シンギング・イン・ザ・レイン♯3

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ひたちえぼ @EVO_Hitachi

*わたしはたまたまここにいて二次創作を投下しています*また、ご感想やケジメ案件が発生したときは、#owl_nj あてに何かツイートしていただければ甚だ幸甚と存じます*原作とは一切関係がない*

2015-04-04 00:06:19
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「シンギング・イン・ザ・レイン♯3」

2015-04-04 00:09:20
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

オオヌギからの帰り道。雨に打たれながら、ウスイは父が好きだったミュージカル映画の歌を口ずさんでいる。潜水服は大ざっぱに畳んで両手で抱えて潜水ヘルメットをかぶっている風体だったが、ウスイは特に気にしなかった。映画めいて雨の中を歌いながら帰るのは、ウスイのひそかな憧れだった。 1

2015-04-04 00:11:50
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

どうせ今日もひとり。熱いシャワーを浴びて、トーフを少し食べて、父のオブツダンに手を合わせて寝るだけだ。母には明日の朝連絡を入れなければ。そう思いながら見上げた部屋の明かりを見て、ウスイは母の帰宅を知った。 2

2015-04-04 00:14:29
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ただいま」「こんな時間までどこにいたの」母はホット・サケを片手に寝室へ向かうところだった。「先生から連絡がありました。学校もさぼったそうじゃない」「おかあさん、私ね」母はそれを遮るように手を振った。「言い訳は聞きません」「聞いて。私、雨が平気になったの」 3

2015-04-04 00:17:15
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

寝室に向かう母の足が止まる。「悪い冗談はやめてちょうだい」「嘘じゃないよ」ウスイはベランダに向かった。「証明する」ベランダへ出て、窓を閉める。潜水服をそっと置くとベランダによりかかり、ひさしの外へ両腕を差し出す。信じて貰えなくて当然だ。自分だって、まさかと思ったのだから。 4

2015-04-04 00:19:49
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

雨に当たってからベランダの窓を開けると、リビングのテーブルにサケを置いた母がこちらを見ていた。母にこうやって見られるのは随分久しぶりだった。「見て。なんともないんだ」両手を広げて、母に見せる。「大丈夫になったんだよ」「ああ……!ああ……!」駆け寄った母が、ウスイを抱きしめた。 5

2015-04-04 00:22:32
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ママの祈りがブッダに通じたのね……!」ウスイがその背中に手を回す前に、母は体を離してしまった。ウスイの手が空をさまよう。「NSTVに連絡しないと!」母親は携帯IRCを片手にきびすを返していた。ウスイは淡々と潜水服をベランダのハンガーに吊し、ヘルメットを室外機の上に置いた。 6

2015-04-04 00:26:11
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ウスイ、明日はママと一緒に取材を受けなさい。良いわね?」ウスイは顔を上げて母を見た。母はウスイに背を向け、電話で話し始めていた。「そうです。明日の撮影の件で――」ウスイはうつむいて、バスルームへ向かった。「明日は9時までに出かける支度なさい」通りすがりに母が言った。 7

2015-04-04 00:28:57
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「今日はありがとうございました」華やかなネオンピンクのキモノを着たオイランインタビュアーに、ウスイはぎこちなくオジギをする。「ありがとうございました」「五分押しね。タクシーを呼ばないと」母に急かされて、グリーンバックのスタジオを離れる。次はカテドラルに礼拝だ。 8

2015-04-04 00:32:54
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

あの夜から、ウスイの生活は慌ただしくなった。「ブッダの奇跡」「献身的愛情」といったキャッチコピーで母の出演するテレビ番組での共演、メディアの取材、医師の検査にまでカメラが入った。検査結果は、重金属酸性雨のアレルギー症状のみが改善されている、ということだった。 9

2015-04-04 00:35:16
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

初めてメイクをし、髪を上品にセットされ、まるで今までの自分とは別人に見えた。何をするにもひとりだったウスイの周りに、彼女を取り巻く大人が増えた。けれど学校へは行けず、母は相変わらず帰宅せず、タクシーでウスイを自宅に送ったらそのままカテドラルへ帰ってしまう。 10

2015-04-04 00:37:38
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

父が眠る墓は、カスミガセキのカテドラルにある。ウスイがそこにお参りに行きたいと言ったところ、何らかのセレモニーめいた扱いとなってしまった。父に報告したかっただけなのだが、それは許されなかった。ひとつアレルギーの症状が消えただけで、こんな暮らしが待っているなんて。 11

2015-04-04 00:42:15
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

体質と折り合っていくことは、仕方がないと思っていた。奇跡ではない。きちんとした理由がある。けれど彼女はそれを言葉にする術を持たず、奇跡の娘とウスイ・ヤマモモの距離が、どんどん離れる。ウスイは、潜水服よりも重苦しいなにかが、自分と周囲を隔てているような気がした。 12

2015-04-04 00:44:33
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

潜水服を着ていた頃は、それでも世界と接続されている気がしていた。そういえば、あの人たちにも会っていないな、と、ウスイはタクシーの車中で思った。((今夜、会いに行こう)) 13

2015-04-04 00:49:01
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ドーモ、ウスイです。お久しぶりです」「エーッ? ウスイ=サン?」従業員のゲイマイコが声を上げる。「テレビ出てたよね?」ウスイは気恥ずかしそうにうつむく。「アラアラ、今日はアータおめかしして。雨、大丈夫だった?」カウンターの奥にいた大柄なボンズヘアの男がウスイを振り返った。 14

2015-04-08 22:20:05
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

その姿が思ったより元気そうで、ウスイは安心した。「ザクロ=サンも大丈夫ですか? ビョーキしたって聞きました」ボンズヘアの男、ザクロは頬をおさえた。「ヤダ! そんなに噂が広まっちゃったの? もう治ったから心配ご無用よ」そうして右手でガッツポーズを作る。 15

2015-04-08 22:22:34
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「このところバタバタして、落ち着かなくて。ザクロ=サンに会いたかったのに遅くなっちゃいました。元気そうで良かった」ウスイもつられて顔をほころばせる。「ウスイ=サンも、アレルギー治ったんでしょ? ブッダのご加護で」「エート……」ウスイは言葉を濁した。 16

2015-04-08 22:27:20
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「アー……それが、どうしてか雨のアレルギーだけ治ったんです」「ンマー! おめでとうじゃないの!」やや大げさな仕草で、ザクロがカウンターから身を乗り出す。「ありがとうございます」「今日は祝杯ね。でもお酒はダメよ。いいわね?」「ハイ。ホット生姜ください」 17

2015-04-08 22:29:40
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「分かった。うんと甘いやつね?」ザクロはグラスを用意する。「にしても、ほんと、おめでたいじゃない。アタシにも良いニュースだわよ」「今日ここに来る前にテンクサにもお礼しに寄ったんですけど、店長さんも喜んでくれました」「良かったわね。今度は修理以外のお客さんで遊びに行きなさい」 18

2015-04-08 22:33:06
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「ウン。同じ事言ってくださいました。わたし、迷惑なお客だったのに」うつむくと、磨き上げられた木製のカウンターに見慣れぬ化粧の女の子が映り込んで、ウスイは慌てて顔を上げた。「迷惑なんてするモンですか。アータはどこのお店でも、いいお客サンよ。ドーゾ」ザクロからグラスを受け取る。 19

2015-04-08 22:36:12
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「アータ、もうちょっと自分に自信持った方が良いわよ」出されたホット生姜ドリンクを一口。こってりした生姜シロップとハチミツ。「お洒落したり、誰にも気兼ねせずにお出かけも出来るようになったんだから。もっとカワイイになれるわよ。ワカル?」「でも、お洒落って興味なくて」 20

2015-04-08 22:39:38
ひたちえぼ @EVO_Hitachi

「アラ」ザクロは首をかしげた。「今日なんてお洒落してるじゃない」「これ、母が買ってきた物なんです。さっきまで、母と一緒にいて」「フゥーム? お仕事?」ウスイが頷くと、ザクロは頬に手を当てて渋い顔をした。「メディアの前ではふさわしい振る舞いしなさいって、母が」 21

2015-04-08 22:42:07