不知火に落ち度はない　３０（不知火）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

心持ち楽しそうに不知火は言う。 それに対し、俺は目を閉じてしまった。 思い出、というほどの思い出ではない。 やってきたときの不知火の様子を思い出したんだ。 長門が秘書艦をやめた後しばらくだっけな、あれ。 やー、いろいろ大変でしたよこの山猫相手は。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

まず、連携を問題として飛龍・蒼龍に喧嘩を売る。 これが中々に凄まじくてな。 あの姉妹相手に真っ向から、食いついてやがるわけですよこの山猫。 向こうとしてはドン引きですよ。仮にもエース級の待遇だったんだから。 だいたい航空組は優遇されるしな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

でもって演習やらせてみりゃ、まさに口ほどでもない。 こりゃ楽勝かと思ってた姉妹がいたわけなんだが。 そっから黙ってなかったのがこの不知火。 勝つまで演習するため、噛み付き続けたのである。 しまいにゃ、あの姉妹が折れた。 そこまでやった。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして遠慮無くしわ寄せがおじさんところにくるわけです。 他にも潜水艦組が気に食わない新入りをつつくだろ？ 倍返しにやり返すだろ。 こいつ一匹飼うのにどんだけ苦労するのかと悩んだわ。 とりあえず原因になったでち公には遠征行ってもらったけど。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

じゃ、苦労は俺の方で吸収しようってことで仕事漬けにしようと、引きずり込んだんだが。 まあ、見事に成長して今ではこんなプチドーベルマンまで駆け上がりました。 ま、そんときの秘書艦が根ぇ上げたってのあるけどな。 あれだけ振り回されりゃそりゃな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あー、しかし手ぇ気持ちいいな。 こうしてると、長門に切って貰ってた時代が懐かしい。 自室だったけどな、場所。 ハイストップ思い出中断。 今は不知火に切ってもらってるんです。 俺の過去はサヨナラランナウェイなのです。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「司令、少し頭を上げてください」 「こうか？」 ぽよ ファッ？！ 今なんか柔らかい感触あったぞ！？ あ、じわじわあったかい。後頭部がじわじわあったかい。 つまりこれってあれですか。あててんのよですか。 「司令、何か？」 「いや、なんもねえよ？」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

いや。あれ？ こんな感触になるぐらいだっけか、不知火のアレ。 よく思い出してみよう。 最近の記憶はあの車内の── はいストーップ！ そこまでだ。 不知火はなんも意識してないし、俺も意識してない。 KENZENであるべきです。 散髪でしかないのです。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「もう少し頭を下げてもらえますか？」 「こうか？」 あったかさが２０％上がりました。 不知火さん？ 狙ってねえか、もしかして。 ちら、と見てみると不知火は真剣そのものである。 あー、ごめん。俺の邪念だわこれ。 ロリコンじゃないんだぞ、兵頭一也。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そんな緊張せんでもいいぞ。リラックスリラックス」 「不知火の髪の毛を切ってみますか、今度」 バリカンでか？ 俺バリカンの使い方しか知らないんだぞ。 「やめとく。坊主になっちまう」 「司令は不器用なのですね」 くす、と笑った。 なにそのいい顔。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あー。これアレか。 なんか空気がゆるくなってると思ったら。 不知火の警戒レベルが下がってるんだ。 緊張つっても、戦闘下のことじゃないからな。 なーるほど。 じゃ、悪い不知火。 漬け込ませてもらうことにするわ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「不知火、そのまま聞いてくれるか？」 「何ですか、司令」 しょき、しょき。 徐々に頭の脇が涼しくなっていく。 ホント丁寧にやってんだな。 「秘書艦、交代させる気で俺はいる」 「──」 ぴた、と、手が止まった。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

不知火の目から、さっきまでの空気は消えていた。 じっと、こちらを伺う山猫の目に見えた。 おいおい、物騒な顔をしなさんなっての。 「誰に、でしょうか」 ほう。そこやっぱ気になるか。 後釜が誰かってのは大事だもんな。 「何故、とは聞かないんだな」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それは相手次第ですから」 んむ。その判断は正しいぞ不知火。 大分その辺読み取れるようになってたんだな。 おじさんは感心しましたし、嬉しいですぞー。 「お前には行ってなかったが。早霜って言う、龍田の出してくる艦娘だ」 「はや、しも」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

たどたどしく、不知火は言った。 その目にうつる感情は当惑か、困惑か。 そりゃそうだ。 こいつの艤装記憶だとおそらくは── 「どのような艦娘なのでしょうか」 「気になるなら俺のPCにアクセスしてみろ。貞子みたいな感じの女だよ」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

写真だと、大方そんなイメージ。 顔を半分以上隠したスダレ髪に、口元の笑み。 考えの読めない目つきをした不気味な女だ。 歳は存外若いが、その体重と身長のバランスには驚いた。 170cmオーバー、体重は40kgちょい。 軍務についてる奴の体じゃねえ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

死神、なんて言葉も頭をよぎる。そんな不吉な見た目のやつである。 経歴も実に生臭い。 程よく経歴を洗ってみると、秘書艦をやってた時代の提督は『更迭』されている。 ボルネオだったらよかったんだが、なんと精神病院だったりする。 何やったのかつかめねえ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そんなとんでもなくきな臭いやつを送り込んでくるんだ。 当然据える席は秘書艦ぐらいしかねえのである。 常に監視する必要性が出てくる。 油断など、できるもんか。 アウターヘブン謹製、龍田子飼いの兵隊だもんな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「理屈の上では納得しました。現状秘書艦に据えるのが最善なのでしょう」 「だろ。火の着いた火薬投げ込んで来てるんだよ」 ったく龍田め。年々やり口が悪質化してきてやがる。 昔の可愛い龍田はもういないのである。 「ですが、本音の上では納得していません」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ま、そう来るな。 手は他に幾つもある──ように見える。 例えば不知火が監視する。 或いは陽炎が監視する。 暇してるメスゴリラが監視する──のはなしな。 あいつ、ほっといたら早霜サンドバッグにしてました、とかありそう。 マジ怖い。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

だが、そこに大前提としてもう一つの問題が出てきてる。 「不知火。お前の戦闘航海時間、今月10時間切ってる」 「それは──」 「先月もだ。先々月もな」 これは俺の無能である。 艦娘をサビさせたのだ。 よりによって鬼札の水雷戦隊のな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それは不知火の能力不足を指摘してるのでしょうか。少々の実戦は──」 「お前はよくやってると思う。全部俺の無能のせいだ」 声が、わずかに震えていた。 不知火は嘘を、ついたのかもしれない。 実戦不足は経験で埋められる。 そうなりゃよかったんだがな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「納得は、できません」 「だろうな」 だからこそ、俺は現実を教える必要性が出てきているのだ。 そして同時に、この基地の状況を変えるキーも用意している。 きったねえ大人だよなー、俺。 思いついたとき自分をちょい嫌いになりましたよ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「既に新しい水雷戦隊の構成は、指揮官に伝えてある」 「秘書艦である不知火に黙ってですか」 そうだ。 「お前はその構成員となりみっちり訓練と、実戦の両方を組んでもらう」 「不知火の意思を無視してですか」 そうだ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「指揮官は──神通だ」 「神通……教官ですか？」 動きが止まった。 そういうこと。お前の先生だ。 きっと、俺は恨まれるな。 だって黒潮と陽炎の名前も書いてるもん、その水雷戦隊。 「受けたのですか」 「頼み込んだ」 ズルしてな。 #不知火に落ち度はない