8月 チョークと琴羽

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―― @tometis_story

【8月のある日。夕暮れ】

2015-08-06 15:36:26
葛城昇応 @AKR_KTH

【夏の日、日の沈んだ都会】

2015-08-06 15:36:44
葛城昇応 @AKR_KTH

琴羽】高いビルに囲まれた道路。歩道橋の階段の、一番うえから二、三段というところに座り、そこから見える街の風景を眺めている。

2015-08-06 15:38:43
―― @tometis_story

行き交う人々は多い中、大通りの隅っこに奇妙な出で立ちの男が一人。市松模様のフードで顔を影で隠した男が、ジャグリングを披露しているのだ。勿論、通りかかってみようとする物など一人もいない。

2015-08-06 15:39:57
葛城昇応 @AKR_KTH

ぬかるんだような熱っぽい空気。それでも先刻には一時の夕立が降って、とはいえそれらの水はあっというまに蒸発してしまったけれど、それでも地面が多少は冷されている。斜陽はビルの陰に隠れて空は薄い薔薇色と白っぽく褪せた金色と宵に向かう空色。 琴羽】見晴るかす景色に、何か見えるだろうか。

2015-08-06 15:42:41
―― @tometis_story

指の上に挟んで、上に投げては回転するモノ。腕前は、まあまあといった所だろう。とは言え、ジャグリングしているものが、コンビニで売っているアイスクリームなのだから。通りかかる人が見るはずもなく。

2015-08-06 15:42:48
葛城昇応 @AKR_KTH

琴羽】降りてゆく歩道橋の階段から伸びる大通り、なにかがぽん、ぽんとリズミカルに跳ね上がる。ふとそれに目が留まる。 「………」 しばらく漠然と、その跳ねる動きを見ている。薄物とはいえ夏には暑そうな黒い出で立ちで、けれど温度など別の次元にあるような顔で、膝を抱えたまま。

2015-08-06 15:45:46
―― @tometis_story

@AKR_KTH チョーク】指先に絡めとり、上に放り投げるのは、棒形のアイスクリーム。それらは空中で一つ、二つ、と増えていく。

2015-08-06 15:47:49
葛城昇応 @AKR_KTH

琴羽】上と下の睫毛を、綴じあわせてぱちりと引きはがすように、音を立てるようなまばたきをする。高いところから見える、比較的ありふれてはいても奇矯な芸を披露するその人物の、放り上げるものと手首のひらめきを見、

2015-08-06 15:48:26
葛城昇応 @AKR_KTH

@tometis_story 琴羽】ゆるりと、大きな魚がゆらめくように、歩道橋の上で立ち上がる。しばらくのあいだ、じ、とその芸に、遠くから目を注いでいる。

2015-08-06 15:49:57
―― @tometis_story

@AKR_KTH チョーク】最終的な数は、計、十六。あまりに多いアイスクリームはぽんぽんと、弾ける用に飛んで行く。それを見上げもせずに、手元だけでジャグリングする男は、暇なのか、大きく欠伸をした後、ふと、あたりを見渡した。

2015-08-06 15:51:49
葛城昇応 @AKR_KTH

陽が翳って、ビルの底に影、陰が満ちてゆく。

2015-08-06 15:52:23
―― @tometis_story

@AKR_KTH チョーク】落ちてきたものを指先でつかみとり、くるりと回転させ放り投げたり、背中でキャッチしたり、肩に受け止めて、コロコロと肘の方まで転がさせ、肘で跳ね上げたり、脇の下に手を通してキャッチしまた放り投げる。パフォーマンスは、多彩だ。

2015-08-06 15:54:16
葛城昇応 @AKR_KTH

@tometis_story 琴羽】階段を上がってくる有象無象の通行人。彼らとすれ違い、また階段を下りてゆく同じような通行人に紛れて歩きだす。ゆらゆらと大通りに降りてゆく。視界の位置からまだその芸の主の姿がみえるぎりぎりで、その人物がふと周囲を見渡すのが見えた。階段を下りる。

2015-08-06 15:55:54
葛城昇応 @AKR_KTH

@tometis_story 琴羽】それだけのパフォーマンスを披露すれば、しだいに、遠巻きに立ち止まり、あるいは歩調を緩めて見物する輪もできてゆくだろう。曖昧なその輪の端に加わり、歩道の隅にしゃがむようにして、じっとその姿を眺めはじめる。なまぬるい風が吹いてゆく。

2015-08-06 15:59:16
―― @tometis_story

@AKR_KTH チョーク】速度を早める。先程の早回しのように二倍に。ギャラリーが数名集まれば、男は十六のアイスをジャグリングしながら、全て自由自在に操ってみせよう。三つのアイスが空中で投げられてぶつかり、三角形を空に描いたり、描いた一瞬の間に一本のアイスが真ん中を通ったり等だ。

2015-08-06 16:03:39
葛城昇応 @AKR_KTH

@tometis_story 琴羽】難度の高そうなパフォーマンスが披露されるごとに、ギャラリーから感歎の息づかいや、ぱらぱらとした拍手が起こる。それらをなにもせず、ただじっと、投げ上げられるアイスクリームまでを含めてその人物の像を眺めみている。

2015-08-06 16:06:51
―― @tometis_story

@AKR_KTH チョーク】パフォーマンスが最後に差し掛かれば、十六本全てを上に放り投げる。最初の一本より、次の一本がアーチを描くようにその上をゆき、積み重なるアーチの軌道。残り十四回目になれば、その高さは大きなものとなり、そして、次々に落ちてくるアイスを指に挟んで見せる。

2015-08-06 16:11:08
葛城昇応 @AKR_KTH

@tometis_story 琴羽】人物が見事にすべてのアイスをキャッチしてみせれば、周囲にかたちづくられていた人の輪からぱらぱらと拍手が起こる。そもそものギャラリーが、そこまで多いわけではないので大喝采ではないだろう。歩道の隅、ビルの壁の傍らにしゃがんでただその光景を見ている。

2015-08-06 16:16:51
―― @tometis_story

@AKR_KTH チョーク】「It's Surprise!」拍手に対して、指先に挟んだ全てのアイスクリームを見せつける。いつの間にか袋が破れていたのか、中身がむき出しになっているのだ。気づけたものは何人いただろうか。男は、周囲に居る人一人ずつに、そのアイスクリームを配っていこう。

2015-08-06 16:22:52
葛城昇応 @AKR_KTH

琴羽】拍手も何もなく、その人物の視界からもほとんど外れるようにして、ただ見ている。空気はぬるんだまま、空はいよいよ紅く、夜が増すごと、街に灯る燈もそのきらめきを増してゆく。

2015-08-06 16:23:58
葛城昇応 @AKR_KTH

@tometis_story 琴羽】輪の端、隅で目を眇める。アイスを配ってゆく、顔の見えないそのフードの男の、姿は見えるようなのに、存在がよく分からない。その人物が、「どんなもの」なのか、分からない。目を眇める。

2015-08-06 16:27:10
葛城昇応 @AKR_KTH

@tometis_story 琴羽】フードの男が、こちらに気付くかどうかは分からない。視界の外れ、彼の背後に近い位置にいる。気付けば目には留まるかもしれない。夏には向かない黒系統の上半身。それでも色の褪せる日暮れ時。気付かなければ、それはそれでただ、心ゆくまで彼を見ているだろう。

2015-08-06 16:34:54
―― @tometis_story

@AKR_KTH チョーク】アイスクリームを手渡し散らばっていく人々。周囲をくるりと見渡せば、見つけるのは最後の一人、散らばっていった人々の中で残った、濡れ烏の様な少女。そちらに近づいていけば、アイスクリームを差し出そう。「あんた、暑くないのか?」

2015-08-06 16:35:41
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