不知火に落ち度はない お正月スペシャル2015 その3

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yamoto @yamoto

「高き所より失礼。このような場所まで狩りですか?」 「お主は、長江の。そちらこそ旅かの?」 「大陸で人に追わるるに飽き、羽根を伸ばしている所で」 助かった。こやつなら耳聡い。 人の言葉にも詳しいわかるはず。 なにせ、人に追われる身なのだから。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:26:16
yamoto @yamoto

「ジラアチなる物をしらぬか?」 「ふむ。赤の旗を掲げる国の話ですかな?」 待て待て、それは故郷もさほど変わらぬ。 「オヤ失敬。常に酒の匂いのする熊の如き人の方です」 「あちらの国か」 脳裏に丹陽の御子の側にある姿が浮かぶ。 あれは実に酒臭かった。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:30:16
yamoto @yamoto

「しかし、それは願いを示す言葉。何か願い事を叶えるために、探しものを?」 「わからぬ。丹陽の御子は雪の中を掘り返すばかりよ。儂の鼻には何も感じなかった」 ふむ。梟は頷き。 「さすれば、それは絵空事ではありますまいか」 「左様か」 「左様で」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:34:22
yamoto @yamoto

「人の子は、お伽話とやらでそうすることがあるようです」 「何とも。では徒労ではないか」 「左様で。連れ帰るのが得策かと」 ふむ、それは一理ある。 これ以上彷徨えば、御子といえど命に関わる。 丹陽の御子とて、同じである。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:36:25
yamoto @yamoto

されど。 しかし。 「では、タクヒ。願いの叶うものは何処に無いか」 「ほっ?」 白梟が驚きのような、あるいは笑いのような声で鳴く。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:43:27
yamoto @yamoto

「大老、気は確かですか?」 「生憎呆けは来ておらぬ。儂の心配よりお主の心配をせい、鳥頭め」 酷いことを仰る、と梟はうそぶき。 「では、ここより百里先程の谷底に、何やら星辰より落ちたものがありますれば」 「それは願いを叶えるのか?」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:47:50
yamoto @yamoto

「わかりませぬ。ただ、守護はすでにあるようです」 「よかろう。百里先、南方であるな」 「ええ。ただしお気をつけて。羆めが──」 ほう。 「儂の心配か?」 言うとくつくつと、梟は笑い。 「相手方の心配をせねばなりますまい」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:49:33
yamoto @yamoto

「しかし、それほどこの人の子に何かあるのですかな?」 「ふむ。丹陽の御子であるが、丹陽そのものより恩義はない」 しかし、これは紛れも無く丹陽なのだ。 「それに、先ほど貢物をもろうてな」 「ほう! 大老の気を引くほどのものですか」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:51:59
yamoto @yamoto

「いや、まっこと酷い味の物だったわい」 「は──?」 なにせ、柔らかい紙切れである。 とても食えたものではない。 次は馬皮の、食い物かと思えば入れ物である。 底には鉄が仕込まれてある始末。 「あれで気を引くなど正気とは思えぬ」 「……は、はあ」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:54:59
yamoto @yamoto

「しかし、譲るというのだから貰っておいた。義は果たさねばなるまいて」 雪を踏み、空を見る。 風は幸いにして、南に吹いている。 「タクヒよ、戻るまで様子見を任せる」 「お早いお帰りをお待ちしますよ」 「なに、二刻も掛からぬわ。この『けちんぼ』め」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:57:29
yamoto @yamoto

そうして儂は、雪を踏み、駆ける。 まずは地面にある雪。 次は空にある雪。 後は、風を踏んで走ればよい。 それだけで百里程度は、半刻も要らぬ。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 02:59:34
yamoto @yamoto

なに、大熊猫とは生来鈍重なる生物ではないのか、と? いやいや。それは誤解である。 一部を見ればそうかも知れぬ。だが真相は異なる。 子供ですら動きは早く、大人ともなれば車というアレに並んで走る事ぐらいできる。 その必要がないだけである。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:04:40
yamoto @yamoto

儂は台湾生まれであるが、福建・深センなどの奥深くある者と同様、鳥と同じ程度には飛べる。 ひとえににそれは我らの、持ち得た特性にある。 身は陰陽一体にして、陰陽相克。 食らうは竹。飲むは水のみ。 即ち、皆仙道を心得ておる。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:08:36
yamoto @yamoto

尤も、それは知らねば得られぬことでもあるが。 何やら写真とやらであったはずである。 『笹食ってる場合じゃねえ』と。 あれこそ、仙術を軽く使った時の動きなのである。 元来なら目に捉えられることもなかろう。 あれは修行不足であるな。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:12:26
yamoto @yamoto

もっとも、それを知る故に人が真似、そして人は我らを狩るようになった。 毛皮を求めたと人が伝えるが、実際は術の会得と不老長寿にあったのだ。 ほんの少し食うものを制し、天地に身を委ねれば良いことを。 人とは全く短絡である。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:15:16
yamoto @yamoto

そして、得た不老長寿を、彼らが有効に使ったかと思えばさにあらず。 まるで紙くず同然に捨てたのだから救われぬ。 そうして今はとうとう、海妖に襲われるに至る。 それでも懲りずに滅ぼさんと戦うのだからなんとも、なんとも。 仙術を紐解くものも居た気はする。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:19:54
yamoto @yamoto

さてはて、雲にたどり着けばもう一息。 雲の上を駆け、飛び渡る。 幾つか雲の大船を渡れば、そら。 視界の中に小さな谷が見える。 「成程、タクヒの言う通り、星辰の落ちた痕であるな」 ここからでも見えるほど、地は抉れていた。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:22:43
yamoto @yamoto

「どれ、一つ拾って帰るとしよう」 雲を蹴って雪を落とす。 帰りのために、多めに雲を蹴っておくのも忘れぬこととする。 後はそれに乗り、ゆるり谷底へ──。 河の中にある、地のえぐれた場所へと着地した。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:26:20
yamoto @yamoto

そうして、儂は、そこにあるものに出会う。 身の丈は儂より遥かに大きい。 目方もおそらく、儂の数倍はあろうかという、大羆である。 背に苔や草が生えている。 なるほど、これは主である。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:28:39
yamoto @yamoto

「何用か、大陸の御方」 「ほう、分かるか。この地の主殿よ」 低い声。もしやこれは、儂より年上かも知れぬ。 あるいは妖と呼ばれるものか。 ともあれ、機嫌を損ねるのは得策と言えぬ相手と見受ける。 「なに。ここに落ちた星辰を一つ分けてはくれまいかと」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:31:09
yamoto @yamoto

「ならぬ」 「ほう」 短く。はっきりと。 断られてしまった。 「そなたが用いるのではなかろう?」 「うむ、ご明察。なぜ分かる?」 「人の匂いがする。これは人に渡せるものではない」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:32:20
yamoto @yamoto

おっと。 沐浴でもしておけば良かったか。 この笹の匂いでも、誤魔化しきれなんだか。 あるいは魂魄の匂いを嗅いだのかも知れぬ。 「そなたが用いるならば許したろうが、到底人には渡せぬ」 「つまりこれは本物であると」 「如何にも」 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:36:07
yamoto @yamoto

「なるほど。では──そなたは使わぬのか?」 「使わぬ」 短く否定が帰ってくる。 「使えばおそらく、世を歪める。しかし、放ってもおけぬ」 「良い主よ」 あれが鎮座した場所にこそ、その星辰はあるのだろう。 そして幾年それを守ったか計り知れぬ。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:39:56
yamoto @yamoto

「儂が使うなら良いのか?」 再度問う。 「そなたならば好きに使え。ただし──誰かに願いが譲れるものではない」 やれやれ。 なんとも七面倒臭い代物よ。 天の零したものは大抵そうである。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:41:47
yamoto @yamoto

「ならば儂は尻尾を巻いて、帰る方が良さそうだが──」 背を向ける。襲ってくる気配はない。 儂は、そのまま問うことにした。 「なあ、主殿よ」 何か、と背で首を傾げる気配。 「そうして座っておるのも飽いたろう。運動に付き合ってみんかね?」 ──。 #不知火に落ち度はない

2015-01-10 03:45:11
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