黄昏町(柊)二十五日目

竜、再び。 初日/一日目→http://togetter.com/li/849906 前日・前々日/二十三・二十四日目→http://togetter.com/li/862749 翌日/二十六日目→http://togetter.com/li/862953
0
@hiiragi_r_t_d

【二十五日目】 [ハンドアウト]チャイムが鳴り響き、君は意識を浮上させる。校庭から見上げる校舎の廊下を、巨大な竜が横切ってゆく。《開始地点[学校]shindanmaker.com/541542#黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

2015-08-18 22:22:47
@hiiragi_r_t_d

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。 懐かしいチャイムの音が遠くに聞こえ、私は目を開ける。 真っ赤な夕焼け空が視界いっぱいに広がっている。 私はむくりと起き上がると周囲を見回した。 01 #hollytk

2015-08-18 22:24:22
@hiiragi_r_t_d

ここは学校の運動場。雑草が一面に生え、ただの荒れ地となっている。 目の前の校舎の二階には大きく壁に穴が空いている。 「またここに来てしまいましたか…」 校舎の一階廊下を、細長い巨体が悠然と通り抜けていくのをガラス越しに見ながら私は呟いた。 02 #hollytk

2015-08-18 22:26:12
@hiiragi_r_t_d

ここは学校。竜の棲家だ。 私は竜がこちらに気付く前にここからおさらばしようと立ち上がり…体の異常に気付く。 私の体は、水晶のように澄んだ結晶に置き換わっていた。 体を動かす度に水晶の身体と硝子のスーツがこすれ、キリン、カリン、と澄んだ音が響く。 03 #hollytk

2015-08-18 22:28:21
@hiiragi_r_t_d

なるほど、車に轢かれるとこういう異形を宿すらしい。 私は薄い白色の結晶でできた自分の体を観察する。 硬化の異形と違い、この異形による変化は体表面にとどまらず、体内、更には衣服にまでも及んでいる。 04 #hollytk

2015-08-18 22:30:10
@hiiragi_r_t_d

私は硬化を解くように結晶化も解けるのではないかと試してみたが、解ける様子はなかった。 更に硬化することも出来なくなっている。 「困りましたね…」 この水晶のような体が、竜の一撃に耐えられるとは思えない。 05 #hollytk

2015-08-18 22:32:22
@hiiragi_r_t_d

ゴロゴロゴロ……… 雷鳴のような唸り声が響く。竜がこちらに気付いたのだ。金の瞳が窓ガラス越しに私を見据え、攻撃の期を窺う。 離脱の為に私が尾を伸ばした瞬間、竜は窓ガラスを盛大に突き破り、突進してきた。 06 #hollytk

2015-08-18 22:34:13
@hiiragi_r_t_d

竜の大きな頭が目の前に迫る。長い髭は私を威嚇するように広がり、角からは細かい雷撃が走る。 私はその角に躊躇なく尾を巻き付けると、突進の勢いに逆らわずに竜の頭に張り付いた。 視界を塞がれた竜は困惑し、前足で顔を掻く。 07 #hollytk

2015-08-18 22:36:04
@hiiragi_r_t_d

鋭い爪が迫り、私は慌てて角を乗り越え竜の体の上へ移動する。 竜は背中に乗っている私を気絶させるつもりなのだろう。ぶるりと身を震わせると勢いよく急上昇を始めた。 08 #hollytk

2015-08-18 22:38:13
@hiiragi_r_t_d

竜の背に乗りながら私は覚悟を決める。 恐らく……あくまで予想なのだが、この結晶化した身体は気圧や気温の変化にも耐えうる、と思われる。先程の電撃もさして問題なく地面へと流れていった。 もし駄目だったら、大人しく喰われてやろう。 09 #hollytk

2015-08-18 22:40:05
@hiiragi_r_t_d

竜が舞う。更に更に高く。 しかし雲の上に達しても、私の意識は途切れない。 やはり結晶化には、身体を環境に適応させる力があるようだ。 そして急上昇で獲物を仕留められなかった竜が次に取る行動は、当然…急降下だ。 10 #hollytk

2015-08-18 22:42:15
@hiiragi_r_t_d

竜が空中で身を捻り、180度その向きを変える。 私は歯を食い縛り、尾を一層強く竜の角に巻き付ける。 竜が急降下を始めた。 11#hollytk

2015-08-18 22:44:01
@hiiragi_r_t_d

歯の根が合わない。チリチリと風鈴同士をぶつけたような音が口から鳴っている。歯が結晶化しているからだ。 最大限に太くした尾と右腕の歯、更には左腕の鬼の力も全力で活用し、私は竜の背にしがみついていた。 竜が吼え、さらに加速する。 12 #hollytk

2015-08-18 22:46:21
@hiiragi_r_t_d

左手が竜の鱗を潰し、肉を直接掴んでいる。 右腕の口からは結晶化した歯が鱗に阻まれ、ボロボロと欠け落ちていた。 私は必死にしがみつきながらも、近づく地面をじっと見つめる。 竜が降下をやめるまで、あと三十秒ほどだろうか? 13 #hollytk

2015-08-18 22:48:09
@hiiragi_r_t_d

私は地面と竜を見る。 十…九…八…七…六…五…今! 竜が降下を終えるよりも前に私はその背を蹴り、校舎の三階よりも高い空へと私は跳んだ。 角に巻きついた尾が極限まで伸び切り、私と竜を繋ぎ止める。 遥か下、地面へと降り立った竜が私を見上げる。 14 #hollytk

2015-08-18 22:50:08
@hiiragi_r_t_d

私は空中で姿勢を整えると、左手をきっちりと揃える。結晶化した指が融合し、一振りの鋭利な剣と化す。 左腕を大きく引き、弓のように引き絞った左手で狙いを定めるのは、竜の眉間。 15 #hollytk

2015-08-18 22:52:42
@hiiragi_r_t_d

伸び切った尾が限界を迎え、今までにない速度で縮む。角を引っ張られた竜が宙でよろめく。 縮む尾の勢いと、左腕の鬼の力、鋭く揃えた水晶の指。 全てを組み合わせた全力の一撃が、竜に叩き込まれる。 16 #hollytk

2015-08-18 22:54:29
@hiiragi_r_t_d

竜の咆哮と、衝撃音。 腕が砕け散りそうなほどの衝撃に、意識が飛びそうになる。 私が目を開けた時、そこにあったのは……倒れた竜の頭と、そこに突き刺さる私の左腕だった。 17 #hollytk

2015-08-18 22:56:02
@hiiragi_r_t_d

「殺った………か」 私は左腕を引き抜く。 殺すつもりは無かったのだが……こうなってしまった以上、有効活用しなければこの竜にも申し訳ないだろう。 それに、竜の構造は誰も知らない。 私は竜に手を合わせ少しだけ黙祷を捧げた後、好奇心のままに解剖を始めた。 18 #hollytk

2015-08-18 22:58:17
@hiiragi_r_t_d

揃えた左手をメスのように使い、鱗を剥がして皮を切り開く。体の内部は一般的な脊椎動物とさして代わりは無さそうだ。 これなら滞りなく解剖できる。 できれば、飛行の仕組みを知りたい。 19 #hollytk

2015-08-18 23:00:20
@hiiragi_r_t_d

「ふう、こんなところでしょうか」 結論から言うと、飛行器官と呼べる物は見当たらなかった。 発電器官は角の根本に一対、脈打ちながらビリビリと弱い電気を発する塊があった。 尾の変化の仕組みは解らないままだ。 内臓はヘビやトカゲの類に似ている。 20 #hollytk

2015-08-18 23:03:07
@hiiragi_r_t_d

「手が血塗れになってしまいましたね」 透明な左腕に血がベッタリと付着して、なんとも奇妙な見た目になっている。 硝子質のジャケットとズボンにも血が飛び散っていた。辺りには内臓と血の匂いが立ち込め、竜の死骸の破片が散らばっている。 21 #hollytk

2015-08-18 23:05:07
@hiiragi_r_t_d

私は辺りを見渡し、竜の頭を見つけるとそれに向かって告げた。 「とても楽しかったです。また機会があれば、あなたの同類を解剖させてくださいね」 解剖は楽しかった。まさかこんなところで新しい趣味を見つける事になろうとは、予想外だった。 22 #hollytk

2015-08-18 23:07:06
@hiiragi_r_t_d

「ああ、本当に楽しかったですね」 ふう、と溜息をつく。 竜の体内を知る事ができた。知識欲が満たされ、私は満足した。そのはずだ。 なら、この腹の底から湧き上がるような渇望はなんだろうか? ふと私は思いつき、目に止まった竜の尾の切れ端を右腕に食わせてみた。 23 #hollytk

2015-08-18 23:09:10
@hiiragi_r_t_d

右腕が竜の尾をまるで骨せんべいのように噛み砕き、血と共に呑み込む。 それとともに、渇きは少し薄れた。 きっと右腕の喉が渇いていたのだろう。 服が硝子化していると洗うのが楽でいいな、と思いながら私は歩きだした。 24 #hollytk

2015-08-18 23:11:58