『虐殺器官』(伊藤計劃著)の書評

垂れ流した自分のツイートのまとめ。備忘録的な何か。
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くまふく @kumafukurou

もうちょっと整えたら『虐殺器官』(伊藤計劃著)の書評を連続ツイートで垂れ流す。30くらい。 なるべくネタバレには気を付けたつもりだけども、そも長いので鬱陶しいと思うのでミュートして。

2015-06-08 21:54:32
くまふく @kumafukurou

死と殺しの心理学のようでもある『虐殺器官』(伊藤計劃著)。 多数のSF要素と共に戦争(正しくは戦闘行為)をする物語なのだが、むしろ葬送のごとき厳かな静寂に包まれた文章(に思わず著者の来歴を調べてしまったが)、まさに死に直面した者が書いた小説であるな、というのが第一印象であった。

2015-06-08 22:09:29
くまふく @kumafukurou

それに、各分野の事項についてよく調べているという印象も強い。特殊部隊員の心理描写などは特にそれを感じる。殺しの心理学的な本はいろいろあるし、兵士の自伝などでも言及があることも多い。私の猟師の視点からしても無関係ではない部分はある。

2015-06-08 22:10:02
くまふく @kumafukurou

標的に向って撃つというのは、引き金を引くだけだからと簡単に思われていそうだが、そこにはいろいろな覚悟があって自己の明確な意思の元に行われる行為だ。 人を撃つ兵隊の心理とは違うだろうが、殺生をするという一般的ではない倫理観への移行という意味では猟師も似た様な面もある。

2015-06-08 22:11:12
くまふく @kumafukurou

殺しが“いけない”のは平時の法と倫理で(特に仏教的価値観の強い日本では)、そこから逸脱するのは本来自らの理性と意思の力である。引き金を引ける奴になれるかは(別にそうなる必要性は一般にはない)、人それぞれだ。作中では特にその為の小道具がある。これは後述。

2015-06-08 22:12:21
くまふく @kumafukurou

本書は一見、本作のターゲットユーザーは(恐らく)ミリタリーやSFファンである。 だが、人工筋肉や降下シーケンスなどのSFガジェット、さらに無人機とゲリラ(命の交換比率の描写)、正規戦と不正規戦(人命の値段の格差、札束で殺す戦争)などなど、これらはあくまでも副題に過ぎない。

2015-06-08 22:13:02
くまふく @kumafukurou

真に本作をSFたらしめるのは”文法”である。取り巻きのガジェットは、本題の説得力を増すための舞台装置の一部であり、故に完結性を持って高い完成度を見せないとその釜の底で醸成される“文法”の説得力を引き出すことが出来ない。物語は常にそれの為にあると言っても過言ではない。

2015-06-08 22:14:06
くまふく @kumafukurou

ただ、この“文法”を中心とする舞台装置も、とどのつまりは本作で著者が表現したかった(であろう)死生観に帰着する、説得力の為の構造である点は忘れてはならない。 例えば殺しにむかう主人公の心理描写にも表れている。

2015-06-08 22:15:07
くまふく @kumafukurou

銃でもって殺しをする人間は理性でもってトリガーを引く。これはスナイパーだろうと猟師だろうと変わらない。 特に少年兵に関するくだりで強く見られるが、作者は意図的にこの主人公の“殺しの覚悟”を未熟に描いている節がある。

2015-06-08 22:15:44
くまふく @kumafukurou

【ポイント】むしろ、物語のスタート地点が作中の小道具によって未熟な状態からの出発になっていて、ゴール(結末)に至って覚悟を得て死と生の混沌たる状態に“完成する”というフローなのだと思う。であるからこその、あの完結の仕方なのだ、と解釈できる。

2015-06-08 22:16:51
くまふく @kumafukurou

話が前後するが、では作者が物語の中心的な舞台装置である“文法”というモノに発想が至った着想点とは何なのだろうか。一つに、虚無感があると思う。根拠はない。私も自分の人生・生活が危機を迎えたことは何度かあったが、そういう状況下におかれると、

2015-06-08 22:17:39
くまふく @kumafukurou

自分の状態にも関わらずに何の頓着もなく流れていく世の中を見て、妙な孤独感や身勝手な憤り、そして独特の寂しさを覚えたものだ。 著者は病を抱えながら、そういった類の感情を抱いたのかもしれない。世界に相手にされないことが、世界から排除されているかの様に感じたのかもしれない。

2015-06-08 22:19:00
くまふく @kumafukurou

ならばこの“文法”という舞台装置は現実性があり得るのだろうか。 作中の表現を読む限り、これは形態素解析や構文分析、テキストマイニング(統計処理を含む)と呼ばれるものであると見て取れる。あくまでフィクションの理論だが、その処理過程は現実的である。

2015-06-08 22:20:32
くまふく @kumafukurou

私も学生の時にテキストマイニング(のモドキ)の手法を用いて論文を書いた(そういう意味でも親近感のある小説だ)。 “文法”は何をしていたかの理解の手助けに少々例示するが、とどのつまりは文章中の単語や構文、論理構造の登場回数などの解析のことだ。

2015-06-08 22:21:13
くまふく @kumafukurou

私も学生の時にテキストマイニング(のモドキ)の手法を用いて論文を書いた(そういう意味でも親近感のある小説だ)。 “文法”は何をしていたかの理解の手助けに少々例示するが、とどのつまりは文章中の単語や構文、論理構造の登場回数などの解析のことだ。

2015-06-08 22:21:13
くまふく @kumafukurou

例示するのは私が以前調べた、有害鳥獣の被害とそれを報道する記事件数の関係についてである。某新聞の過去30年間の記事の中から、関連する記事をプログラムで抽出した記事郡を作ってそれを基に分析した。 抽出の仕方で分析の精度が変わるので、実は最初の抽出段階が一番の難所であった。

2015-06-08 22:22:06
くまふく @kumafukurou

例示するのは私が以前調べた、有害鳥獣の被害とそれを報道する記事件数の関係についてである。某新聞の過去30年間の記事の中から、関連する記事をプログラムで抽出した記事郡を作ってそれを基に分析した。 抽出の仕方で分析の精度が変わるので、実は最初の抽出段階が一番の難所であった。

2015-06-08 22:22:06
くまふく @kumafukurou

抽出後の分析の仕組みとしてはこの記事データ群に含まれる単語(漢字・カタカナの固有名詞や動詞など)をそれぞれ記事ごとに抽出し、登場する各単語の全体での登場回数を総計し、記事データ群全体でカウントして母集団の再評価、単純な分析から記事の重みづけなどに使用した。

2015-06-08 22:23:22
くまふく @kumafukurou

抽出後の分析の仕組みとしてはこの記事データ群に含まれる単語(漢字・カタカナの固有名詞や動詞など)をそれぞれ記事ごとに抽出し、登場する各単語の全体での登場回数を総計し、記事データ群全体でカウントして母集団の再評価、単純な分析から記事の重みづけなどに使用した。

2015-06-08 22:23:22
くまふく @kumafukurou

【なお、ひらがなは助詞がメンドイので、ぶっちゃけると無視した( まぁ新聞はひらがなの名詞はカタカナにすることも多いし多少はね。】 (多少の誤差は有意に影響しない限り気にしないという意味)

2015-06-08 22:24:25
くまふく @kumafukurou

この記事データの母集団においてここ数年の有害鳥獣駆除に関する報道件数(母集団の中で「有害・鳥獣・捕獲」という単語のいずれかを含む記事数)を、年度別に度数分布のグラフを作成するとこうなる。 pic.twitter.com/qt2AMNfRF6

2015-06-08 22:25:48
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くまふく @kumafukurou

両者の相関係数は約0.51と算出され、強めの連動性があると言える。これより記事件数と被害額はある程度の関連があると言える。

2015-06-08 22:26:58
くまふく @kumafukurou

また、クマによる人的被害の増減と報道記事数(母集団の中で「クマ」という単語を含む記事数)の増減においても明確な相関が確認できる。 pic.twitter.com/s3OUrYdEPt

2015-06-08 22:27:27
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くまふく @kumafukurou

この様に、テキストマイニングによって文字を数字にして社会的意味を見つける類の分析を、作中の登場人物はしてきたのだろう。むろんもっと複雑なものだ。この例は所詮、x=aといったレベルであるが、複雑な込み入った方程式をその人物は発見したことだろう。

2015-06-08 22:28:13
くまふく @kumafukurou

とても考えて構成されている小説であるのが理解できる。ただ、惜しむらくはこの様な統計処理における注意点として、AとBの間に相関があったとしても「AだからB」なのか「BだからA」なのか「A・B互いに双方向に影響がある」のかという場合があり、

2015-06-08 22:29:52