまで名前を知れているなんて。」下がりはしたが、笑みは崩さず、優希が言葉を紡ぐ。「緑竜討伐隊の中でも、目覚しい活躍。むしろ知らないほうがおかしいと言うものです。」
2015-01-04 22:14:16褒められて、やはり満足気に息を吐き出す優希。ふふん!「では今度こそ、私はこれで。あ、そうだ西条さん。言い忘れてたけど、私は貴女に期待してるわ。強い相手が多いほうが、私も楽しいし。じゃ!」最後に西条にエールを飛ばし、今度こそ優希は去っていった。残されたのは、光様と西条のみ。
2015-01-04 22:24:32