黄昏町(柊)三十二日目
- hiiragi_r_t_d
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「俺はこの町に来る前、このタイツを着て骨になったつもりになっていた…」 突然店主は自分を語り始めた。 「親、友、近所から後ろ指を差される日々…しかし!俺はついに骨の身体を手に入れた!この!黄昏町で!」 「よかったですね。さあカスカ、次の店に行きましょうか」 25 #hollytk
2015-08-28 23:50:50「そして骨の身体を手に入れた瞬間!俺の人生は変わった!座長に見初められて役者デビュー、しかし花形役者との禁断の恋…別れ…そして俺は独立!今はこうやって祭りと男女の仲を盛り上げる、恋のキューピットをやってる! あと水晶のあんちゃん!なんで気付いた!?」 26 #hollytk
2015-08-28 23:52:23私達が興味を失った事に気付いたのだろう。店主は強引に自分語りを終わらせた。 「そうですね…まず客引きの時に完全に肌を隠しているのを見た時に、ワケありの異形だろうとは思っていました」 「なるほど…そろそろ客引き雇うかね!金はねえんだけどな!」 27 #hollytk
2015-08-28 23:54:29「あと、まあこれは私達への気遣いなのでしょうけれど出てくるまでの時間が長すぎです」 「普通の恋人だと二人きりになるとイチャイチャし始めて、いい感じなんだがなあ…」 「私達は恋人ではないですよ、店主」 「じゃあなんだってんだい、あんちゃん」 28 #hollytk
2015-08-28 23:57:09「コイツは私の解ぼムグゥッ!?」 正直に答えようとした私の口を、カスカが腕を伸ばして急いで塞ぐ。 (バカ!ドン引きされるだろっ!) (ぷはっ、嘘はいけないと思いますよ) (嘘も方便っていうだろがっ!) (あ、そういえばさっきの下駄の話、あれは嘘です) 29 #hollytk
2015-08-28 23:58:34ワナワナと震えた後、私の胸をペチペチと叩くカスカとニヤリと笑う私を見て何か誤解したらしい。店主はカツン、と手を叩くと納得したように深く頷いた。 「なるほど、なるほどなあ」 「……まあいいです。あと、石が崩れる仕掛けはとても良いと思いますよ」 30 #hollytk
2015-08-29 00:00:28「テグスか何かが繋がっていたのでしょうが、私も崩れ始めるまで気付けませんでした」 「ふっふっふ、それはどうかな……」 「その反応は図星ですね」 「うぐぅっ」 面白い人だ。 「その変なタイツは要らないので、貴方の異形について聞かせてください」 31 #hollytk
2015-08-29 00:03:30「変……」 「まずその目、見えてるんですか?」 「ああ、青いサングラスをかけてるみたいだがはっきり見える」 「食べ物は?」 「腹は減らねえなあ。まあスカスカだけどな!ガッハッハ!」 「筋肉がないのに動くんですね」 32 #hollytk
2015-08-29 00:04:23「お、おう。筋肉痛にもならない」 「なるほど、念動力みたいなものでしょうか」 「そうかもしれねえな……」 心なしか、店主の骨から光沢が薄れてきたように見える。テンションに影響されるのだろうか? 「さっきの巨大化、あれはどうなっているのですか?」 33 #hollytk
2015-08-29 00:06:23「そいつは話せねえな!企業秘密だ!」 「心臓がない貴方はどのくらい粉々になれば死んだ事になるのでしょうか?」 手をゴキゴキと鳴らしながら少し脅してみる。 「おっちゃん、コイツは本気だぜ。大人しく話した方が賢いとアタシは思う」 カスカも手助けしてくれる。 34 #hollytk
2015-08-29 00:08:13「お、おう…あんちゃん、怖いのか怖くねえのかよく分かんねえな…」 仕方なく店主が巨大化する。 ギギギギ、という骨の軋む音と共にその姿が変化する。 骨は太く、大きく。白く輝いていた歯は黄ばんだ乱杭歯に。目の青白い光が強く揺らめく。 35 #hollytk
2015-08-29 00:10:24「これ破、べ津の異形だ」 店主がしゃがれた声で話す。 「俺が役者に亡れ汰のも、弧の異形乃おか下さ。俺のアイ出ン照ィティーだ」 「なるほど。聞き取りにくいので元の姿に戻って頂いてもいいですか?」 店主の姿が縮む。 「骨使いが荒いぜあんちゃん…」 36 #hollytk
2015-08-29 00:12:35本当ならばそれらの異形を得た経緯も聞きたいところだが、カスカがいい加減暇そうだ。 「ありがとうございました。そろそろ失礼します」 「今度来る時はお嬢ちゃんだけで来てくれよな!」 私とカスカは暗幕をくぐり、提灯の灯りの下に戻る。 37 #hollytk
2015-08-29 00:14:31「楽しかったですね、カスカ」 「まあな。っていうかさっきのアレ、アタシはまだ許してねえからな!」 「そうですか……そんなに怒るとは、予想外でした」 「ああそうだ、アタシは怒ってんだよ!本気だぜ!」 「どうすれば、許してもらえるのでしょうか?」 38 #hollytk
2015-08-29 00:16:04カスカは僅かに躊躇った後、そっぽを向いて言った。 「手…繋いでてくれよ。尻尾じゃなくて、さ……」 「ふふふ、分かりましたよ」 私は右手でカスカの手を握る。するとカスカの方から、きつく握り締めてきた。カスカの左手に右手の歯が食い込み、僅かに血が滲む。 39 #hollytk
2015-08-29 00:19:14カスカの手から流れる血が歯を伝い、右手の口へと流れ込む。 「カスカ、血が」 「うっせえ!こんなの大したことねえよ!だから」「ええ、離しませんよ」 「…………分かってんならいいんだよ」 耳まで真っ赤に染まったカスカの手を引いて、私は石畳を歩く。 40 #hollytk
2015-08-29 00:20:09「………あと、もう一つ」 「なんですか、カスカ」 「その、さ……名前で…イチジク、って呼んでいいか?」 私は足を止める。カスカが一歩先で振り返る。 「駄目だ。」 思ったよりもずっと低い、地の底から響くような声。 41 #hollytk
2015-08-29 00:22:32イチジク。私の名前。 「私をその名で呼んでいいのは、ユキだけだ」 「そ…そっか。なんか、ごめんな」 カスカの声で私は我に帰る。 「…………いえ。こちらこそ、すみません」 私は何をしているのか。名前くらい、好きに呼ばせてやれば良いのに。 42 #hollytk
2015-08-29 00:24:38「つ、次の店行こうぜ!な!」 「ええ、行きましょうか」 カスカはこういう時に気が回る。その気遣いが悲しかった。 43 #hollytk
2015-08-29 00:26:13──────── 【三十二日目】 【残り三百圓】 【魂+1】 【魂13/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) 44 #hollytk
2015-08-29 00:26:46[縁日]大きな箱型の屋台には「肝試し」の看板。「入ってらっしゃい見てらっしゃい!」《所持異形3つなら驚かされる【魂増減なし】、4つ以上なら驚かす【魂+1】/-100圓》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/553567 #hollytk
2015-08-29 00:27:00肝試しの店主 自分の醜い顔を嫌い、骨の身体を切望していた男。黄昏町のどこかの劇場で役者をやっていたらしい。人前に立つ感覚が忘れられず、お化け役をやっている。 異形/髑髏、火玉、巨駆、牙 【魂?/力3/探索3】 #hollytk
2015-08-29 00:27:14