運命の少女

恐怖を乗り越え、人は気高さを得る
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

大井「これは…氷が完全に凍るのを待つしかないかしら…となると日没まで…」 ユーを長時間待たせるのは悪いと思いつつ、大井は忍耐を選んだ。何かあったらコムリンクから通信が来るはずである。今目の前に見えている以外のクリスタルが見つかる保証もない

2015-04-26 08:52:09
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

大井(北上さんのことでも考えてよう…) 大井はその場に座り込み、日没を待つことにした…

2015-04-26 08:52:23
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〜ユーside〜 ユーは冷静に洞窟を探索した。この先には必ずクリスタルがある。直感がそう告げていた やがてユーは、暗い洞窟にも関わらず光を放出する小部屋を見つけた クリスタルがあるかも…。ユーは嬉々と小部屋に入ってゆく

2015-04-26 08:52:46
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だが次の瞬間、ユーは小部屋に立ち入ったことを後悔した ユー「…!」 そこにはブヨブヨの皮と紫色の怪しい光を纏う気味の悪い魔物が天井からぶら下がっているではないか!クリスタルはその魔物めいたモノの口(と思われる部位)の真下で、静かに光をたたえていた

2015-04-26 08:53:23
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ユーは咄嗟に物陰に隠れて様子を見た。魔物は眠りにふけており、今なら静かに近づけばクリスタルを取れるかもしれない しかし、ユーにはとてもではないがそれはできなかった。不快な匂いと音を撒き散らしていた目の前の魔物はあまりにも不気味であり、ユーの心に恐怖を植え付けていたのだ

2015-04-26 08:54:28
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大井に助けを求める手もあったが、コムリンクの起動音で気づかれたら…。恐怖はユーの全身を、心さえも縛りつけていた 結局、ユーはその場を離れることもできず、ただ様子を見ることしかできなかったのだ

2015-04-26 08:55:07
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…どれほど時間が経ったか。ユーの身体は次第に恐怖に馴染んできた。どれほど恐ろしい状況でも適応できるとは、慣れとは恐ろしいものだ ユーはコムリンクの電源を落とし、覚悟を決めてクリスタルに近づいた。一歩ずつ、ゆっくりと。そしておそるおそる、静かにクリスタルを手に取った

2015-04-26 08:55:35
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クリスタルを手にした途端、ユーの心の不安が晴れてゆくのを感じた 『所有者の心を落ち着かせ、感覚を研ぎ澄ます力のある特別なクリスタルなんだ』 瑠奈花の言った通りだ。ユーはクリスタルを強く握り締めると、無くさないようにポケットにしまう。そしてゆっくりとその場を立ち去った

2015-04-26 08:56:13
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だが皮肉にも、クリスタルのもたらした安寧はユーの心に隙を与えてしまった。ユーはコムリンクを落としてしまったのだ ユーの心に再び恐怖の火が灯る。背後から魔物のうめき声を聞き、ユーは素早く飛び退いた 魔物は先程までユーがいた位置に落下し、コムリンクを踏みつぶした

2015-04-26 08:56:49
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ユー「ヒッ…!」 この魔物に眼はなかった。だがユーはこいつが確実にこちらを見据えていると確信した グオォォォ!悲鳴にも似たおどろおどろしい咆哮と共に、魔物はユーに突進した。ユーは何も考えられなかった。するべきはただ一つ。ユーは出口へ向かって必死に走り出した

2015-04-26 08:57:18
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〜大井side〜 大井「…!」 完全に凍りついた地底湖を渡り、クリスタルを手にした大井は何かを感じ取った。感覚を研ぎ澄まし、周囲のあらゆるモノに意識を集中させる 大井「ユーちゃん…!?」

2015-04-26 08:57:54
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次の瞬間、大井の疑念は確信に変わる。どこからか、ユーの悲鳴が聞こえてきたのだ! 大井「ユーちゃん!?どうしたの?応答して!」 大井はコムリンクに声をぶつけるが、通信は取れない。最早考えている暇はない!大井は氷が割れる危険性など考えず、力強く駆け出した

2015-04-26 08:58:32
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大井は先程ユーと別れた小部屋に辿りついたが、ユーの姿はない。もしや、もう… だが、ユーはすぐに現れた。恐怖に染まった顔で必死に走ってきたユーは、大井を見ると一瞬だけ安堵に包まれた 大井「ユーちゃん!?どうしたの!?」 ユー「魔物…魔物が…!」

2015-04-26 08:59:03
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大井「逃げるわよ!」 大井はユーの腕を掴み、一目散に駆け出した。武器なんかいらないと言ったのはどこの誰なのよ! 大井「日没までもう時間がないわ!急ぎましょう!」 ユー「はい…!」

2015-04-26 08:59:39
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だが武器を持たないことによる不安からか、大井は転んでしまった。ユーも彼女に躓き、壁に身体を打ち付ける ゴゴゴゴ…!ユーが打ち付けた壁―否、それは壁ではなく、先程道を塞いでいた氷柱だった―が衝撃で倒れ込もうとしていた 大井「危ない!」

2015-04-26 09:00:33
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ユー「きゃっ!」 大井は無心でユーを突き飛ばした。ユーは助かったが、大井は彼女の身代わりとなり、氷柱の下敷きになってしまったのだ! ユー「大井さん!」 大井「わ、私に構わないで…!」 ユー「えっ…」

2015-04-26 09:01:07
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

大井「もうすぐ日没よ…!そうしたらここから出られなくなる…!そうなる前に早く!」 ユー「…でも、大井さんが…魔物も…!」 大井「私はあなたを護るために同行したのよ。これで役目は果たせたわ。さぁ、早く!」 ユー「…でも」 大井「行きなさい!!」

2015-04-26 09:01:45
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ユーは意を決し、駆け出した 大井「…さて、動かす時は軽く感じたけど、この体勢だとびくともしないわね…」 大井は氷柱をどかそうとするが、先程と違って全く動かない やがて、魔物と思わしき足音と咆哮が近づいて来るのを感じた 大井「ここまで、かしら…。ああ、北上さん…」

2015-04-26 09:02:33
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ユーはひたすら走り続け、ついに出口が見えてきた。これで助かる!ふぅ…と、ユーは安堵の声を漏らす だが、ユーの歩みは止まっていた。今洞窟を出れば自分は助かる。だが、大井は?仮に魔物から逃げ切れても、大井はここから出られない。如何に歴戦の艦娘でも、明日には凍死してしまうだろう

2015-04-26 09:03:29
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

ユーは徐ろにポケットからクリスタルを取り出し、握り締める。そしてそれを懐中電灯に仕込むと、ユーは来た道を引き返した ドイツにいた頃、ビスマルクやプリンツから「騎士の心得」を何度も聞かされていた。大井を見捨てるのは、「騎士の心得」に反することだ

2015-04-26 09:04:23
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

ユー「…大井さん!」 大井「あなた…!?なぜ戻ったの!」 先程の魔物は、ちょうどそこにいた。異様に大きな口で、大井を丸呑みにせんとしているところの様に見えた。魔物はユーに気づくと、睨むようにこちらを向いた

2015-04-26 09:04:54
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ユー「…大井さん。ユーは、仲間を見捨てません。絶対に。何があっても…!」 大井「ユーちゃん…」 ユー「目を閉じて…!」 ユーは懐中電灯を魔物に向けると、スイッチを入れた 懐中電灯の光が、中に仕込まれたクリスタルを通じて拡散し、より強い光を魔物に浴びせた

2015-04-26 09:05:44
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

この魔物に眼がないことは知っていた。それでも何かしら効果はあるかもしれない。咄嗟に思いついた方法だった しばらく光を照らしていると、魔物はその場から消えていた。ユーは懐中電灯を切り、大井の元に駆け寄った

2015-04-26 09:06:16
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

ユー「オオイさん…」 大井「よく…戻ってきてくれたわね。きっと提督も、あなたの勇気を称賛してくれるはずよ」 ユー「…えへ」 ユーは氷柱をどかし、大井を助け出した 大井「それにしても、あの魔物はなんだったのかしら。光を浴びせただけで逃げるなんて」

2015-04-26 09:07:13
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

ユー「…そんなものここにはいなかったんだと思います」 大井「え?」 ユー「…あれは多分、ユーの恐怖が生み出した幻影…ただの影だったのかも」 大井「幻影…」

2015-04-26 09:07:47