ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス #2

遠藤綾だけどMay'nじゃねえか!
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劉度 @arther456

熊野と高波に、泊地水鬼の艦載機が襲いかかる。だが、横合いからの機銃掃射を受け艦載機は急降下を中止、反撃に移る。隼鷹が放った烈風の一団が、制空権をもぎ取ろうと突っ込んで来ていた。「魚雷で空いた穴を塞ぎ、負傷した兵を助け、壊れた機関を再び直す!それが私の最後の一ヶ月!」 22

2015-05-27 21:45:17
劉度 @arther456

「なぶり殺しにされたなど、一度たりとも思ったことはありませんわ!あの時の全ては母国に帰り、再び艤装を直し、敵にもう一度立ち向かうため!死ぬためではなく、生きるために戦っていたのよ!」「でも」前に立った熊野に、高波は問いかける。「熊野さんは、結局帰れなかったんですよね……?」 23

2015-05-27 21:48:30
劉度 @arther456

「……まあ、力及びませんでしたわ。それは事実です」熊野は小さく首を振る。「ですがそれは昔のこと。それに今は艦娘ですもの。時間も姿形も違うなら、あの時と同じ結末になって差し上げる必要はない。なら、もう一度挑戦してみるのも、一興ではありませんこと?」 24

2015-05-27 21:52:03
劉度 @arther456

高波は、何も言い返せなかった。「さ、早く戻りなさい。大鯨と時雨が待っていますわよ?」「は、はい……」高波は後退し始める。だが、足を止めて振り返った。「あの、熊野さん!」「なに?」「あの、えっと、その……ありがとうございます!私、あの、本気で殴られて怒られるの、初めてで……」 25

2015-05-27 21:54:42
劉度 @arther456

「そういう話は後になさい。それに……」熊野の頭上で、艦載機が烈風の機銃を潜り抜けた。下方にいる艦に向け、爆弾を叩き落とそうと降下する。「本気で殴ってはいませんわ」「え?」熊野は落ちてくる敵機を見据える。「本気だったら、今頃あなた、こうなっていましてよ?」 26

2015-05-27 21:57:57
劉度 @arther456

「ヒャアッ!」気合一閃、熊野が腕を振るう。今まさに爆弾を切り離そうとした艦載機が、突然両断され、爆発四散した。「ひょわっ!?」高波には分からない。熊野が超高速で振った腕が真空波を起こし、それが敵機を真っ二つにしたなど、想像がつくはずがない。船の戦いではなく、拳法だからだ。 27

2015-05-27 22:01:17
劉度 @arther456

「神戸水鳥拳――名前もありませんわ。基礎中の基礎の技よ」得意満面の熊野の体は、青いオーラを身に纏っていた。熊野の艤装を身にまとう少女、火熊麗は、古来より伝わる暗殺拳、神戸水鳥拳の伝承者である。体内で練り上げた気を衝撃波として放ち、あらゆるものを両断する。 28

2015-05-27 22:04:27
劉度 @arther456

尤も、対艦戦で使うのはこれが初めてだ。今までは呼吸が合わず、鉄を切り裂くほどの衝撃波を打てなかったが、今日の熊野と麗は絶好調だった。「見ていなさい、高波。生きるための戦いというものを、お見せいたしますわ」悠然と構えを取る熊野を、高波は口をあんぐり開けて見守るしか無かった。 29

2015-05-27 22:07:41
劉度 @arther456

一方、熊野は思案を続けていた。大見得を切ったはいいが、あの深海棲艦に近づく手段がない。高波の言うとおり、戦艦や重巡のサイズで殴れる距離まで近づいたら、呪歌によって即座に沈んでしまうだろう。三式弾を上手く当てるか。しかし格好つけてしまった以上、情けない戦い方は見せられない。 30

2015-05-27 22:11:11
劉度 @arther456

その時であった。熊野の後方から歌が聞こえてきた。泊地水鬼の歌う静かな歌ではない。重低音のベースをかき鳴らす、アップテンポな音楽だ。思わず熊野は振り返る。『蔵王』が近づいてきていた。甲板に巨大なスピーカーが並んでいる。そしてその下にいるのは、マイクを握ったビスマルクだった。 31

2015-05-27 22:14:38
劉度 @arther456

潮風がビスマルクの金髪を靡かせる。目の前に広がるのは大海原。今まで出会ったどんな観客よりも手強い相手。実に、歌い甲斐がある。「ジャンゴウ、機材の準備は?」「Yah-mam,とりあえず音は出せる。細かい調整とかは、時間がないんだろ?」「ええ」「なら、歌いながらだ」 33

2015-05-27 22:17:55
劉度 @arther456

「Danke.それじゃあこの曲をお願い」「OK!」ジャンゴウがMP3プレーヤーを受け取り、コンポを操作し始めた。『ビスマルク殿!何をしているのでありますか!?』通信が入る。『鳥堀』のあきつ丸からだ。「歌うのよ。あの深海棲艦の歌は、同じ歌で打ち消せるんでしょう?」 34

2015-05-27 22:21:10
劉度 @arther456

『確かに、呪歌に歌で対抗するのはよくやる手であります。ですが、此度の相手は重力を歪めるほどの歌声の持ち主!生半可な歌では逆に飲まれてしまいますよ!』「それなら心配はいらないわ」ビスマルクは、並走する『鳥堀』に向けてニヤリと笑った。「だって私、アイドルですもの」 35

2015-05-27 22:24:24
劉度 @arther456

May'n SP Concert 2010 (22)-射手座☆午後九時Don't be late youtu.be/N1tX7_2W_PE @YouTubeさんから

2015-05-27 22:27:44
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劉度 @arther456

「何ですかこの歌は!?」『鳥堀』上で結界を構築していた倉田中将は、隣の『蔵王』から聞こえてきた歌に困惑していた。甲板に巨大なスピーカーが立ち並び、鮮烈なアイドルソングを海上に響かせている。「ビスマルクさんが歌っているであります!」「無茶な!相手は深海棲艦ですよ!?」 36

2015-05-27 22:27:59
劉度 @arther456

呪歌に対抗するには、ただ歌えばいいというわけではない。気合と魂を込めて、世界そのものを響かせるほどの覚悟が必要になる。何より、歌そのものが巧くないといけない。「カラオケ感覚で歌われちゃ、こっちの結界が……?」倉田中将の声が途切れた。「将校殿?」 37

2015-05-27 22:31:12
劉度 @arther456

問いかけたあきつ丸も遅れて気付く。先程よりも体が軽い。ビスマルクの歌が、泊地水鬼の歌を押し返し始めていた。「そんなバカな!?」「一体何者なんですか……?」「セ、セルマちゃん!?」甲板にいた陸軍魔術師の一人が叫んだ。「知っているのですか?」 38

2015-05-27 22:32:59
劉度 @arther456

「はい!あの歌、間違いない!一昨年のドイツベストシンガー賞を受賞した、セルマ・ノールです!去年一本もシングル出してないかと思ったら、艦娘になってたのか……!」「彼女、アイドルだったんですか!?」ドイツ一のアイドルならば、呪歌を押し返せるのも納得がいった。 39

2015-05-27 22:36:29
劉度 @arther456

重力が弱くなり、上空を飛ぶ艦載機たちが本来の動きを取り戻す。『中将さん!封印の用意はできていますの!?』熊野から通信が入る。未だ前線に残り、果敢に戦っているようだ。「呪歌で少し乱れましたが、術式自体に問題はありません!泊地水鬼の動きが止まれば、いつでもいけます!」 40

2015-05-27 22:40:00
劉度 @arther456

『ならもう一息……ッ!?』熊野が息を呑んだ。「どうしました!?」返事はない。倉田が熊野の方に目をやると、泊地水鬼と目が合った。泊地水鬼が空から目を降ろし、こちらに顔を向けていた。「機関最大!全員、結界に魔力を注ぎ込め!」倉田が命じた直後、泊地水鬼が彼らに"向けて"歌った。 41

2015-05-27 22:43:20
劉度 @arther456

その瞬間、『鳥堀』は5m、『蔵王』はその倍沈み込んだ。退却中の鈴谷は膝まで没し、負傷していた陸奥は時雨が支えていなければ即座に沈没するところだった。結界に守られていたはずのあきつ丸すら膝をつき、提督はビスマルクの曲を弾き飛ばした呪歌に、精神を絡め取られていた。 42

2015-05-27 22:46:38
劉度 @arther456

「っつう……!」甲板に顔を叩きつけられた倉田が起き上がる。垂れた鼻血を拭い取り、周囲を確認する。さっきよりも甲板要員が少ない。何人か海に飛び込んだか。漠然と宙に放たれていた呪歌ではなく、彼らに狙いを定めた呪歌は、物理法則を超え、"沈め"という呪いを海域一体にかけていた。 43

2015-05-27 22:50:42
劉度 @arther456

「これは、まずい……!」呪いはどんどん強まっている。このままでは封印など覚束ない。「呪歌の範囲外まで退却します!『蔵王』にも通達を!観測員、呪いの範囲はどこまで広がっていますか!?」『それが……』続いて聞こえてきた観測員の言葉は、絶望に等しい言葉だった。 44

2015-05-27 22:53:53
劉度 @arther456

『呪歌の効果範囲は、半径400km以上……!』「……何ですって!?」その歌は海域全てを覆っていた。艦娘も深海棲艦も、いや、万物を等しく水底に沈めようとしていた。逃げられる場所はない。「ここまでか……?」『鳥堀』が更に大きく傾く。バランスを崩した倉田の耳に、歌が響き始める。 45

2015-05-27 22:57:07