【旧体制の記憶】 福間健二 #2factory92

福間健二 @acasaazul

熱いうちに叩くべきものは。夢ではわかった気がしたが、会話の成り立たない美形の少年少女に囲まれたいまは見当もつかない。ただのロックンロール。でもメロメロになる。彼が立っている桐朋通りの東の端。大学通りを背にして左側の歩道に冷えていく鉄がある。（旧体制の記憶１）#2factory92

福間健二 @acasaazul

彼はそれを拾う。何になる。よくできているだけの作品の、スカートのかすかな揺れや笑みへの抗議。旅する自由。デイドリームビリーバーからの、教養小説的跳躍。田舎警察を見くびって田舎パンのおいしさにハッとした。時間はかかるが、いつか黒い武器になる。（旧体制の記憶2）#2factory92

福間健二 @acasaazul

彼の自慢の、頑丈な脚。歩くために使うだけでは物足りなくなって、顔をかくしたガードが何人も立つゲートに突進した。こらっ、みんなと同じようにしろ。申請書を出して許可を待つんだ。女性事務員のひとりは思う。待っているうちに方式が変わってやり直しよ。（旧体制の記憶３）#2factory92

福間健二 @acasaazul

こんなところにこんな城があることがおかしい。そんなことくらいわかっているよ。セヴンティーン、運命は決まったとあきらめている。彼の会いたい彼女なのだろうか。恋ができないのも人間じゃない影の前で裸になって体操したり踊ったりするのも平気な彼女が。（旧体制の記憶４）#2factory92

福間健二 @acasaazul

悪い血。罠にかかったクイーン。とてもいい気分だ。サマータイム。私はなんという名前か。ぼくのすべてを。スターリンに夢中。黒い蝶を管理する。彼女は自制心を失った。今週のトップテン。候補者たち。大半は粛清されるのだが、この棚では並んで笑う同志だ。（旧体制の記憶５）#2factory92

福間健二 @acasaazul

荷物は軽く、セックスはなるべくしない。受け売りの受け売りでも、言う彼女は得意げだ。強者はほんの一部が壊れても一気に弱者に転落することがある。そんなふうに壊れた独裁者の見る前でぬれた足を新聞紙におく。世界を食い逃げ。自分が食い逃げされる前に。（旧体制の記憶６）#2factory92

福間健二 @acasaazul

眠る釘。夢の酸素で錆びていく。何十年もたって、変化はわずかだが、さわりたい手、でも引っ込めた手で、いろんなことを楽しむ。弾力をなくしたクッション。死んだ鳥や虫の羽。欲しいものを人々に言えと煽るポスターの娘たちのビキニスタイルへの、光の作用。（旧体制の記憶７）#2factory92

福間健二 @acasaazul

褪色しながらの、ゆっくりとした官能。目と耳が疲れても、判断力と責任感で、わかってしまった次の場面を受け入れる。雨が降り、夕暮れが早くなり、空気が冷えていく。体操着の女王と側近たち、楽しい衝突をしてエージェントなしのバンドを組むまでの辛抱だ。（旧体制の記憶８）#2factory92

福間健二 @acasaazul

森の中。よそ行きの服を着たサルや死を演じる灰色のウサギがいないともかぎらないが、そんなもの、彼と彼女には、ということは私たちには、必要ない。紙の帽子やラッパや太鼓ほどにも。新しい命令がもうすぐだ。命令、命令、私たちはしぶしぶ動くのが好きだ。（旧体制の記憶９）#2factory92

福間健二 @acasaazul

待つこと。自分に向いた消耗、汚れ方、落ち着きのなさがあると思うのは錯覚だ。選んでない。かくれんぼの鬼にされたみたいに黒い受動性の一部となっている。目を閉じているうちに何もかもが消える。いいよ。みんな、待っててね。こんど来たときに探すから。（旧体制の記憶10）#2factory92