【睦月ノ選択】前編

安心してください。はいてますよ(上着は脱いでるが
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

ーーーブイン基地の一室 一連の作戦を終え、作戦の責任者となったとある将官に当てがわれたその部屋はサウナか何かのように蒸し暑い クーラーは取り付けられているが… あいにく故障したらしくその将官は「業者に文句をつけてやる!」などと怒鳴っていた

2015-09-08 21:03:10
葛葵中将 @katsuragi_rivea

だがそれも数時間前の話… 彼は氷水を入れたタライに素足を浸し、代わりとして寄越された扇風機の風に当たり、 机の上に崩れそうな程山積みされた書類の束と汗を流しながら格闘している 時折、項垂れながら「暑い…」と何度も言葉にしては恨めしそうに壁掛け時計の針をしきりに気にしていた

2015-09-08 21:04:23
葛葵中将 @katsuragi_rivea

そんな彼にこの部屋に呼び出され、任務(という名の手伝い)を任された彼女…駆逐艦睦月もまた 上着を与えられた椅子にかけ、目の前の書類の束との睨み合いが続いていた 数枚ほど手に取りパラパラと捲り、中身をさらっと確認してみる

2015-09-08 21:05:44
葛葵中将 @katsuragi_rivea

内容はというと… 作戦時の損害状況報告書。入渠施設の使用許可。艤装の改装計画書など…さらには 当基地の水道管配管整備業者の立ち入り許可。資源搬入のための大型トラックの手配など… 作戦に関する物から…まるで無関係のような書類までもが机からはみ出るほどに溢れかえっていた

2015-09-08 21:06:43
葛葵中将 @katsuragi_rivea

それらの書類全てに目を通し、確認の判を押しつけ、サインを書き込み、まとめるといった作業の連続 ここに来るまではこのような仕事が待ち受けているなどとは想像だにしていなかった そもそも睦月には書類の束と格闘するような執務業などは一切経験がなく、困惑する一方

2015-09-08 21:07:39
葛葵中将 @katsuragi_rivea

睦月「〜〜〜〜〜!!」 慣れない仕事。 どうしてもと両の掌を合わせ頭を下げる彼の頼みに、やむを得ず従ったが…どうしようもない暑さと、捗らない作業に とうとう痺れを切らした彼女はその将官へ向かい声を上げ怒鳴りつけた 睦月「なんですか…なんですか!これは!!」

2015-09-08 21:09:14
葛葵中将 @katsuragi_rivea

書類の山(あるいは塔)の隙間から覗く…今ではすっかり見慣れてしまった御札が貼られた無精髭の将官… その将官こそ葛葵冷士、その人に他ならない 葛葵「何…?どうしたん?にゃっしぃ」 気怠そうな表情を浮かべながらこちらの顔色を伺っているのが見て取れる

2015-09-08 21:10:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「にゃっしぃ」とは彼が睦月につけた渾名 意味はよくわからないが彼は他人によく(変な)渾名をつけてはそう呼ぶ癖のようなものがある 便宜上、あるいは彼がよく主張する「ユーモア」の一環であろうか そんなことはどうでもいい、と睦月は勢いよく席を立つ 座っていた椅子が後ろに転がった

2015-09-08 21:11:06
葛葵中将 @katsuragi_rivea

怒りを顕にズンズンと葛葵に詰め寄る睦月は彼の担当する分の書類が乗る机に音を立て両手を叩きつけた 睦月「この量のことです!明らかに他のところより多いじゃないですか!」 声を張り上げるも目の前の男は微動だにせず「なんだ…そんなことか」とでも言わんばかりのジト目を向けてくる

2015-09-08 21:12:06
葛葵中将 @katsuragi_rivea

一瞬の静寂と共に睨み合うがやがて観念したかのように葛葵は目線を外し口を開いた 葛葵「…仕方ないよね。アイツらだよアイツら→( 圭 )▼д▼) 書類仕事が苦手だからって避けるもんだからそのツケはいつもこちらに回ってくる」 ため息混じりに次の書類を手に取りながら葛葵は続けた

2015-09-08 21:13:05
葛葵中将 @katsuragi_rivea

ぼやきながら彼は書類を睦月にわざとらしく見せつける。 葛葵「咆哮艦隊、西方海域へ向かうための飛行艇使用許可」 確認の□に判を押し付け、万年筆でサインを入れる。 葛葵「童子艦隊、鹿屋へ帰るための豪華客船の手配。…税金の無駄遣いだな、これは」 同じように手際よく判を押す

2015-09-08 21:14:49
葛葵中将 @katsuragi_rivea

軍は組織として動いている。気まぐれに動いてはならないためこのように書面での確認が必要となる しかも今回、彼は最奥地で作戦の責任者となったためそのための文書はいつもの倍以上になったと彼は説明した。 (それでも個艦隊には無関係なものまで処理していることには口を噤んだ)

2015-09-08 21:16:44
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵「…ここに残っていた私がその面倒事を押し付けられたってわけよね」 睦月「〜〜〜〜〜〜!」 葛葵「…そうカリカリすると早死にするぞw」 気揉む睦月とは対照的にへらへらと笑う葛葵。これ以上話していても苛々が増すばかりだと思ったその時だった 不意に部屋の扉がノックされた

2015-09-08 21:17:57
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵「空いてるよ〜。どうぞ」 「入るよ」 葛葵の許可を確認してから扉が開き一人の駆逐艦が入室してくる 銀の髪で片目を隠す夕雲型駆逐艦、朝霜だ。その手にはラムネの瓶を三つ携えていた 朝霜「怒鳴り声が廊下まで聞こえたけど…トラブルかい?ほら、差し入れだよ」

2015-09-08 21:19:12
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵「気が利くねぇ」 睦月「ありがとう…ございます」 睦月は思わず感謝を述べたが、その言葉に朝霜はしかめっ面をした 朝霜「そんな気を使わなくてもいいって何度も言ってるだろ?」 数ヶ月の間だが行動を共にし、随分と慣れ親しんだのではあるが何故か彼女、朝霜だけには頭が上がらない

2015-09-08 21:20:31
葛葵中将 @katsuragi_rivea

艦娘暦としても睦月のほうが上であるにも関わらずそうさせるのは 彼女自身が(見た目年齢に似合わず)姉御肌を気取っているせいもあるのだろう 艦隊補佐としての立場、そして何より朝霜の面倒見のよさに何度も世話になっているのも事実であることから どうしてもこの対応に落ち着いてしまう

2015-09-08 21:21:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

朝霜「そんなんであたいらと上手くやっていけんのかい?」 その言葉に思わず頭の上に疑問符を浮かべた 睦月が葛葵艦隊と行動を共にするのはもう残り僅かな時間となっている 作戦成功をおさめるのと同時に葛葵に対する監視の任も解かれ、赤レンガへ帰ることが決まっていた

2015-09-08 21:22:07
葛葵中将 @katsuragi_rivea

その残り僅かな時間のことを言っているのだろうかと朝霜の言葉の真意を測りかねた睦月だったが… 葛葵と朝霜はその件に関して(勝手に)話を進めていた 葛葵「あぁ、まだ話してないのよ」 朝霜「おいおい…それじゃ急な話になっちまうだろ!いい加減だよなアンタ」 睦月「?」

2015-09-08 21:23:14
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵「多分このへんにあるんだよ…うわっ」 無造作に積まれた書類の束を掻き分け…無惨にも崩れる書面の山… その中から彼は目的の物を見つけたらしく、一通の封筒を二本の指で挟みひらひらと振ってみせ手渡してくる 葛葵「にゃっしぃに辞令だ。…とはいえ任意だ。好きにするとよいよ」

2015-09-08 21:25:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

朝霜「何だよ司令。しょうがねーなー…」 崩れた紙の束をせっせと整理をする葛葵とそれを手伝う朝霜を尻目に睦月はその封筒を開封する 睦月「大本営発…睦月型駆逐艦1番艦睦月宛」 その書類の一番上の行には大きく辞令と書かれていて大本営からの正式な指令書であることが伺い知れる

2015-09-08 21:26:29
葛葵中将 @katsuragi_rivea

睦月「葛葵冷士中将の要望を認め本人の意志次第で鹿屋への転籍を…許可する…!?」 思わず目を疑った。あの大本営が一将官の要望を認めることも、"一個人"に当たる駆逐艦の意志を尊重することも… 葛葵「…書いてある通り、私が上に頼みこんだんだよ」

2015-09-08 21:28:23
葛葵中将 @katsuragi_rivea

朝霜はちらっとこちらを見たが…すぐさま目を逸らし書類をまとめ直している それを他所に葛葵は睦月の方へ向かい姿勢を直し、真摯な瞳を向けた 葛葵「駆逐艦、睦月。」 それは、司令官としての葛葵の顔。正式な指令であることを認め、睦月は敬礼と共に返事をした 睦月「ハ、ハイ!」

2015-09-08 21:30:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵「貴艦の功績、功労を評価し…鹿屋の一司令官として貴艦には是非とも我が艦隊の麾下へと迎え入れたい。そこで…」 "司令官"は右手で三本の指を立て話を続けた 葛葵「三日だ。三日後、私含む葛葵艦隊は予定通り…ここ、ブインを発つ。」

2015-09-08 21:31:50
葛葵中将 @katsuragi_rivea

葛葵「その間にその辞令、私の要望を飲むかどうか決めてくれ。 …元々大本営の直属であるにゃっしぃを引き抜くのは気が引けてさぁ。私の一存じゃ決められんのよね〜」 前半は真面目に決めていたにも関わらず後半は本音混じりの"いつもの調子" この人らしいといえばらしいのではあるが…

2015-09-08 21:32:44