黄昏町(柊)三日目

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@hiiragi_r_t_d

【三日目】 [ハンドアウト]気が付くと、坂の上から黄昏色の町を見下ろしている。どこから来たのかシャボン玉がひとつ、君の前で弾けて消える。《開始地点[町]shindanmaker.com/541547#黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

2015-07-24 05:57:09
@hiiragi_r_t_d

シャボン玉は美しい。だが目の前で弾けるとシャボン液が目に入って痛い。今の私はまさにそれであった。 「イテテテテ………しみるなー」 一体どこから飛んできたのやら。誰が飛ばしたのか知らないが一言文句を言いたい気分だ。まあ飛ばした人は悪くないのだが。 01 #hollytk

2015-07-24 06:01:02
@hiiragi_r_t_d

目をこすりながら私は町を見渡す。 夕日に照らされ黄昏に染まった町は不思議な雰囲気を醸し出している。 影はより濃く、しかし不確かにぼやけて境界を曖昧にする。 昼と夜、此方と彼方、人と化け物…… 02 #hollytk

2015-07-24 06:02:21
@hiiragi_r_t_d

人と化け物の……境界。 そういえば私の腕に宿った異形と私自身の血肉の境界はどこにあるのだろうか。 切り開けば分かるのだろうか? そもそも境界はあるのか? 03 #hollytk

2015-07-24 06:03:05
@hiiragi_r_t_d

「考えてもしょうがない、か」 とりあえず周囲の安全確認だ。今更だが。 ここは坂の上。黄昏に染まる町が一望できる位置。逆に言えば眼の良い怪物は私を既に見つけているかもしれない。 とりあえず移動しよう。 04 #hollytk

2015-07-24 06:04:05
@hiiragi_r_t_d

とはいえ行くあてもないので私はとりあえず坂を降り、街に入ることにした。 どこかで悲哀を感じさせる咆哮が聞こえた…………ような気がしたが、風の音だろう。少し私は神経質になっているようだ。 05 #hollytk

2015-07-24 06:05:10
@hiiragi_r_t_d

この町は意外と広い。先程坂の上から町を眺めてみたが、彼女と出会ったあの河原は見つけられなかった。 さらに自動車やバイクの類もほとんど見当たらなかった。遠くの方にトレーラーがあったが、あそこまで歩いていったら辿り着く前に日が暮れるだろう。 06 #hollytk

2015-07-24 06:06:03
@hiiragi_r_t_d

革靴は長距離を歩くには向いていない。どこかでスニーカーか何かを拝借した方がいいかもしれない。 あとは水と食料……は、必要なのか? 未だに空腹を覚えない。どうしてだろうか? まあ必要ないならそれに越したことはない。荷物が少ない方が逃げ足が速くなる。 07 #hollytk

2015-07-24 06:07:16
@hiiragi_r_t_d

必要品を頭の中でリストアップしながら歩いていくと私はいつの間にか路地裏に入り込んでいた。 いつの間に………真っ直ぐ歩いてきたはずなのだが。 道に迷った時はまず大通りに戻るのがセオリーだ。しかしどこをどう行けば大通りに出るのかさっぱり見当がつかない。 08 #hollytk

2015-07-24 06:08:25
@hiiragi_r_t_d

こうなればもうあてもなく彷徨い歩くしかない。 元々目的地が決まっていないのだから迷ったところで大して変わらない……はずだ。 タチの悪い化け物に出会わないよう祈るしかあるまい。誰に祈ればいいのやら。 09 #hollytk

2015-07-24 06:09:18
@hiiragi_r_t_d

「〜♪」 どこかで聞いた歌を口ずさみながら歩く。 歌に合わせて足を動かすと疲れにくい。一定の調子で歩けるからだ。 「〜♪、〜♪♪、〜〜♪…………?」 おや…………? 10 #hollytk

2015-07-24 06:10:39
@hiiragi_r_t_d

なにやら妙な匂いがする。 あまり良い匂いではない。この匂いを私は知っている。 熱……煙……炭と灰……喪失のイメージ。 忘れていたはずの『何か』が心を抉る。 11 #hollytk

2015-07-24 06:11:10
@hiiragi_r_t_d

違う、違う、違う、あれは私じゃない、これは私じゃない、今『終わった』のは私じゃない。 理性で必死に否定しても体は勝手に走りだす。この目で見るまでは安心できない。 いつの間にか私はがむしゃらに駆け出していた。 12 #hollytk

2015-07-24 06:12:03
@hiiragi_r_t_d

風上へ、風上へ、臭いの元へ。 入り組んだ裏路地を駆け抜ける。 近づくにつれて臭いが酷くなる。むせるような熱気と臭気。 そして私は、一つの廃屋にたどり着いた。 13 #hollytk

2015-07-24 06:13:06
@hiiragi_r_t_d

廃屋の中は湿っていた。木材が朽ち、一部の屋根は腐り落ちている。床は抜け、剥き出しになった地面にはヌルヌルとした藻のような物が群生している。 しかしこの異臭と熱気は藻のせいではない。 廃屋の中心には、炭化した死体があお向けに転がっていた。 14 #hollytk

2015-07-24 06:14:38
@hiiragi_r_t_d

私は周囲の柱がしっかりしている事を確認し、ゆっくりと死体に近づいていった。 死体の周囲には燃え尽きた木材とポリタンクが散乱していて、この死体をわざとここで燃やした事が伺えた。 ………いや、死体を燃やしたのではなくここで焼き殺したのだろうか? 15 #hollytk

2015-07-24 06:15:41
@hiiragi_r_t_d

中途半端に焼け焦げた死体は表面がまだくすぶっていて、到底触れそうになかった。 とにかく私はこれが私の死体ではないことを証明しなくてはならない。 今ここにいるモノが自分でコレは自分ではないと証明しなければ、私はここから一歩も動く事はできないだろう。 16 #hollytk

2015-07-24 06:16:10
@hiiragi_r_t_d

まるで自分の死体を見ているような耐え難い吐き気をこらえながら私は死体を検分する。 人相や持ち物から判断することはできそうにない。体格は私に似ている。 しかし決定的な違いを、僅かに焼け残った脇腹の皮膚から得る事ができた。 17 #hollytk

2015-07-24 06:17:11
@hiiragi_r_t_d

その焼死体の背中には、まるで大きな魚のような鱗が数枚貼り付いていたのだ。生前はもっと多くの面積を覆っていたのだろう。 私にない異形……この死体は、私ではない。 『私』は、ここにいる私一人だ。 証明してしまえば当たり前の事だ。一体私は何をしていたのだろうか。 18 #hollytk

2015-07-24 06:18:17
@hiiragi_r_t_d

しばらく休憩して人心地つくと、死んでいる『彼』が可哀想に思えてきた。 きっと彼も明日になればこの町のどこかで目覚めるのだろう。もしもここに彼がたどり着いたなら、このメッセージが届くように。 私は早速作業を始めた。 19 #hollytk

2015-07-24 06:19:18
@hiiragi_r_t_d

「ふう。これでいいかな」 私は腕で汗を拭う。 そこにはこんもりと盛られた土と木材の山。墓標の代わりに木片が一つ突き立っている。 木片には炭で「ガンバロ」と書かれている。私の力作だ。 21 #hollytk

2015-07-24 06:21:37
@hiiragi_r_t_d

彼の死体を動かすのは不可能だった。焼死体はまだ熱く、持ち上げようとしたら腕の広範囲に火傷を負ってしまうからだ。 残念だが、この廃屋の中で埋めるしかなかった。 22 #hollytk

2015-07-24 06:22:23
@hiiragi_r_t_d

彼の指の間からは何かキラリと光るものが覗いていた。………宝石だったら頂いていこうか、いやでも大切なものだったら悪いし…… 結局焼死体の手に一瞬だけ触れて「熱っ!」と飛び退くまで私はそれを諦めきれなかった。 23 #hollytk

2015-07-24 06:23:25
@hiiragi_r_t_d

一人で木材を積み上げ、隙間を土で塞ぐ作業は予想以上に時間と体力を消耗した。もう空には星が瞬きはじめている。 私は「明日も幸せに生きられますように」と呟くとそっと目を閉じ、やってくる「夜」を待った。 24 #hollytk

2015-07-24 06:24:08