近代合理主義から探理主義へ・・・合理主義の3つの欠点と克服法

近代合理主義には「自説を信じ込むこと」、「改める気がないこと」、「異論を許さないこと」という3津の欠点がある。これを克服するには、近年ノウハウが蓄積されつつある科学の方法論に則るべきだろう。それは「つねによりよい理論を探し求め続ける」探理主義である。
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shinshinohara @ShinShinohara

地球がこのままではもたない。人類の活動を縮小させなければならない。これはほぼコンセンサスが得られつつある認識だが、なかなか行動を改めることができない。それは、私たちの考えを縛る二つの哲人の提案を、いまだ克服できていないためかもしれない。その二人とは、プラトンとデカルトである。

2015-10-03 23:35:56
shinshinohara @ShinShinohara

プラトンは「国家」をデザインし得るものとして提案した。それ以前、国家を人間がデザインできると考えた者はいなかった。国家は生まれる前から存在するもの、いわば神が与えた所与の条件だと捉えられてきた。しかしプラトンは、国家をゼロから理想通りにデザインするという大胆な構想を提示した。

2015-10-03 23:42:54
shinshinohara @ShinShinohara

デカルトは「思想」に革命を起こした。すべてを疑い、否定し尽くした後に残る「我思うゆえに我あり」を基底にして、絶対正しい思想を再構築せよ、と訴えた。それ以前には、思想を根本的に作り直すという方法を提示した者はいなかった。優れた先人に学ぶ(真似る)のが当然だった。まさに革命だった。

2015-10-03 23:46:45
shinshinohara @ShinShinohara

プラトンは国家を、デカルトは思想を、ゼロから再構築すること、自分の考えにピッタリにデザインすることを提案した。これに構成の人々は魅了された。この二人は、後の世界史をすっかり塗り替えてしまったと言って過言ではない。

2015-10-03 23:50:01
shinshinohara @ShinShinohara

マルクス主義はいわばプラトンの焼き直しとも言える。哲人が国家を治める代わりに、労働者階級が国家を治める。統治者を入れ換えただけで、発想は同じだ。国家を人為的にデザインし、根本から作り直してしまうという発想は、プラトンの影響下にあると言ってよい。

2015-10-03 23:53:08
shinshinohara @ShinShinohara

ポル・ポトは、デカルトの生んだ鬼子と呼んでよい。すべての国民が農家になれば、皆平等で搾取する者もいない理想社会を創れると考えた。それまでの社会システムを固定観念だとして否定し、自分の考えを徹底的に敷衍するやり方は、デカルトの影響下にあると言ってよい。

2015-10-03 23:55:59
shinshinohara @ShinShinohara

プラトンもデカルトも奇妙なことに、伝説上のある人物のことを理想として掲げている。スパルタ(ライケダイモーン)の建設者、リュクールゴスである。リュクールゴスはスパルタ人の風習から政治制度まですべて自らデザインすることで、ギリシャで1、2を争う強国に育てたと言われる。

2015-10-03 23:58:57
shinshinohara @ShinShinohara

スパルタ人が真冬でも裸のような薄着で過ごし、頑健な国民にしたのも、子供を親元から隔離し、青年団の中で育てることで強く鍛えたのも、長口舌を嫌い短い言葉で意思を表明する習慣も、すべてリュクールゴスがデザインしたことだとされる。プラトンとデカルトは、この伝説に魅了された。

2015-10-04 00:01:22
shinshinohara @ShinShinohara

プラトンは優れた人間が国家を根本からデザインし直すことを、デカルトは思想を根本からデザインし直すことを提案した。それにより理想の国家を建設すること、絶対正しい思想を手にすることを目指した。これは、構成の人々を魅了しまくった。

2015-10-04 00:03:49
shinshinohara @ShinShinohara

ルネッサンス前後の西欧はカトリックが支配していた。当時は教会の僧侶が腐敗しまくっていたが、都合が悪くなると「神の怒り」を持ち出し黙らせるから始末が悪い。教会が支配する社会が決して理想社会ではないこともはっきりしてきていた。

2015-10-04 00:06:13
shinshinohara @ShinShinohara

古代ギリシャの思想に触れ、プラトンの「国家をデザインする」という大胆な提案を知り、デカルトの「過去の既成概念すべて抹殺し、思想を根底からデザインし直す」という提案は、閉塞感のあった西欧社会を作り替えるアイディアとして、徐々に浸透していった。近代合理主義がこうして幕を開けた。

2015-10-04 00:08:59
shinshinohara @ShinShinohara

だがこの二人の提案は「リュクールゴスの亡霊」に取り憑かれている。リュクールゴスは実在したわけではなく、伝説上の人物とされる。スパルタの風習や国家制度も、長い時間をかけて徐々に洗練されていったものだという説がが有力である。プラトンやデカルトの提案は、伝説に依拠した「勇み足」だった。

2015-10-04 00:11:58
shinshinohara @ShinShinohara

プラトンやデカルトの影響下にある私たちは、近代合理主義が抱える3つの欠点をそのまま受け継いでいる。それは、正しいと信じてしまうこと、改めないこと、異論を許さないことである。プラトンやデカルトが提案した方法論は、この三つの欠点を克服できないでいる。

2015-10-04 00:15:44
shinshinohara @ShinShinohara

まず「正しいと信じてしまうこと」。デカルトの「方法序説」は実に魅力的だ。前半は、ありとあらゆるものを疑わしいとして否定していく。見ているものも考えることも誤りの可能性があると疑う。そして疑いようもない「我思う故に我あり」にたどり着く。そしてそこから逆転して思想を再構築し直す。

2015-10-04 00:18:26
shinshinohara @ShinShinohara

こんな苦しく辛い作業をやり通せた人間は、ある誤った心理に陥る。「世界広しと言えど、俺ほど根本的に疑いつくし、思想をゼロから再構築し直した人間はそうはいない」という確信を持ってしまう。だから他の人間がバカに見えてしまう。自分の思想を絶対正しいと信じてしまう。

2015-10-04 00:20:49
shinshinohara @ShinShinohara

そのために第2の問題「改めないこと」が発生する。自分は辛く苦しい「すべてを疑い、否定する」という作業をやり終えた。そして絶対正しいと思えるものだけで思想を再構築した。これだけのことをしたのだから、改める必要なんてどこにもない、という心理になる。だから改めようとしない。

2015-10-04 00:23:23
shinshinohara @ShinShinohara

そして「異論を許さないこと」。自分は絶対正しく、他の人間は努力もせずに間違った固定観念をそのまま信じてしまった愚か者だと考えているから、異論を一切許す気がない。だから平気で人に自分の思想を押し付ける。

2015-10-04 00:25:31
shinshinohara @ShinShinohara

自分の思想を絶対正しいと信じ、他人に押し付ける思想のことを「イデオロギー」という。イデオロギーという言葉がプラトンの「イデア」に似ているのは偶然ではない。プラトンやデカルトは、過去の既成概念を破壊し、絶対正しい思想と国家像をデザインできる、という誤ったメッセージを発してしまった。

2015-10-04 00:28:21
shinshinohara @ShinShinohara

近代合理主義は、科学者にもしばらく悪影響を及ぼしていた。その分野の権威と呼ばれる研究者は、「この分野で俺ほど極めた奴は他にいない」という自負を持ち、その分野の大御所として居座った。その考えに反する学会発表はケチョンケチョンにこき下ろされる時代が結構長かった。

2015-10-04 00:30:40
shinshinohara @ShinShinohara

しかし科学は幸いに、最終的には「事実」が勝つ。どれだけその道の権威が否定しようと、事実を誤って認識していれば、否定される。科学は、過去の常識、理論を次々に葬り去ってきた。その経験から、今や研究者は、「絶対正しい」は科学の世界にはない、と理解し始めている。

2015-10-04 00:32:58
shinshinohara @ShinShinohara

科学の相次ぐ発見や民主主義、Firefoxなどに代表されるオープンな開発環境などの経験から、人類は近代合理主義が抱えていた三つの欠点を克服する方法を見いだしつつある。それは、全ては有力な「仮説」に過ぎないこと、より強力な仮説に改めること、異論の存在を容認すること、である。

2015-10-04 00:36:32
shinshinohara @ShinShinohara

科学ではどれだけ有力な理論であっても「現在のところ否定する材料が見つかっていない有力な「仮説」」として扱われる。まだ否定する材料が出ていないならば「当面」その理論を指示するが、もし間違いが見つかればさらに有力な仮説に乗り換えることをよしとする、という姿勢である。

2015-10-04 00:39:16
shinshinohara @ShinShinohara

全ては「仮説」だと考えているから、改めることをためらわない。もっと優れた「仮説」に容易に飛び移れる。昨今の優れた研究者は、その分野の第一人者と言われていても、自分の考えを押し付けない。未熟な学生の発表に過ぎなくても自分の仮説を揺るがすデータが出ていれば、喜んで改める。

2015-10-04 00:41:43
shinshinohara @ShinShinohara

自分の考えは当面の「仮説」だと考えているから、異論の存在を当然認める気になる。自分の仮説も他人の仮説も、まだどちらが正しいか決着をつけるデータがないから両方とも「仮説」なのだ。むしろ異論の存在は、過ちを素早く正す材料として歓迎するべきだと考える。

2015-10-04 00:52:03
shinshinohara @ShinShinohara

自分の考えを「仮説」だと捉えること、仮説を改良し続けること、異論の存在を容認すること。この三つは、プラトンやデカルトが現代にもたらした「リュクールゴスの亡霊」の欠点(根本的に作り替えようとする大胆さ割に、自分が誤ったときに頑な)を補うことができるだろう。

2015-10-04 00:59:07