「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #4

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2010-12-14 00:31:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

禁酒法時代の婦人服と帽子に身を包んだナンシーは、デリンジャーを胸に挿しながら、古式ゆかしい夕暮れの日本漁村にいた。ひときわ高いトリイの上に立ち浜辺を見やる。セキュリティ・プログラムを組んだプログラマの使ったコメント欄や関数名をもとに、ナンシーの脳内で描かれたコトダマ・イメージだ。

2010-12-14 00:33:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

科学的補足を付け加えておくと、もしこの電脳IRC空間に彼女以外の者が続けてログインした場合、同じイメージを観ることになる。その部屋のリアリティは、最初に入室したハッカーが作るからだ。もちろん、後続ハッカーのタイプ速度がより速い場合、そのリアリティが書き換えられることもあるが……。

2010-12-14 00:36:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジンジャ・カテドラルの鐘が鳴ると、海辺に半漁人めいた村人が姿を現し、上陸を開始。砂浜には、ブードゥーめいたイカが吊るされた邪悪な大コケシが何本も立ち並ぶ。「悪趣味なプログラマ……」ナンシーは呟きながら、トリイで鉄棒選手のように大回転を決め、斜め下にある市役所のカワラ屋根を破った。

2010-12-14 00:37:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だ君は?」市役所の一室には、詰襟の学生服を着て、腰にカタナを吊った青年がいた。その胸には、分厚い日記帳が抱かれている。チャブが扉の前に積まれ、粗末なバリケードが築かれていた。大勢の村人が、廊下から扉を破壊し、部屋に突入しようとしていた。「僕の出生の秘密がここに」青年が震える。

2010-12-14 00:40:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ごめんなさい、それを頂戴ね」ナンシーはデリンジャーで青年の頭を撃ち抜き、タタミに落下する前に日記帳を奪い取ると、分厚く降り積もった埃を吹き飛ばして666ページを開いた。「解除パスワードまで悪趣味だわ……」。ナンシーは木棚から筆と半紙を掴み取り、パスワードを床で高速ショドーする。

2010-12-14 00:44:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2010-12-14 00:45:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パン、という音ともに、壁の端子から白い煙が上がる。間一髪。レーザー光線はニンジャスレイヤーをキンタロ・スライスする直前で停止し、消えた。「ナンシー=サン、大丈夫か?」ニンジャスレイヤーが気遣う。ナンシーは憔悴しきった顔に力無く笑みを浮かべて頷き、右手で不敵なキツネサインを作った。

2010-12-14 00:47:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「待て、あれは?」ニンジャスレイヤーのニンジャ眼力は、自分達が駆け抜けてきた回廊の端を見通した。300メートル近い直線の先にL字路があり、クローンヤクザの死体が何体か転がっている。そこにしゃがみこむようにして、ヤクザたちの胸元を漁っているのは……サヴァイヴァー・ドージョーか?!

2010-12-14 00:49:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一方そのころ、第1プラントの暗いセキュリティルーム内では、ガガイケ専務が激しい怒りを露にしていた。「また突破だと!? どうなっとるんだ君ィ!」「アイエエエエ! スミマセン! 敵は恐らく、テンサイ級……いや、ヤバイ級ハッカーです!」UNIXを叩く保守サラリマンが失禁しながら叫んだ。

2010-12-14 00:50:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエ! ヤバイ級ハッカーだと!」ガガイケ専務もつられて失禁する「どうするんだ君ィ! ヤバイ級ハッカーがネットワーク越しでなくLAN直結……アイエエエエ!」。「アイエエエエエ! 大丈夫です! 大丈夫です! 心臓部を守るタヌキ・メインフレームは、絶対に突破不可能ですから!」

2010-12-14 00:55:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時、保守サラリマンが操作していたUNIX画面と、セキュリティルーム内の全監視モニタに、『警告:ハッキング攻撃下な』と赤いドット・ゴシック体で文字が点滅した。「「アイエエエエ!」」二人はセプクすらも覚悟して絶叫する。だが、このハッキングは、彼らにとって願ってもいない助けだった!

2010-12-14 00:57:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、ヨロシサンの皆さん」抑揚の無い電子音声めいた声が、セキュリティルームに響く。スピーカー類までハッキングされたのか。モニタ上には、円環状サイバーグラスをかけ、頭から無数のLANケーブルを生やしたニンジャが写った。「ソウカイヤのネットワークセキュリティ担当、ダイダロスです」

2010-12-14 00:59:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエ? ソウカイヤって何です?」と保守サラリマン。ガガイケ専務は部下のバイオLAN端子からケーブルを引っこ抜き、腰に吊ったショック・ジュッテの先を差し込んで、電流を『とても強い』にした。ナムアミダブツ! 「アバババババババーッ!」保守サラリマンは全身を痙攣させ即死する。

2010-12-14 01:00:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ダイダロス=サン、助かりました! 我々は今恐ろしいニンジャと豊満で性的なガイジンに、ローテクとハイテクのダブルハッキング攻撃を受けているんです! このままでは爆発してしまいます!」 「大丈夫です。私がなんとかしましょう。ファイアウォールなど、私の前ではショウジ戸も同然ですから」

2010-12-14 01:01:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ガガイケ=サン、あなたはキーボードに触らず、ただ見ていてください。余計な手出しをすると、あなたのニューロンが火傷しますよ」 「ヨロコンデー!」ガガイケは涙を流して喜んだ。 「さあ、ワームども、今度こそ逃がしません。……そして我が電子のヨメよ、今度こそ貴女を捕えてLAN直結……」

2010-12-14 01:03:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヨメ?」ガガイケが呟き、その声がUNIXマイクに拾われる。直後、監視モニタの一つが真っ白に光ってから爆発した。「アイエエエエエエ!」 「ガガイケ=サン、死なないうちに事務所に戻りなさい」機械じみた声を背後に聞きながら、腰を抜かしたガガイケは廊下をナメクジのように這っていった。

2010-12-14 01:05:26