そして、手を振って別れる。 また明日も……この場所で、会える。 ドクドク、と心臓が鼓動を打つ。頬が緩む。 こんな顔ではチサ先生に何を言われるか……そう思い、頬をペチンと叩いた。 とても幸せな日になりそうだ。
2015-06-07 11:04:39その夜。チサ先生もいなくなり、消灯時間を過ぎた頃。私はこっそりと柵の向こうの少年から貰った手紙を開いていた。 《柵の向こうの少女さんへ。初めまして。僕の名前はレイと言います。これから、この紙飛行機で手紙のやり取りをしませんか? それで、もしよろしければ、貴方の事を知りたいです。》
2015-06-18 01:06:38……お、落ち着こう。深呼吸。 ……えーと?あの、柵の向こうの少年は「レイ」のいう名前。それで、この紙飛行機で手紙のやり取りをしたい? そして――私の事が知りたい? 「ゥ〜///」 唸り声のような、よく分からない声が喉から出てくる。声が出ないのを無理やり出しているから、少し汚い。
2015-06-18 01:09:46だけど。それでも、私は声を出さずにいられなかった。 ――嬉しい……! 心は、その一言で埋め尽くされていた。とても温かくなる。 そして、手紙をじっくり眺めてみた。 『綺麗な字。言葉遣いも上手いなあ』 なにより、紙飛行機の折り方も綺麗だった。 『あ、そうだ。返事を書こう……』
2015-06-18 01:13:13そして、書いて、紙をぐしゃぐしゃにして、捨てて、また書いて……と何回か繰り返し、ようやく紙飛行機の返事が書けた。 『……へへ、これで明日、これがレイさんに届くね』 その手紙をそっと胸に抱き、紙飛行機を折り始めた。 私の頬は、ずっと緩んでいた。
2015-06-18 01:15:25そして、次の日もまたあの場所へ行く。今日はあの少年――レイさんより早かったようだ…… 「おーい!」 ……と思っていたら、来た。紙飛行機を懐から取り出す。 い、く、よ えいっ、と紙飛行機を飛ばす……が、それは一直線に地面へと向かっていった。 「……っぷぷ、あっははは!」 笑われた。
2015-06-18 01:23:04――恥ずかしい。 頬が火照る。慌てて紙飛行機を拾い、今度は投げるようにする。 ……さっきと同じ結果だ。恥ずかしすぎて、目に涙が溜まってきた。 すると、目の前にいるレイさんが手を振った。 ま、ね、し、て 紙飛行機を投げる動作をする。私もそれを真似して飛ばしてみた。
2015-06-18 01:26:10『……飛んだ……!』 綺麗な軌道を描き、紙飛行機は無事にレイさんの元へとたどり着いた。 やっ、た、ね 微笑むレイさん。私もつられて微笑んだ。 ……あ、少しだけ目眩がする。そろそろ行かなきゃ。 ま、た、ね そう言い手を振り、急いで病院へ目指す。 ……もう少しだけ、いたかったな。
2015-06-18 01:28:57どんどんと、それは近付いてくる……
……本当に、最近体の調子が悪い。 少し前までは、毎日レイさんのところへ行っていた。だけど、今は1週間によくて5回……悪くて3回だ。 「カオルちゃーん?点滴の時間でーす」 『……ユウ先生』 「そうそう、ユウ先生だよー」 珍しくユウ先生だけで来た。
2015-06-18 01:35:12だけど、特に会話をするわけでもなく無言で作業が進んでいく。 「少しチクッとするよー……はい、OK」 そして、点滴はすぐに終わった。あとは薬が無くなるのを待つだけだ。 『……ユウ先生』 「ん?どうしたのー?」 ずっと、疑問に思っていたことを口にする。 『私――死ぬんですか?』
2015-06-18 01:37:44「えっ……あ、ううん、死なないよ」 『そうですか……安心しました』 「だって、僕とチサが全力を尽くして治すからね!安心しててね」 『はい』 そして、2人で笑いあった……けど、私にはユウ先生のあの微妙な反応が気になっていた。 とても嫌な予感がした。でも、見ないふり。知らないふり。
2015-06-18 01:40:06『《私はお医者様の勉強が忙しくて、なかなか来れず》……』 今はレイさんへ渡す手紙を書いている。お医者様の勉強、なんて嘘。病人だって知られたくないから…… 『レイさんは、物作りしてるんだよね』 それで、こんなに手先が器用なんだ。納得。
2015-06-18 02:38:05『ふあ……ちょっと疲れちゃったな』 ペンを起き、伸びをする。手紙は大分書けた。 『最近体調悪いから、行けるときに伝えたいことこと全部書かないとね』 そう自分で思って悲しくなった。そして、手紙の内容を見て、嘘ばかりなこの手紙が嫌になってくる。 ……少し休憩しよう。
2015-06-18 02:41:03そして、その途中。ボーッとしているユウキさんを見つけた。
病室を出て、ナースステーションへ向かう。 「カオル」 『ユウキさん』 明るい笑顔を向けてくれる。だけど、すぐに不思議そうな顔をした。 「……顔色悪い……どうした?何かあった?」 『えっ?あ、いえっ!平気ですよ!』 ユウキさんは少しだけ眉をひそめた。 「無理はダメだからな?」
2015-06-18 02:45:28『わかってますよ』 そう言い、足早にその場を去る。 ……小さい頃からずっといるユウキさん。私のこともよく知っているから、体調が悪いことをすぐ見抜かれてしまったようだ。 『……っと、ナースステーションはここだね』 ユウキさんと別れてすぐにナースステーションに着いた。
2015-06-18 02:47:15……なんだか、争っているような声がチサ先生の部屋から聞こえる。ナースステーションからチサ先生の部屋までは、そう遠くはない。 『チサ先生と……誰だろう、あの声?』 もう1人の方は、少し声が小さく聞き辛い。女の人の声……なのは分かるけど。 興味本位で、チサ先生の部屋へ近付いた。
2015-06-18 02:49:30この時、私はこんなことやめておけばよかった。そう、後悔することとなる。
「ディクティターの――」 「そんな!――ちゃんは――」 チサ先生の部屋へ近付く度に、声がどんどん大きくハッキリ聞こえるようになる。……どうやら、扉が少し開いているようだ。 ノックしようと扉に手をのばす―― 「カオルちゃんは!」 ――が、自分の名前が出てきた為その手が止まった。
2015-06-18 02:51:59『今のは……チサ先生の声?』 胸がドクドクと鼓動を打つ。その音がやけに大きく、うるさく感じる。 「カオルちゃんは」 ……この先を聞きたくないような……耳を塞ぎたくなる感覚に陥る。 「……もう、助からないのよ?」 『……へ……?』
2015-06-18 02:53:57たす、から……ない? 「ええ、ですがディクティターはまだ続けろと」 「そんな!あの子が、カオルちゃんが可哀想よ!」 「元々あの子に嘘をついたのは?」 「……で、でも最初は私じゃ」 「言い訳無用」 チサ先生の部屋から知らない女の人が出てくる。 「……あっ」
2015-06-18 02:56:06出て来た人は、黒のスーツと黒のミニスカートをはいている赤髪の人だった。目はこっちを見ているような見ていないような……その瞳で見られると背筋がヒンヤリとする。 「……カオルちゃん!?」 そして、チサ先生が慌てて出てきた。 「あ、えっとね、カオルちゃん、そうじゃなくてね」
2015-06-18 02:59:22『……何がですか』 混乱し、恐怖を覚え……何を言っていいのか分からないときに出た言葉はこれだった。 「えっ……あ、その……」 チサ先生がキョロキョロと目を泳がせる。 「……無様ね」 そう言い、女の人はどこかへ行ってしまった。 あの女の人がいなくなり、チサ先生は少し息を吐く。
2015-06-18 03:01:40「……カオルちゃん。違うの」 『だから何がって言ってるんですよ!!』 だん、と床を踏み聞く。チサ先生は驚いた表情をする。 『何が違うんですか!?さっきの私が助からないって話なんですか!?それとも、私が退院出来るって……生きてここを出れるって話なんですか!?ねえ!!!』
2015-06-18 03:03:56