「ツー・シップス・オブ・ムーンライト・ナイト」

第2次渾作戦開始直前、春雨は魂に訴えかける声を聴く…
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

スターン!その時!試合後の空気を切り裂くように道場の門が勢い良く開かれる!道場内にいる全員が、闖入者へと視線を向けた。そこに居たのは、水色のグラデーションの桃色の髪、白帽子と黒服の少女。「あなたは」神通が不思議そうに闖入者を、即ち春雨を見た。 32

2015-02-26 01:38:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

道場内の見学者達も、春雨の放つ只ならぬアトモスフィアにたじろぎ、騒めいた。この温和な少女が鬼気迫らんとばかりに息を切らせてやってきたとは、一体何事か?「ハァー…ハァー…」息を切らせ、俯きがちになりながらも、目を動かす。そして春雨は道場内のリカルドを見つけた。33

2015-02-26 01:43:18
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「あの!リカルド提督!」春雨はリカルドに殆ど叫ぶように声を掛けた。「俺に用、か?」リカルドは何事かと訝しんだ。春雨とは若干の面識があった。だが、果たしてこのように焦るとは何事であろうか?「はい・・・あの…」 春雨は少し言いよどんだ。やがて意を決し、叫んだ。 34

2015-02-26 01:47:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「私を、第2次渾作戦に参加させてください!」 35

2015-02-26 01:47:30
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

春雨の叫びを受け、水を打ったかのように、道場内は静まり返った。「春雨さん、あなた…」神通は困惑し、春雨を見た。目の前にいる少女は今何と言ったか?大規模作戦への編成希望?この大人しい少女が?如何なる心境の変化か?「あー」リカルドは周囲を見渡し、右手で顎髭を撫で、思案した。 36

2015-02-26 01:49:00
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

川内と神通がリカルドに視線を向ける。やがてリカルドは思案を止め、春雨の目を見た。しばしの沈黙。やがて、リカルドはため息をつき、口を開いた。「着替えてくる。俺の執務室で待ってろ。そこで話を聞く」 37

2015-02-26 01:50:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

臨時作戦本部内のリカルドの執務室に於いて、春雨とリカルドは応接用テーブルを挟み、座して向かい合っていた。「どうぞ」「すまんな」リカルドの秘書艦たる大淀が二人の前に熱い茶を注いだ湯呑を置く。リカルドは湯呑を手に取り、グイっと半ば程茶を飲んだ。春雨は手を付けようとしない。 39

2015-02-26 01:51:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「で、だ」リカルドは湯呑を置き、話を切り出す。春雨はビクッと体を震わせた。「ビビんな。別に取って食おうってわけじゃない」「は、はい」その様子を見て、大淀は生暖かい視線をリカルドに送った。「ヌゥー…」リカルドは少しばかり姿勢を正した。 40

2015-02-26 01:54:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

姿勢を正し、リカルドは改めて春雨を見た。齢は十代の後半だろうか?纏うアトモスフィアは少々気弱と言ったところであろうか。少なくとも、本来は我を押し通す性格ではあるまい。では、何故そんな少女が先程のような行動を?リカルドは疑念を抱いた。「で、第2次渾作戦に参加したい、んだよな?」41

2015-02-26 01:56:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

確認を込めてリカルドは問う。「はい」「確かにまだメンツは確定させちゃいないが」リカルドは再び春雨の目を見た。真摯な、真っ直ぐな紅い目だ。戦士のアトモスフィアを秘めた眼であった。だが、何かが引っ掛かった。目の奥に、チラチラと焦燥やある種の強迫観念が見えたからだ。 42

2015-02-26 01:57:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「一応、理由聞いていいか?」「“声”が、聞こえたんです」「声?」思わぬ返答にリカルドは訝しんだ。書類整理作業をしていた大淀も、一瞬動きを止める。「何が聞こえたんだ?」リカルドは平静を保ち、春雨に問うた。そして、内心ハッとした。春雨の目から、青黒い光が漏れだしているのだ。 43

2015-02-26 01:59:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「はい。『こっちに来い。ここまで来い』と言う声が、聞こえてきたんです。それを聞いたら私、居ても立っても居られなくて」春雨は焦燥に満ちた声でリカルドの問いに答えた。「その声、他の奴には聞こえてたか?」リカルドは質問を続ける。「聞こえて無かったと思います、たぶん」「そうか」 44

2015-02-26 02:03:51
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「お願いします!私行かなきゃいけないと思うんです!」「その“声”の主の所までか?」「はい!」リカルドは暫し思案した。春雨は固唾を飲んでリカルドの答えを待った。リカルドは再び春雨の目を見た。そこには先程とは違う強い紅の光が満ちていた。やがて、リカルドは口を開いた。 45

2015-02-26 02:05:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「いいだろう」「本当ですか!」思わず春雨は立ち上がった。「ああ、編成に組み込んでおく。正式な通達は追って伝える。今日はもう休め」「はい!ありがとうございます!では、失礼しました」そう言うと、春雨は一礼し、執務室から退出した。 46

2015-02-26 02:06:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「宜しかったのですか?」春雨が退出したのを確認し、大淀はリカルドに問う。「どうも、尋常ではありませんでしたが」「恐らくそれは、本人も気づいてるんだろ」リカルドは立ち上がり、天井を見上げた。「気付いて尚、自分の意志で行動することを選択した。なら、俺はそれを止めん」 47

2015-02-26 02:08:06
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ですが、何か変でしたよ?」大淀の疑念は晴れない。「そうだな。…なぁ、お前さんはどう思う?」リカルドは大淀ではない誰かに呼びかけた。大淀もリカルドと同じ場所へ、天井へと視線を向ける。スターン!「イヤーッ!」その瞬間、天井の一部が開き、そこから何者かが回転しつつ降り立つ! 48

2015-02-26 02:09:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

片膝を突いて降り立つは二つ括りの茶髪の少女。その身を特Ⅰ型駆逐艦娘の証たる青と白のセーラー服に身を包むその少女を、二人は知っていた。「白雪さん、いらっしゃったんですね」「夜分遅く済みません、大淀さん」白雪は立ち上がり、大淀に一礼した後、リカルドに視線を向けた。 49

2015-02-26 02:12:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「まさか、気付かれていたとは。不覚です」「流石にあんな珍事があった後だ。耳聡いお前さんが見逃す理由が無いだろ」ニヤリと、リカルドは口角を上げた。その表情を見て、白雪は面白くない顔をした。「ただの狩り狂いのくせに」「言ってくれるな仕事の虫忍者め」「忍者ではありません」 50

2015-02-26 02:15:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「仕事の虫は否定しろよ」リカルドは呆れた様に言った。白雪は、大本営から派遣された提督監視者である。艦娘でありながら、内部の不祥事や人類への裏切り行為を虎視眈々と見張る往時の陸の憲兵めいた役柄を持った少女であった。 51

2015-02-26 02:16:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

彼女の現在の任務は、リカルドの監視であった。現代的な社会秩序に囚われぬ思考を持ちながら、並の兵力では御しきれぬリカルドは、宛ら扱いを誤れば味方に牙を剥く危険兵器として扱われていた。尤も、リカルド自身には人類へ反旗を翻す意欲も無ければ意志もないため、ある種杞憂ではあったが。 52

2015-02-26 02:17:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「で、お前さんの意見を聞きたい。春雨のあの状況、どう見る?」リカルドはソファーに座り、真剣な目で白雪を見た。「端的に言うなら、干渉を受けてますね」「干渉…思考へのか?」「推測に過ぎませんが。あ、お茶いただきますね」白雪は、春雨が手を付けなかった湯呑を手に取り、茶を啜る。 53

2015-02-26 02:18:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「第2次作戦で確認されてる敵旗艦のことは、知ってますよね?」湯呑を置き、白雪は問うた。「ああ、駆逐棲姫って奴だろ?棲姫級初の駆逐艦分類って話は聞いたが」「恐らく、春雨を呼んでいるのはそいつです」「…根拠は?」白雪は、懐から1枚の写真を取り出し、リカルドに手渡した。 54

2015-02-26 02:20:13
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「先見偵察隊が入手し、つい先ほど現像した駆逐棲姫の写真です。鮮明に確認できるのがこれしかありませんでしたが」リカルドは写真を受け取り、被写体を改める。「コイツは・・・」リカルドは驚愕の声を漏らす。そこに映っていたのは、まるで春雨をネガ反転したかのような半機の少女であった。 55

2015-02-26 02:22:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「史実の第2次渾作戦に於いて、轟沈したのは“春雨”ただ1隻」白雪は淡々と言葉を続ける。「駆逐棲姫の大元は間違いなく“春雨”でしょう。しかも棲姫級となれば分霊レベルでは済まない。“春雨”の船魂そのものが、深海棲艦になったのではないか。赤レンガはそう判断しています」 56

2015-02-26 02:22:50
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