【邪悪の樹――三ツ牙】エピローグフェイズ

断片を拾い集めたのは、誰
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【不安定】アスタージア @toe_asta

差し出された手のひらを見つめ、数秒。少女にとっては長すぎるような、長い長い数秒。言葉を一つも紡がず、そろりと、その大きな手に少女は己の手のひらを乗せた。

2015-08-29 19:12:51
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

差し出した手を少女が見つめる時間は、短いはずだったのに永劫のようにも感じられた。…永遠は、いつも、自分たちの側にあった。 小さな手のひらが乗せられるまでもまた久遠のようだった。乗せられた手の柔らかさ、そっと包み込むように握る。それから、握ったのとは逆の手で彼女を引き寄せた。

2015-08-29 19:13:09
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

少女の肩口に顔を埋めて、祈るように押し黙る。何を言えばいいのかなんて、やっぱり見つからなかったので。

2015-08-29 19:13:12
【不安定】アスタージア @toe_asta

包まれる暖かさ。それがもたらす安心感は、言い知れない。これはなあに。そう心に問いかける。心は、記憶は、何も返さない。 それでもその温もりは、永遠を一瞬で繋ぎ止める感情を生んで。

2015-08-29 19:14:15
【不安定】アスタージア @toe_asta

引かれて、寄せられた頭は少し重く、手とは違う温もりが伝わって。その人は何も言わない。言わないけれど、ほんのりと伝わる……気がした。 そしてなんとなく、そう、なんとなく開いた手で、その丸まった背中をぽんぽんと叩いてみた。

2015-08-29 19:15:17
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

背中を叩く軽い感触に、泣きそうになる。彼女は優しい。いつだって。変わっていなかったことに安堵する。きっと変わらないものだったのだと思う。変われなかったのかもしれない。 …何を言えばいいのかはやっぱりわからなくて、けれど言わなければいけないと思う。

2015-08-29 19:15:29
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

彼女に縋るようにしたまま、考え考え考えて、…考えて。謝るのは違うと思う。礼は全く違うと思う。ああでも何を、何を。…何、を。 …彼女を。ひとりにしたのは、ひとりにしたのなら。こうしてまた、逢えたのなら、なら、言うことはたぶん、たった一つだった。

2015-08-29 19:15:37
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

肩口から頭を起こす。瑠璃の目を見てすこしだけ笑んだ。本当に、ほんのすこしであるから、笑んだとは思えないかもしれなかった。そう、すこしだけ笑んでひとこと、かすれそうな声で。 「ただいま」

2015-08-29 19:15:41
【不安定】アスタージア @toe_asta

叩く背が、離れて、間近に薄青の。 この目を知っている。知っていた、はず。分からない。けれど、ほんの少し緩んだ顔。ほんの少し柔らかいような、そんな笑み。それは、笑みとしては足りない表情。それでもそれが、笑み、だと分かるのは。 きっと。 きっと――よく見ていたから。

2015-08-29 19:16:32
【不安定】アスタージア @toe_asta

ただいま、その言葉に無意識に少女は微笑んだ。 そして、応えるように、四つの音を返し、 「まってたよ」 そう続けて、その頬を撫でた。

2015-08-29 19:16:35
【不安定】アスタージア @toe_asta

「泣いても、いいよ」 抱きしめられ、同じようにその背に手を添る。広い背を、懸命に手を伸ばして、さすって。 大丈夫、だいじょうぶ。伝わるように、その人に頭を寄せて、眼を閉じた。 おかえりなさい。おかえりなさい。

2015-08-29 19:16:51
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

「…すごく、待たせた」 返事が返ったことに泣きそうになる。こんなに感情が動いたのは久々で、泣きそうだ、そんな感覚も朧だったけれど。頬を撫でる柔らかな手にすこしだけ触れる。 「…すごく、待たせた」 もう一度繰り返して、抱きしめた。

2015-08-29 19:18:05
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

寂しくなかったかとか、ひとりはこわくなかっただろうかとか、そういうことよりも。待たせてしまったことと、彼女が待っていたと、そう返してくれたことだけで、もう、それだけで良かった。

2015-08-29 19:18:09
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

泣いてもいいよと、彼女が言う。背を撫ぜられる感覚。抱きしめた腕に力を込めた。ただいま、ただいま、…ただいま。目を伏せる。頬にひとしずく、涙が伝った。 ……彼は。結局、彼女しか選べなかったのだ。 たった一つ、彼女しか。選ばなかったもの、選べなかったものの重みを承知でそれでも。

2015-08-29 19:21:34

それは既に終わり、閉ざされた物語である
先は無く、未来はとうに枯れ果てている

彼らの代わりに芽吹いた一つの樹
彼らの物語は『邪悪の樹』――

――クリフォトと呼ばれるその木の中に眠る

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