bistro cachette ~ビストロ カシェット~

弱虫ペダル二次創作 東荒+真波 レストランパロ 第一話 真波、襲来
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

bistro cachette~ビストロ カシェット~ 住宅街の奥まった一角にその店はあった。 「み~つけた」 チョークアートの看板がひっそりと出ているだけの小さなビストロだ。 『bistro cachette』 「ビストロ カシェットゥ……こっちの発音だとカシェットかな」

2015-08-29 19:32:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 幹線道路から一本奥に入っただけで、このあたりはずいぶんと閑静だ。 「……すごいなぁ」 鉄製の門は開いており、看板のあるアプローチを真波は弾むような足取りで進んだ。 きょろきょろと周囲を見回す。 塀を蔦が這い、アプローチ周りも綺麗に整えられている。

2015-08-29 19:35:58
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 真波はそれほど植物に詳しくはないが、たぶん、薔薇だ。 きっと春先にはとても美しく咲き誇るだろう。 「超贅沢!さっすが、荒北さんち」 ここが荒北の実家を改造したものであることを、真波は人伝に聞いて知っていた。 あれで荒北はかなりのお坊ちゃんなのだ。

2015-08-29 19:39:21
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon アプローチを抜けたところで目の前に開けたのは、庭だ。 フレンチのビストロだというのに、庭は英国式。伝統的なイングリッシュガーデンなのがおもしろい。 (まあ、綺麗だったらそういうとこ、日本人はこだわらないよね) もちろん、真波もこだわらない。

2015-08-29 19:43:46
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 時刻は15時になろうかというところ。 ランチタイムがちょうど終了する時間帯だ。 (ティータイムはやってるのかな?でも、東堂さん、デセールはそれほど得意じゃないからなぁ) もちろん、東堂だから一通りは作ることができる。でも、料理ほどのきらめきはない

2015-08-29 19:47:00
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (きっと、荒北さんが、デセールあんまり食べないからだよね) 東堂は素直ではないが正直な男なので、惚れた相手のそれほど好まないものを極める気にはならなかったのだろう。 (でも、お店の経営的にはデセールって大事なんだよね) そこが、真波の狙い目だ。

2015-08-29 20:31:35
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 玄関の扉は重厚な樫材で、中をのぞくことはできない。 ビストロの気軽さはあんまりなくて、一見さんお断りの雰囲気をぷんぷん漂わせている。 もちろん、物怖じする真波ではない。 「おっじゃましまーす」 扉を開けると、鼻先にふわりとソースの香りが漂う。

2015-08-29 20:36:05
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (バターと生クリーム……あと、柑橘系の……オレンジ、かな) 「……こんにちは~」 控えめに声をかけて玄関からそのまま光がさしている方に足を向ける。 改装したせいなのか、元々なのかわからないが玄関先はフラットで土足のまま入ることができる。

2015-08-29 20:39:20
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「……すいません。ランチはもう……ああっ?真波ぃ?」 「はーい。お久しぶりです、荒北さん」 真波山岳ただいま帰国しました~、と冗談めかして敬礼すると、荒北の驚きに彩られた表情がくしゃりと笑みにくずれた。 「おー、おかえりー。よくここがわかったな」

2015-08-29 20:42:50
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あー、黒田さんに聞きました!ほら、黒田さん、荒北さんのプチストーカーだから」 「ばーか、人聞き悪いこと言ってるんじゃねぇ」 (えー、ほんとなのに) 荒北さんは相変わらず警戒心薄いよなー、と真波は心の中で思う。 東堂がやきもきするのも無理はない。

2015-08-29 20:44:27
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ちょうどいい、皿洗い手伝え」 「はーい。手伝うんで、今日とめて下さい」 「おう。いいぞ。昼メシは食ったのか?」 「まだです」 タイミングよくぐーっと腹の虫が鳴く。 「ったく。東堂-っ、まかない、もう一人分追加」 「追加ー?何でまた」

2015-08-29 20:46:25
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北が厨房に声をかけると、奥から藤堂が出てくる。 「……真波か?」 「はい」 「いつ帰国したんだ?」 「今日ですよ?」 「……もしや、空港からまっすぐここに来たのか?」 「そうです」 真波は満面の笑みでうなづく。 「実家に帰らないのか?」

2015-08-29 20:48:09
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「なんで帰るんですか?」 「おまえ、しばらく帰ってないだろうが」 「えーと、五年くらい帰ってかな」 「バカ、帰れ」 「えー、東堂さんに言われたくないですよー」 「バカ、俺は勘当されてるんだ」 「うちの親は別に気にしてませんよ」

2015-08-29 20:50:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon だってほら、便りがないのが元気な証拠って言うじゃないですか。 「おまえが言うな、おまえが!」 とはいいつつも、天下御免の風来坊を一人息子にもってしまった真波の両親はとっくに諦めているのかもしれない。 「東堂、話はあとだ。メシにしようぜ」

2015-08-29 20:52:03
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あ、ああ……」 荒北に促され、東堂が仕方がないという顔をする。 「バターと生クリームのいいにおいがしました。あと、柑橘……オレンジですか?」 「ああ。庭のオレンジがちょうどいい感じなんでな。鴨とオレンジのパテを作ってた」 「もう食べれます?」

2015-08-29 20:55:50
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 鴨とオレンジの組み合わせは、真波が鉄板だと思うものの一つだ。 特に東堂の鴨のオレンジソースは絶品だ。パテは食べた事がないが、きっとおいしいに違いない。 「少し早いが食べられないことはないな」 「んじゃ、それとバケットとスープでいいんじゃね」

2015-08-29 20:58:19
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 一本あけようぜ、と荒北が奥へと消える。 「……まったく。おまえはいつも急に来るのだな」 「電話番号わかんなかったし、お二人の顔も見たかったんで」 それに、二人で店を開いたっていうから興味もあったんです。といえば、東堂の表情も柔らかなる。

2015-08-29 21:00:46
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「まあ、いい。そっちの奥に座れ。……おまえはバカンスなのか?いつまでこっちにいるんだ?」 「あー、それはまだちょっと決めてなくて」 (っていうか、ずっとこっちにいるつもりですけど) 「なんだ、相変わらず悠長だな」 「あはははは」

2015-08-29 21:03:18
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (っていうか、店はやめちゃったんだけど) だが、それは、今、言ってはいけないということくらい真波にだってわかる。 もう学生時代とは違う。真波とて多少は空気を読むようになった。 「おら、食うぞ」 手際の良い荒北が手に銀のトレーをもってやってくる。

2015-08-29 21:07:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「うわ、うまそう!」 トマトベースの具沢山スープにかるく焼いたバケット、それにできたてのパテ。 荒北が手にしたビンは真波の見たことがないものだ。 「荒北さん、それは?」 「シノンのロゼ。赤のソフトがいいかと思ったんだけど、ロゼでもいけそうだから」

2015-08-29 21:15:36
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「俺、飲んだことないです」 「ちょっと軽めかな。こいつの料理には合うと思って仕入れたんだよな」 特に酒好きというわけではない荒北がなぜソムリエになったのか真波は知らない。 東堂がフレンチのシェフになると決めるより先に、荒北はもう進路を決めていた。

2015-08-29 21:18:31
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北がソムリエになることを知ったのは、真波が一番最初だった。 それはずっと真波の密かな優越だった。 荒北は手馴れた風にナイフをつかって栓を抜く。 ポンというその軽やかな音が、どうしたって期待感をそそる。 「ロゼなのに、色、濃いですね」

2015-08-29 21:22:54
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「きれいだろ」 「いい香りだな」 「おう。南国のフルーツっぽいだろ。オレンジも漂ってる感じがするからな」 おまえの鴨と絶対に合うと思ってた、と荒北が笑う。 「んじゃ、乾杯しようぜ」 繊細なグラスに美しいロゼが揺れる。 「乾杯ですか?」

2015-08-29 21:33:42
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「おう。真波の帰国に」 荒北がグラスを軽く掲げる。 「じゃあ、お二人の店の順調な成功に」 「それほど順調でもないぞ」 「でも、困ってる感じは全然しないですよ」 「まあ黒字ではあるからな」 「ですよね~」 東堂と荒北が揃っていて赤字のはずがない。

2015-08-29 21:36:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「余裕があるわけでもねえぞ。こいつが素材にこだわるから」 「仕方がないだろう。料理は結局素材だぞ」 「まあな」 「菓子と違って、原価率がな」 「えー、こだわればお菓子だってかなり減価率高くなりますよ」 「でも、肉や魚ほどじゃねえだろ」

2015-08-29 21:46:42