男子凍結 第二部

SF小説「男子凍結」第二部のはじまりです~ ・・・で、このあとどうなるの?(ぉぃ) ---- 第三部はこちら→ http://togetter.com/li/897436
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十六

夢乃 @iamdreamers

『本日昼過ぎ、寄那濱市中央区にある男性保存センターで、一人の男性が死亡したことが確認されました。亡くなったのはセンターに入って四十八年になる二十六歳の男性で、センターの個室で息を引き取ったとのことですが、警察関係者によると状況に不審な点があるとのことです』 #twnovels

2015-08-20 10:24:48
夢乃 @iamdreamers

『事態を重く見た県警と男性保存省は原因の究明のため、専門家を入れた調査チームを合同で編成することを決定しました。詳しい状況が入り次第、続報をお伝えします。 次のニュースです』 #twnovels

2015-08-20 10:25:07

夢乃 @iamdreamers

奥瀬里レナが現場となった部屋の前に来たとき、ストレッチャーに乗せられ白いカバーに包まれた死体が運び出されるところだった。「あ、警部、確認しますか?」側にいた刑事が近付いてくるレナに気付いて言った。 「ええ」 レナは簡単に答えた。 #twnovels

2015-08-20 10:26:01
夢乃 @iamdreamers

刑事がストレッチャーの反対側にいた検視官に合図すると、彼女はカバーの顔の部分のジッパーを下ろした。レナは中を覗いた。全裸の男の端正な顔は白すぎる肌の色を除けば眠っているようだった。 (まだ若いのに・・・) 手を合わせて外傷がないことをざっと確認する。 #twnovels

2015-08-20 10:26:29
夢乃 @iamdreamers

「ありがとう。いいわ」 レナが言うと検視官はカバーを元に戻し、ストレッチャーの前後の鑑識官に合図して運んでいった。刑事も付き添う。それを見届けて、レナは部屋に入った。二人で使う分には充分広い部屋は、今は多くの人で狭くなっていた。そのほとんどは鑑識官だった。 #twnovels

2015-08-20 10:26:57
夢乃 @iamdreamers

鑑識官の他には、椅子に座った裸体にバスタオルを肩に掛けただけの女性とその側に刑事が二人。一人は膝をついて女性に何か聞いている。いや、宥めているのか。もう一人の刑事はその側に立ってその様子を見ていたが、入ってきたレナに気付くと側に来た。 #twnovels

2015-08-20 10:27:28
夢乃 @iamdreamers

「警部、遅かったですね」 レナより一回り近く若い、由利素サクヤは言った。 「別件が立て込んでてね。それで?」 「はい」 サクヤは手帳を開いた。 「男性は唐津戸シンイチ。年齢六十六歳、肉体年齢は二十六歳。今日は彼女、桐紫路マユカの相手をしていたそうです」 #twnovels

2015-08-20 10:28:02
夢乃 @iamdreamers

「相手をしていた?」 「はい」 サクヤはマユカから聞き取ったことを告げた。 「桐紫路マユカは寄那濱国立大学の三年生。彼女によると、最初は特に異常はなかったようです。後から入ってきた彼と一度性交して、その後彼女は一人でシャワーを浴びたそうです」 #twnovels

2015-08-20 10:28:34
夢乃 @iamdreamers

「その時はまだ息はあったのね?」 「はい。シャワーの後でもう一度ヤってくれるよう頼んで、その返事を聞いています。シャワーから出ると、彼はベッドに寝転がったままで彼女の問いかけにも反応せず、胸に手を当てたところ鼓動を確認できなかったそうです」 #twnovels

2015-08-20 10:29:03
夢乃 @iamdreamers

「それで、すぐに連絡を?」 「いえ、しばらく茫然自失状態だったようです。彼女自身もよく憶えていないようですが。気付いたら床に座り込んでいて状況を思い出し、インターホンまで這って行って緊急連絡ボタンを押したそうです」 #twnovels

2015-08-20 10:29:35
夢乃 @iamdreamers

「県警へは、その緊急連絡と連動して?」 「いえ、緊急連絡ボタンはセンター内の保安室に繋がっているだけです。保安員が部屋に駆けつけ、事態を確認して冷凍睡眠技師を呼ぶのと同時に県警に連絡しています」 「なるほどね・・・」 レナは考えた。 #twnovels

2015-08-20 10:30:08
夢乃 @iamdreamers

「技師への聞き取りは?」 「今、洲莉岡さんと華牟羅さんが」 「そう。それじゃ、ここの鑑識が終わったら、彼女には署に来てもらってもうちょっと詳しく状況を聞いて。代わりの服が必要ね。それから、このセンターは一時閉鎖。あまり長くはできないけど」 #twnovels

2015-08-20 10:30:41
夢乃 @iamdreamers

「はい、両方とも手配は済んでいます。それから、冷凍睡眠装置のメーカーにも、洲莉岡さんが連絡を入れているはずです」 「ありがとう。いい手際ね。それじゃ、ここはよろしく。私はここの責任者と話してくる」 「はい」 現場の状況を確認したレナは、部屋を後にした。 #twnovels

2015-08-20 10:31:09
夢乃 @iamdreamers

男性保存センター内で男が亡くなる事故は、国内でも数年に一回は報告されている。それらの死亡事故の多くは、冷凍睡眠から解凍するときに判明している。死亡時期は二種類に大別できた。冷凍睡眠に入るときに死亡して解凍まで気付かれないケースと、解凍に失敗するケースと。 #twnovels

2015-08-20 10:31:39
夢乃 @iamdreamers

今回のケースは前例がない。少なくともここに来る前にレナが調べた範囲では、海外の事例も含めて、見つからなかった。解凍された男が技師の検診をパスし、女との情事を一回行なった後しばらく経ってから死亡する、などというケースは。 #twnovels

2015-08-20 10:32:10
夢乃 @iamdreamers

この事件は今までの男性死亡事例と何かが違う。そう、これは「事故」ではない、「事件」だ。あの男、唐津戸シンイチは「死んだ」のではなく、何かが彼を「殺した」のだ。レナの、刑事としての勘がそう言っていた。 レナの勘は、半分は、当たっていた・・・ #twnovels

2015-08-20 10:32:46

夢乃 @iamdreamers

榊多キリナがそれを知ったのは夕食を摂った後のことだった。その日キリナは午後になってから、家の一角に造った研究室とそこに隣接した温室に篭ったきり、いつも嗜んでいる午後のお茶を淹れるのも忘れていた。 #twnovels

2015-08-20 10:34:46
夢乃 @iamdreamers

遅くなった夕食の後、後片付けを後回しにして居間で見ていたテレビのニュースでそれを知った。 (そう・・・今日がその日になったのね・・・さようなら、私の最後の息子。それから、ありがとう、そしてごめんなさい・・・) その夜、キリナは一人、彼の死を悼んだ。 #twnovels

2015-08-20 10:35:36
夢乃 @iamdreamers

霜霧良カスミは、キリナよりも少しだけ早く、それを知った。その時カスミは、ラジオ放送を聴きながら、日用品デザイナーを使って椅子を造ろうとしていた。デザイン教育を受けていないので四苦八苦しているところで、ラジオから流れるそのニュースを聞いた。 #twnovels

2015-08-20 10:36:14
夢乃 @iamdreamers

名前は出なかったが、それが一度しか合ったことのない“彼”であることを直感した。 (あの子、亡くなったんだ・・・私の・・・俺のために産まれて、俺のためにセンターに残って・・・) キリナに連絡しようと思い、けれど何を言っていいか解らず、結局止めた。 #twnovels

2015-08-20 10:36:52
夢乃 @iamdreamers

ハルナが家に戻ってきてから、カスミは二人で彼のために献杯した。ハルナも気を落としていた。ハルナが一緒に生活していた時間はカスミよりも彼の方が長い。その分、カスミよりも悲しみは大きかったかも知れない。その夜は二人、静かに過ごした。 #twnovels

2015-08-20 10:37:37
夢乃 @iamdreamers

冬波菜ミユキはまだ知らなかった。聞き流したニュースの伝える人物が彼女の求める人物その人であることを。 #twnovels

2015-08-20 10:38:41
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