黄昏町(柊)三十二日目

柊 @hiiragi_r_t_d

【三十二日目】 【残り四百圓】 【魂12/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) #hollytk

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「しゃあねえな！あそこ行こうぜあそこ！」 射的を後回しにする事に渋々同意したカスカが背から飛び降り、箱型の大きな屋台を指差す。 内外の視線を遮る暗幕を張り巡らせ、がしゃどくろが描かれている。 その中央には「圓百回一 シ試肝」と書かれている。 01 #hollytk

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「肝試し……？」 「おう！これなら良いだろ？」 私の行きたい出店リストには、肝試しはないのだが。 「まあ、良いですが」 近いので付き合ってやろう。 02 #hollytk

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私とカスカが屋台に近付くと、ひょうきんな面を着けた店主が声を張り上げる。 「入ってらっしゃい見てらっしゃい！黄昏町一の驚きを貴方に！驚かない貴方には景品もあるよ！」 「ほほう、景品ですか」 カスカの下駄や、巳穂の賽子を思い浮かべながら私は考える。 03 #hollytk

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好奇心を刺激される。分解できなくても観察するだけでも充分に楽しめそうだ。 「店主、景品は何ですか？」 「それは勿論秘密だ！自分の目で確かめてくれよな、水晶のあんちゃん！」 「そうだぜ！無粋ってモンだ！」 「おっ、分かってるじゃねえか嬢ちゃん！」 04 #hollytk

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「仕方ないですね。店主、二人分」 「一人分でいいぜ！お嬢ちゃんはサービスだ」 「悪いですよ」 「いいって事よ！しばらく他の客は入れねえから、二人で楽しんできな！」 「ちょっ、おっさん何言ってんだよっ」 「ガッハッハッハ！若えもんはイイなあ！ガッハッハ！」 05 #hollytk

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店主は明らかに誤解しているが、まあ別に良い。おかげで一人分オマケして貰えたのだから、むしろプラスと言えるだろう。 「ほら、行きますよカスカ。店主、景品を用意しておく事ですね」 「おっ、良い根性じゃねえかあんちゃん！だがウチは本物だぜ！」 06 #hollytk

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私は百圓玉を一枚店主に渡し、カスカの手を引いて暗幕をくぐる。 参道に連なる提灯の灯りと夕陽が遮られ、何も見えなくなる。 07 #hollytk

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「いやー、どんなお化けが出てくるのでしょうか。ワクワクしますね、カスカ」 「隣にいる変態バケモノのせいで肝試しがあんま怖くねえんだが」 これだけ言うことを聞いてやっているというのに、口の減らない解剖対象だ。 望み通り、少し怖がらせてあげよう。 08 #hollytk

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私はニヤリと笑うと、カスカから一歩距離を取る。 「ああ、確かに私の尾を掴んだままでは怖くないですよね」 「おう、で、でも触ってねえと弾かれるし仕方ねえな」 カスカが少しギョッとしているのが離れていても伝わる。 09 #hollytk

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「恐らく、手を離しても大丈夫だと思いますよ」 私はそう言いながら、カスカの手から尾をスルリと引き抜く。 「えっ、ま、待てって！コラ！」 カスカが目に見えて慌てふためく。 私は笑いをこらえながら続ける。 「どうしたのですか？怖いのが好きなのでしょう？」 10 #hollytk

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「いや、追い出されるとかそういうのは勘弁だし」 「そういえば言い忘れていましたが、その下駄はこの縁日への通行手形も兼ねていると巳穂が言っていました」 嘘だ。だが恐らく大丈夫だろう。 「えっマジ？それはそれで気になるんだけどそうじゃなくて、さ……」 11 #hollytk

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カスカが私のいるであろう方向に手を伸ばす。私はひょいと避ける。カスカの手が虚しく宙を掻く。 「あれ？どこ？」 カスカがふらふらと歩き回る。私はゆっくり足音を立てないように、後ろを歩く。 12 #hollytk

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さて、カスカもかなり不安になっているようなのでそろそろお化けにご登場願いたいのだが………中々出てこない。 「おーい、どこだよー」 「ここですよ」 「うわぁっ！って後ろかよ！ビビらせんなよなー」 「肝試しに来たのですから、ビビるのが正解だと思いますよ」 13 #hollytk

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「じゃあアンタもビビれよ！」 「どうやってビビらせるのでしょうか？ワクワクしますね」 「ちきしょー！あったまくるなー！」 別に怖いものなし、という訳ではないのだが。しかし出店の肝試しで無邪気に恐怖するには、私は死にすぎた。 14 #hollytk

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カチャリ、と部屋の隅で何かの仕掛けが作動する音が聞こえた。 「それじゃあ、ここからが本番ですよ。頑張ってくださいね」 そう言い残すと私はカスカから距離を取る。カスカがまた不安そうに辺りを見回す。 15 #hollytk

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(さあて、鬼が出るか蛇が出るか…) 私は暗闇の中で独りごちた後で気付く。 (そういえば、どちらも知り合いでしたね) 鬼に関しては左腕もある。 (どうでもいいことですね) 私は仕掛けと、カスカを観察する。 (楽しみですね) 16 #hollytk

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カチリ、カチリ、カチリ。 これは……カラクリや機械仕掛けの類いではない。人が隠し扉を開けるために、一つづつ留め金を外している音だ。 つまり出てくるのは、珍しい異形。 (さて、どんな異形が出てくるのやら) 子供のように胸を高鳴らせながら、私は音の源に近寄る。 17 #hollytk

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ガタリ。ゴトリ。ガタン。 「う、うわあっ、なんだよコレっ」 突如、部屋のあちこちに積まれた石が崩れ始める。 なるほど、黄昏町一を名乗るだけあって凝った仕掛けが施されている。この小屋自体が商売道具というわけだ。 そしてついに、留め金が全て外された。 18 #hollytk

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バネ仕掛けの扉が勢いよく開き、中から青白い人魂を伴った巨大ながしゃどくろが立ち上がる。 「ガア亜啞ア堊ァ唖痾アァアアッ！」 「ひゃああああああああああ！」 腰を抜かすカスカを横目に、私はがしゃどくろを観察する。 19 #hollytk

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身長は3m近くあるだろうか。両目には青白い光。空っぽのあばらの中に大きな人魂を灯し、周囲にもいくつかの人魂を浮かべている。 身長が違うのはよく分からないが、このがしゃどくろは……… 「臥ア唖アァあ嗚ァ呼痾アッ！」 「うわあああああああああん！！」 20 #hollytk

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泣かされるカスカを横目に、私はがしゃどくろを指差し、言い放つ。 「あなたの正体は」 人魂に照らされたカスカが、私を見て泣き止む。 「私達をここに案内した店主ですね」 「ううっ、グスッ、……え？」 21 #hollytk

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「あっちゃ亜、バレち摩った科！」 正体を言い当てられたがしゃどくろ…店主は本来の大きさに戻り、がしゃり、と額を叩く。 「流石だなあ、水晶のあんちゃん！」 「いえいえ、それほどでも」 隣であれだけ驚かれると、逆に冷静になるというものだ。 22 #hollytk

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「ツレを泣かしたまんまなのは男としてはどうかと思うが負けは負け！景品をやるよ！」 「あ、コイツは恋人でもなんでもないですよ。あと景品が何なのか聞いても？」 「これだ！」 店主が自信ありげに取り出したのは、店主本人を模した全身タイツだった。 23 #hollytk

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「………それはなんですか、店主」 「俺みてえに骨っぽくなれるタイツだ！すごいだろう！お宝だぜ！」 「ああ、なるほどつまり着ると骨だけに見える魔法のタイツ、という事ですか」 「いや、ただのタイツだ！」 「………………………………は？」 24 #hollytk