「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #3

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
ニンジャスレイヤー
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Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」#3
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ネオサイタマ中部、アヤセ・ジャンクション。ここはネオサイタマ湾から続く長大な運河、タマガワの終着点であり、大小無数の水路がショウギ盤のごとく張り巡らされている。ヨロシサン、オムラ、スゴイテック……日本屈指のメガコーポであれば、このエリアにドックやプラントを複数保有しているものだ。
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ここに暮らす人口の八割が工場労働者や水運労働者、二割が知的サラリマンである。メガコーポの施設が立ち並ぶとあって、海賊行為やテロ行為も多い。プラントの排気で暗い黄土色に染まった夜空には、ネオサイタマ市警のマッポツェッペリンが何隻も飛び、威圧的な漢字サーチライトで地上を照らしていた。
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江戸時代から続く風邪薬メーカー、ヨロシサン製薬の第1プラントは、その北西部にある。第1とはいえ、規模はさほど大きくない。マッシヴ・オスモウスタジアム12個分ほどだ。カンバンには「ユタンポ・プラント」「歴史的な」と書かれ、ここが魅力的な施設ではないことを過剰なほどアピールしていた。
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第1プラントのE7非常水路口は、最新型トミーガンとチギリキで武装する2人の傭兵崩れによって守られている。小型の屋形船が1隻通れるかどうかの細い水路で、入口の上には「非常用」と書かれた紫色のネオンサインがバチバチと明滅していた。平時、トリイ型の柵によって非常水路は封鎖されている。
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大型コンテナ屋形船が、廃水と重油で汚された黒い水面を割りながら非常口前の大水路を通り過ぎると、得体の知れぬウナギめいた大魚が息継ぎに頭を出した。傭兵がトミーガンの引き金を引き、魚が弾け飛ぶ。 「ナムサン! 今日もシケてるぜ、アナーキストひとり来ねえ」 「湾岸警備時代が恋しいな」
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ナムアミダブツ! 知的サラリマンであれば、この無機質な殺戮の光景を見て、陰鬱なハイクを呼んだことだろう。だが殺人感覚が麻痺した傭兵たちには、無意味に魚をネギトロに変えることなど、チャメシ・インシデントなのである。 「アイエーエエエエエエエ!」どこからか、突如奇声が聞こえてきた。
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Tシャツ姿の男が大型コンテナ屋形船のカワラ屋根から飛び降りたのだ。酩酊したサラリマンなどではない。彼のTシャツには「悪い政府だ」と書かれていた。コワイ! この男は恐るべきアナーキストだ! 空中で走るように足を動かしながら、両手に握った粗末な拳銃で眼下の傭兵たちへと闇雲に発砲する。
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傭兵たちは最低限の身のこなしで銃弾を回避した後、非常口前の足場に着地した男をチギリキで滅多打ちにする。チギリキとは、長柄の日本式モーニングスターだ。「アイエエエエ!」アナーキストは一瞬にしてネギトロへと変わり、そのまま水路に蹴り落とされ沈む。インガオホー! 何たるマッポー的光景!
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「アナーキストじゃ駄目だな」チョンマゲ頭の傭兵が、バリキドリンクを三本一気に飲み干しながら言う「湾岸警備に戻らねえか? 時給は落ちるが、スリルがあった」。「絶対に嫌だね」と、両肘から先を戦闘義手化したもう一人の傭兵が応える。彼の手は、湾岸警備時代にマグロ爆弾に持っていかれたのだ。
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「……ん、あれは?」サイバネ義手が、ぎこちない指先で、接近してくる小型屋形船を示した。 「ああ? 出張オイランサービスだろう?」と、チョンマゲ。 確かに、その屋形船の舳先を見やれば金髪ゲイシャが座布団に座ってキセルを吹かし、耐酸性雨笠を被った船頭がバイオバンブーで舵を取っていた。
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船の上にあるオヤドのカワラ屋根には、「ほとんど違法行為」「激しく前後する」「実際安い」と書かれた刺激的なミンチョ体ネオンが瞬く。ショウジ戸の奥からはザゼン・アンヴィエント系の電子音が漏れ、その音にあわせて金髪ゲイシャが艶めかしく細い煙を吐いた。二人の傭兵は、にこやかに手を振った。
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「それ以上近寄るな、この先は私有地だ」チョンマゲがにやにやしながら銃を構えた。 「オイデヤス! ガガイケ専務=サンの注文よ」とゲイシャが流暢な日本語で応える。傭兵たちは彼女の大理石のように白く滑らかな肌を見て、ごくりと生唾を飲んだ。鎖国下の日本では珍しい、コーカソイド人種である。
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「俺はこの女の胸が本物かどうか調べるから、お前は事務所に確認を取れ」チョンマゲが銃口を相方に突きつけながら言う「その手じゃ無理だろ」。サイバネ義手は渋々、壁に埋め込まれたIRC端末を操作する。ゲイシャはキモノから溢れ出しそうな胸を突き出し、傭兵のボディチェックを甘んじて受けた。
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「いつかお前のバイオLAN端子をファックしてやる」サイバネ義手は相方に対し毒づきながら、IRC端末で事務所と連絡を取る。「確かにガガイケ=サンと思われるアカウントが、十分ほど前に出張サービスをオーダーした記録があるぜ。だから頼むから代わってくれ」とサイバネ義手は悲痛な声をあげた。
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「残念だな、今終わったところだ」チョンマゲは屋形船に対しにこやかに通れの合図を出す。「船頭はチェックしないのか?」とサイバネ義手。「俺にそっちの趣味はない」と、チョンマゲは厳しい顔を作って相方に銃口を向ける。「オーライ」サイバネ義手は吐き捨て、ハンドルを回してトリイ型柵を下げた。
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屋形船はしめやかに非常水路内へと進み、まんまと第1プラント内への潜入を果たした。 「専務のアカウントをハッキングしたのか」と、船頭が低く重い声で言う。笠を目深に被っていたので気付かれなかったが、その下には赤黒いニンジャ装束と、「忍」「殺」の文字が彫られた鋼鉄メンポが隠されていた。
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「この薄汚いユタンポ・プラント内に、本当にヨロシサン製薬のトップシークレットが隠されているのか?」とニンジャスレイヤーは続ける。 「ええ、間違いないわ」と、オヤドの中からナンシーの声「敵を欺くには、まず味方から欺くべし……平安時代の哲学者ミヤモト・マサシが残したコトワザの通りよ」
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それを裏付けるように、非常水路の壁にはズバリ中毒者の毛細血管を思わせる錆び果てたパイプが無数に並び、ユタンポにはおそよ不似合いな蛍光緑のバイオ廃水を滴らせていた。彼女はキャットスーツに着替え終え、左腕にマウントされたUNIXのキーを叩く。その中には建物内の地図が八割方入っている。
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両の壁の下には幅1メートル弱の細い足場があり、「タイムイズマネー」「ヨロシサン」などと書かれたノボリが等間隔で立つ。その中に「業者用」というノボリがあった。「ここよ」と、オヤドの中からナンシー。ニンジャスレイヤーはバイオバンブーを突き立てて屋形船を止め、オヤドの屋根に跳躍する。
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暗い天井に目を凝らすと、円状に走る細いスリットが見える。隠し通路だ。その横には、強化シリコンで蓋をされた小さなLAN端子。ナンシーが屋形船のデッキから、無駄のない動作でLANケーブルの末端を投げて寄越す。もう片方は、彼女の右耳の隣にあるバイオLAN端子にジャックインされていた。
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ニンジャスレイヤーが受け取ったLANケーブルを接続すると、わずか数秒で、天井からボンというくぐもった小爆発音が鳴る。ハッキングに成功したのだ。ナンシーの目の下の隈が、やや暗さを増す。彼女は1時間前に起こったダイダロスとの電脳空間チェイスで、かなりの精神力を消耗していたのである。
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ロックを解除された隠し通路の蓋を、ニンジャスレイヤーは業者用工具も使わず、己のニンジャ握力とニンジャ腕力だけで回転させ、数十キロもあるそれを軽々と取り外してから、非常水路の水の中に投げ捨てた。突然の衝撃に驚き、水面からバイオウナギたちが顔を突き出して、黒い瞳を不安そうに輝かせる。
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くり貫かれたパイナップルのように、天井に垂直の道が現れる。ニンジャスレイヤーはまずナンシーの手を取ってオヤドの屋根に引き上げ、次にニンジャロープを垂らして天井の穴へと導いた。眼下では、自動操縦モードになったオイラン船が、時限爆弾の秒読みを開始しながら中央エントランスへ流れてゆく。
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一方、そこから三百メートルほど離れた非常水路入口では、バリキドリンクの過剰摂取でハイになった傭兵2人が、今にも暴動か殺し合いを起こしそうな剣幕で睨み合っていた。 「やっぱり納得行かねえ。俺にもオイラン・ボディチェックをやらせてくれたって良かったろう? 俺の腕をバカにしてんのか?」
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コメント

オスツ🍣 @alohakun 2010年12月14日
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