ゾンビなんて大っ嫌いだ

@nezikure

25.ｍからの反応が無いので、彼は話を続ける。 写真と画像が切り替わり、指先や口腔、眼窩や肛門等の部位の変性を提示する。 口腔や肛門・眼窩等の粘膜部位と爪の剥がれた指先には 背骨や周辺の組織に見られた様な黒い穴と 小さな赤い…卵の様なモノが無数に付着している。

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26.『気分の悪くなった者はいるか？私は吐きそうだ』 彼なりのジョークなのだろうが、はっきり言ってタイミングは最悪だ。 もう、なんていうか、ほぼ全員がログインしている筈なのにフォーラムに元気が全く無い。

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27.『15分の小休止と、見たくない人には後で重要な部分だけまとめて伝えたら？』と提案する。 珍しく彼からのレスが1分以上間を開けて 『わかった、そうしようY』と アレ？ひょっとしてちょっと落ち込んだのかコイツ 一生懸命準備してたみたいだもんな…

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28.15分の小休止は、『衝撃映像』に凍りついていたフォーラムに 画面越しであるのに目に見えて弛緩した空気を発生させた。 今のうちに無料で使える画像加工サイトのURLを彼に送っておく。 動画はどうにもならないが、簡単な操作で画像にモザイクをかけられる筈だ。

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29.＞＞『これは？』 『もざいくかけてあげて』 ＞＞『だがそれでは生態の説明に支障が出る』 『もう少し手心というモノを』 ＞＞『手心？』 嗚呼、いかん。 あまりにも普通に日本語が通じるから(電話越しには喋っても見せた) 相手が外国人だって忘れていた。

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30.…手心という概念が理解できない冷血って事は、無いよね？

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31.『ハンデ…じゃないか、生々しい画像を見せないための…配慮、わかる？』 ＞＞『…閲覧注意？』 『今回に限り正解』 ＞＞『命に関わる問題だが』 真面目だなぁ、提示された身分証明は医大生という事だったが 見た感じ研究メインのインテリ系という印象を受ける。

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32.『情報を得たく無くなってしまう』 ＞＞『それは』 『人間は感情の生物だから』 ＞＞『…Yは神父様と同じ事をいう』 神父って誰だ、なんか複雑そうだな… 『あー…。責めてはいない、ごめん』 ＞＞『後で手心を追加した資料を纏めるから、手伝ってくれれば良い』 『おーらい』

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33.15分が経った。 再開の前にまず、後でまとめた情報を提示する旨を告知し その上で『可能ならば、全情報を共有したいので我慢して見て欲しい』と彼が提案する。 命に関わるというのは、比喩ではない。 幾ら苦手でも、何かの役に立つかもしれない情報だから当たり前だ。 彼は、誠実だ。

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34.何人かがメッセージを残して離席し、再度同意を得た上で きちんとモザイクを掛けた画像が提示される。 今度の画像は拡大された蚊だ

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35.不自然に膨らんだ腹部は赤く、血を十分に吸い込んだ個体の様に見えた。 が、人間の血とは少し違う。どちらかと言うと、アレはさっきの『卵』の色に近い。

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36.＞＞『有り得ない』とｍが否定する。 ＞＞『こんな感染経路は有り得ない、細菌か何かだと言われたほうがまだ現実味が有る』 それか、いっそブードゥーじゃないのかと 画面越しのｍの発言からは、ただただ困惑と拒絶だけが伝わってくる。

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37.切開された蚊の腹部から、一滴の赤い液体が溢れる。 プレパラートの上に零れた液体は、妙な粘性で雫の形状を崩さない。

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38.血の雫が傷口で凝固した時の様に、球体のままの赤い液体の画像が 動画に差し替えられる。 いつの間にか薄く膜の張ったその表面が、ごくごく微細に蠢くのが見えた。

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39.『先ほどの赤い球体、それとこの赤い液体は同じモノだ』淡々と 『卵の様な形状の球体は、その実卵ではなく』 モザイクを掛けた画像、最初は何かわからないが、想像力がそれを補う。 補ってしまう。

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40.『この虫が大量に溶け込んだ、生理的液体で出来た 誤解を恐れずに言うならば胞子のうの様なモノだ』と あの犬の首から零れた、妙に粘性の高いドロドロした血が脳裏に浮かび 口の中が胃液の気配で満たされる。

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41.『一定以上の密度でこの虫が生理的液体に触れた場合、虫があけた穴から約1ミリ程度の球体として内部にドロドロに溶けた状態で保存される』 粘膜に空いた無数の穴と、そこにビッシリと付着した球が思い出される。 脳内の映像にもモザイクを掛けさせて欲しい、鳥肌が収まらない。

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42.『これらが噛み付きや爪…は剥がれる様なので指での接触、肛門や 男性器、確認できていないが恐らく女性器もそうだろう。体液と混ざって他の生物に侵入する事で、感染すると思われる』

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43.『マウスを使った実験では、表皮に直接触れた程度ではほぼ感染しない。 皮膚に傷がある場合は危険だ。 眼球や口内・肛門等の粘液も同じく感染と、体内での爆発的な繁殖と脊椎周辺の変性が発生している』 ＞＞『待て、待ってくれ。そんな寄生虫は存在しない！私は専門家だ！』

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44.ｍがパスポートと、何か身分証の様な物の写真を提示する。 よくわからないが、ｍは実際に寄生虫の専門家なのだろう フォーラムの誰も、その証明を疑ってはいない。

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45.『私は寄生虫の専門家ではないが、新種という他無い』 ＞＞『有り得ない』 『データが出ている。もしかしたら、コレは厳密には寄生虫では無いのかもしれないが、現状そう表現する他無い』 ＞＞『その確認が不正確な状況で、寄生虫の仕業と言うのはやめるべきだ！』

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46.『ｍ、では何と表現する』 ＞＞『それは…』 話が完全に逸れている、どんどんヒートアップしていく彼とｍに 『もう病原とかで良いんじゃないか』と言ってみると 『『じゃあソレで』』とあっさり採用された。 お前らそれでいいのか

@nezikure

47.『寄生虫…改め病原は、生理的液体の中でなければ生きていけない 恐ろしく弱い存在だ。40度以上の高温下・-1度以下の低温では即座に活動が停止し、常温に戻しても活動は再開しない。恐らく死んでいると言っていいだろう』

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48.『生理的液体から取り出して、外気に触れても同様に活動が停止し再開しない。成長した個体でも同じだ。』

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49.閲覧注意の上で添付された映像では全長4ｃｍほどの大きさの白い回虫の様な個体が 膜を貼った液体の中では活発に動いているが、膜を割って外気に触れると 10秒ほどで活動を停止し、ピンセットで摘まれてマウスに接触してもぴくりとも動かない。