<密蜂二人旅 左腕の男(前編)>

実験的にツイッタで書いている小説『★魔法少女血風録★』のまとめです。今回はトンデモ西部時代劇。
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おおらか @noba_nashi

「ムゥ、これは…」忠国は言葉を失った。烏帽子には穴が開いていた。穴の周りは焼け焦げて黒くなっている。そしてそれは太刀でも槍でも、そして矢でも開けることはできない綺麗な円を描いていた。24

2014-11-28 23:46:50
おおらか @noba_nashi

-黒牛森- (なんで撃ち殺さなかった) 見上げるほどの大木に彼女は囲まれていた。頭上は生い茂ったその枝で覆われていて、わずかばかりに差し込む陽光は弱々しかった。薄暗い森の中で、鳥の鳴き声はよく響いた。爽やかな歌声。 (密!聞いてンのかよう!) そして、彼の声もよく響いた。25

2014-11-28 23:54:52
おおらか @noba_nashi

ただ、彼の声はどこにいたって彼女の頭には響くのだ。だからこれはあまり森の中と関係はない。しかし彼とは? 森には彼女の姿しかない。しかし声だけは聞こえる。甲高い成人男性の声だ。 人間の体ほどもある太い木の根をまたぎながら、密と呼ばれた女は森の奥へと入っていく。26

2014-11-28 23:56:19
おおらか @noba_nashi

(おーい) 「…ハチノス、少し静かにして」 彼、ハチノスに向かって密はうんざりした顔で答えた。 (どーして撃ち殺さなかった) ハチノスの声はどういうわけか彼女の元から発せられている。彼女が二つの声色を使い分けて会話を演じている?ということは彼女は狂人の類?いや、それは誤解だ。27

2014-11-29 00:02:55
おおらか @noba_nashi

「…殺す必要がないから」 (俺はあったと思うがね) 「…あ、そう」 (あ、そうってなあ!グエッ) 密は急に這いつくばるようにして、地面をジッと眺めた。やはり狂人なのか。「…獣の足跡ばかり。人の足跡はない」衣服が汚れることも気にせず、彼女はそのトカゲの如き態勢を崩さず言った。28

2014-11-29 00:06:18
おおらか @noba_nashi

「…たくさん足跡はあるのに、肝心の動物たちはいない。ねえ、どう思う?」 (絶対に仲間を呼ばれるぞ) 密はため息をついて、体を起こした。それから胸元の銀色の髑髏を手に取って、その顔を自分へ向けさせた。 「…私、質問してる」 (今はその話じゃねーな) すると髑髏が、答えた!29

2014-11-29 00:10:35
おおらか @noba_nashi

顎をカクカクと動かしながら、髑髏ははっきりと言葉を発している。そう、彼がハチノスなのだ。 (密、よく聞けよ。お前が撃ち殺さなかったせいで、この森に大勢で押しかけられたらどーすんだ、アァ?)髑髏は流暢に言葉を紡ぐ(そうなったら、おめえ、もっとたくさん撃ち殺すことになるんだぜ)30

2014-11-29 00:14:13
おおらか @noba_nashi

「…それまでに終わらせるし」密が淡々と答えるとハチノスはさらに声を大きくした。 (そういうこと言ってんじゃねーよ!僅かな誤りが大きな破滅に繋がるってことを言ってんだ!オレ!) 「…必要がなければあたしは引かない。殺さない」 (口上だけはいっちょまえだな!このチンチクリン!)31

2014-11-29 00:16:40
おおらか @noba_nashi

「…チンチク」 (なあ、密よぉ。お前の信条は分かるぜ。だがそれと世の理が必ずしも一致するとは…) 「…チンチク」 密が冷たい目で髑髏を指で小突いた。 (アイタア!) 「…チンチクじゃない。取り消せ」取り消せと繰り返しながら密は何度も髑髏を小突いたが、ふとその手が止まった。32

2014-11-29 00:22:41
おおらか @noba_nashi

次の瞬間、地鳴りのような音が森に響き渡った。大木がビリビリと震え、地面の落ち葉が浮き上がる。音は十秒ほどで止まった。それと同時に密は姿勢を低くしながら、森を駆け抜けていた。先ほどまでのやり取りが嘘のように二人は無言であった。やがて前方に無惨に倒された木々が見えた。33

2014-11-29 00:25:50
おおらか @noba_nashi

彼女は足を止めた。その惨状は明らかに人の手によるものではなかった。なぎ倒された木々、さらにそこかしこに獣の血と肉片が飛び散っている。密は厳しい目つきでそれらを眺めた。34

2014-11-29 00:27:23
おおらか @noba_nashi

作られたばかりの獣道は、異空へと続く洞穴のように真っ暗であった。 (さっきの質問の答えだがな) 静かな口調でハチノスが言った。 (みんな食われちまったんだろうよ。この先にいる奴に) 密は何も答えなかった。黙って、ただ真っ直ぐに獣道へと足を進めた。35

2014-11-29 00:30:29
おおらか @noba_nashi

-荒野の拠点- 阿蘇忠国は戻った三人の兵にまずたらふく水を飲ませた。喉が潤えば気持ちも落ち着き、口も滑りも良くなる。実際、水を飲み終えた頃には、三人の兵の顔や体の強張りが程よくほぐれているように見えた。それから忠国は三人の兵と共に大将のところへと向かった。36

2014-11-29 01:16:08
おおらか @noba_nashi

屋敷では男たちが車座になって座っていた。皆、それぞれ荒々しい平家武者であったがその中に一際目を引く男がいた。37

2014-11-29 01:17:20
おおらか @noba_nashi

まず、彼は七尺つまり2メートルを越す大男であった。細身のしなやかな筋肉のついた体つきで、どういうわけか左腕が右腕よりも四寸つまり12センチメートルも長い。そして、その左腕が男の体の中で最も逞しかった。一見して左右非対称な体躯でありながら、そこには独特の美が存在していた。38

2014-11-29 01:18:22
おおらか @noba_nashi

「八郎様」屋敷に到着した忠国はその男の前に座り、深々と頭を下げた。 「おう、忠国」年の頃、十五、六。この場でいちばん若い彼こそが阿蘇忠国が仕える大将、ここに集う者どもを束ねし男、鎮西八郎であった。39

2014-11-29 01:23:58
おおらか @noba_nashi

なんか魔法少女感がない?安心するといい、これから先しばらくない

2014-11-29 01:30:10
おおらか @noba_nashi

鎮西八郎(ちんぜいはちろう)

2014-11-29 01:31:39
おおらか @noba_nashi

(あらすじ。荒野を行く魔法少女の密と言葉を話す首飾りのハチノスは、黒牛森へとたどり着き、人を襲うという黒牛を追い、獣道へと飛び込んだ。一方その頃、密が逃がした兵士たちから、妖術を使う女の話を聞いた武士の阿蘇忠国は、胸騒ぎを覚え、自分たちの大将である鎮西八郎の元へと向かった)

2014-12-02 00:42:23
おおらか @noba_nashi

(銃と弓、魔法少女と武士、密と八郎、二人の運命がゆるやかに交わり始める)

2014-12-02 00:44:56
おおらか @noba_nashi

★密蜂二人旅 左腕の男★

2014-12-02 00:45:44
おおらか @noba_nashi

「どうしたんだ?おっかない顔をして」 鎮西八郎は快活に笑った。 「今日は戦は無しだってお前が言ったんだぜ」 「戦より厄介な事が起こるやもしれませぬ」 阿蘇忠国は頭を下げたままそう答えた。 「そりゃ、どういうことだ?」 忠国の奥から三人の兵が八郎の前へとやってきて、座った。40

2014-12-02 00:48:04
おおらか @noba_nashi

そして彼らは荒野で自分達が体験したことを話しはじめた。彼らはよく話した。忠国が水をたらふく飲ませたことは間違いではなかった。 荒野で出会った奇妙な女について、そして女の怖ろしい妖術について。 八郎は静かにその話を聞いていた。そして男たちの話が終わると、すっくと立ち上がった。41

2014-12-02 00:49:00
おおらか @noba_nashi

「話はよく分かったぜ。それでな、お前たちに二つ言っておくことがあるんだ」そう言うと八郎は三人の兵をキッと睨みつけ、右手の拳骨を思い切りその頭に落っことしていった。 「グェー!」「グェー!」「グェー!」 「一つ、女にやっつけられて泣いて帰ってくる奴があるか!馬鹿!」42

2014-12-02 00:50:27
おおらか @noba_nashi

その怒声にビリビリと屋敷が震えた。三人の兵は全員ひっくり返った。それから八郎はフゥーっと息を吐いて、どっかりとその場に座ると、今度は一転して優しい眼差しで兵を三人とも引き起こした。そして、その長い左腕を彼らの背後に回して自分の胸に抱き寄せた。43

2014-12-02 00:51:33
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