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【邪悪の樹――三ツ牙】エピローグフェイズ

断片を拾い集めたのは、誰
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【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

本心を言えば転ぶ前に助けに入りたかったが、騎士のような俊敏さがない自分が行ったところで結果は見えている。それに、下手に自分に何かあれば、叱られるのは彼女だ。 「……これはまた、メイド長のお説教が飛ぶなあ」 幼い頃に見た凄まじい形相を思い出し、ひとりごちる。

2015-08-29 17:33:02
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

彼女が屋敷に来た時から、否、その前から知っている青年としては、この有様が決して怠慢ゆえではないと知っているからこそ、いたたまれない。手を伸ばし、乱れ一つなく整えられた髪を……荒く切られてなどいやしない銀髪を、梳くように撫でた。 「あの人、悪い人じゃないけど、たまに怖いよな」

2015-08-29 17:33:23
マリー・ルモワーニュ @btl_az

メイド長の単語が飛べば、びくりと肩をビクつかせて、つぃ、と目をそらす。 だが視線をどこに向けても、あの恐ろしい顔は脳裏に刻みこまれているのだから逃げられない。 「……ええ、怖いです。人の出来る表情を超えています」 ぼそり。思い出しただけで身震いするレベル。

2015-08-29 17:53:13
マリー・ルモワーニュ @btl_az

だがそれを落ち着かせるような、髪を撫でるその優しい手は、猫のように首を傾け受け入れる。 ゴロゴロと喉を鳴らしそうなほど目をうとりと細めて…再びはっとし、両手で口を覆う。

2015-08-29 17:53:22
マリー・ルモワーニュ @btl_az

「あ、は、も、申し訳ありません、こんなこと!す、すぐに片付けます!えと、そ、それから」 ちら、と彼に向けて強請るような、懇願するような目を向けた。

2015-08-29 17:53:26
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

今にも潤みそうな赤い瞳にしっかりと頷く。 「言わないよ。マリアが余計に怒られるようなことは、何も」 すぐに片づける、という彼女の意思を尊重し、手を放して少し距離を置く。

2015-08-29 18:11:42
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

とはいえ、仕事はひととおり終わったところだ。夜には近隣諸国の貴族との会食が控えていて、欲にまみれて脂ぎった声を思うと、その前に気晴らしがしたい。しかし、また紅茶を持ってこさせると同じことが起きる気がする。 「……なぁ、マリア、片づけが終わったら、散歩に行こうか」

2015-08-29 18:12:09
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

ついてきてくれるか、と問う声音はいつもと変わらず柔らかい低さだ。しかし、どこか何かを憂うような、ともすれば恐れているような響きも感じ取れるかもしれない。

2015-08-29 18:12:21
マリー・ルモワーニュ @btl_az

彼より紡がれた言葉に心の底より安堵する。 ならあとは片付けて鬼に怒られるだけ。 破片を集める背にかけられたものは、いつもと同じで、いつもとは違う。 心に何か引っかかる気はしたけれど、畏れながらと問える立場でもない。 故に柔かく微笑んだ。 「私でよろしければ、勿論よろこんで」

2015-08-29 18:28:22
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

柔らかい笑みと変わらない応えに、つられるように笑う。この笑顔がいつも近くにあってくれれば良いと思う。自分につき従う者の中には、周囲を威嚇し侵略して利益をと唱える者もいるが、そんなものは要らないと思う。ただ、彼女を含む自分が守るべき者たちが、健やかで、幸せで、いてくれれば。

2015-08-29 18:42:47
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

踵を返し、散歩に持ち出そうと杖を取り出す。これが象徴する力は、誰かを追い墜とすためのものではない、誰かを救い上げ共に生きるためのものだ。自分がそれを違えない限り、自分たちに仇なす者など永劫現れはしない。

2015-08-29 18:43:05
【拒絶(アポーリプシー)】 @rripsi3rd

――これは、かつて彼が何も失わない未来を信じていられた頃の話。その掌から零れ落ちた、空に月輝き鳥が飛ぶ、楽園の話。

2015-08-29 18:43:27

ぼくはきみにただいまを言う――『愚鈍』

【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

走る。走る、走る、走る、走る。足音は高らかなようで朧。硬いのか柔らかいのか判然としない地面を駆ける。首を巡らせて、人影を探して、探して、探して、――みつけ、た。 よく見慣れたミルクティ色、瑠璃の目はどこか遠くを見ている。駆けていた足が緩やかに、ゆっくりとした歩みに。

2015-08-29 19:07:26
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

そして歩みとしては遅々としたものになって、少女からすこし離れた場所で止まる。彼の言葉を思い返す。思い出せないと彼は言った。彼は戻れなかった。彼はあれを食べなかった。食べられなかった。…きっと、彼女も同じ、だろうと思う。きっと彼女にとって、自分は知らない誰かでしかなくて。

2015-08-29 19:07:41
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

ああ、知らない誰かを見る目を彼女に向けられるのは嫌だと、身勝手なことを思ってしまって、足が止まった。

2015-08-29 19:07:45
【不安定】アスタージア @toe_asta

立ち止まったまま宛てもなく、理由もなく、余裕も不足もない暗くて明るい何処かを、少女はぼんやりと見つめていた。どれだけの時間をそこに費やしていたのか判別できない。 けれど少女が時を自覚したのは、足音を聞いたから。 それは近付くにつれて速度を落とす。

2015-08-29 19:09:00
【不安定】アスタージア @toe_asta

終いには立ち止まり、すぐ近くに立っていると知覚させる。 知覚。そう、少し位感覚が遠く、自分のものではないように朧だったが。 立つ誰かを待たせてはいけない。そう思って振り返る。振り返って瑠璃が見慣れぬ人を見た。

2015-08-29 19:09:04
【不安定】アスタージア @toe_asta

やはり見慣れぬ人。けれど、全く知らないとは言い切れない、いや、言い切りたくない人物。それに対して言葉を紡ぐだけの何かを、少女は自身の中から何一つとして拾えず、仕方なく視線のみを真っ直ぐに向けた。

2015-08-29 19:09:19
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

瑠璃がこちらへ向けられる。…その中にあるものが。全く知らぬものに向けるそれだけではない気がして、かすかに希望めいたものを見出して、そんな思い上がりはならないと沈める。少女はこちらを向いている。向いている。彼女に言わなければならないことがある。たくさん。言ってはならない気もする。

2015-08-29 19:10:38
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

だって彼女をひとりにした。いや、己と同じように彼女も誰かと過ごしていたのかも知れないけれど。それでも、彼女をひとりにしたと、そう思う。ひとりにしてはならなかった。数歩、踏み出し距離を詰める。ほんの僅かに。躊躇いがちに口を開きかけて、何も発さず閉じる。

2015-08-29 19:10:40
【不安定】アスタージア @toe_asta

その人は数歩、歩み寄る。 こわいとは、一瞬もおもわなかった。 何かを言いたげに開いた口を、また閉じて押し黙るその人を、少女は見つめ返す。そこには押し付けることのできる情動はなく、見守るような、静けさだけがあった。

2015-08-29 19:11:34
【愚鈍】イーリシォーティータ @ToeIlith

少女の視線は変わらない。彼女に何を告げるべきなのか。それすらまだ定まっていない。何を言うべきなのかすら見つかっていなかった。謝罪もなにもかも、違うと思う。でも何を言えばいいのかわからなくて、わからなくて、…わからなくて。それでも数歩また踏み出す。近付いて、少女の前で膝をついた。

2015-08-29 19:12:15
【不安定】アスタージア @toe_asta

踏み出して、折れる足、低くなる頭の位置を追う。 少し下がった頭に合わせて揺れたミルクティ色の髪。この動きをなんとなく、そう、幾度となく繰り返してきた気がした。長い道程の最中、気遣う手はいつもあった。そう感じて。

2015-08-29 19:12:45
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