【ミイラレ!第十八話:町の神様たちのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。昔話とか今後の対策とか。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/882965
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜の問いに薫は頷いた。「そう……みたいだね。少なくともトリルはそう言ってる。ただ、トリルにも正体はよくわからなかったみたい」「そう、ですか」「あ、この間説教されたときに退魔師の大人の人たちには言ってあるから。なんとかするとは言ってたけど、どうだろうねえ」25 #4215tk

2015-10-06 20:36:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

やや重い沈黙が部室を支配する。それぞれが暗い表情を浮かべるところを、薫だけが困った様子で見回していた。「……心配なのはさ」沈黙を破ったのは紅子。彼女はまっすぐに四季を見つめた。「やっぱり君なんだよな、下級生くん」「えっ?」彼はきょとんと彼女を見返す。26 #4215tk

2015-10-06 20:39:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そっか。考えればそうだね」かいなが頷きながら同意した。「あいつが怪異で、まだこの町にいるのなら」「遅かれ早かれ、いつかは四季を狙ってくる?」怜が続く。その表情は険しい。一斉に視線を向けられ、四季は思わずたじろいだ。「対策が必要かもね」退魔師は小さく呟いた。27 #4215tk

2015-10-06 20:42:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……その週末。雨の降る日のこと。28 #4215tk

2015-10-07 20:39:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ああ、ここだね」怜に合わせて四季は立ち止まる。雨が傘を打つ音だけが周囲に響く。彼らの目の前にあるのは小さな神社だ。周囲にも中にも人影はない。この天気なのだから、当然といえば当然なのだが。「ねえ、怜。こういう町にもいるの?その……神様って」「もちろん」29 #4215tk

2015-10-07 20:42:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

退魔師はあっさりと答える。「どんなところにでも神様はいるよ。……こっちに来た時にさっさと挨拶に行けばよかったんだけど。いろいろごたごたがあったから遅れちゃった。まったく」不満気に呟きながら、怜が鳥居へと進む。四季は慌ててその後を追った。30 #4215tk

2015-10-07 20:45:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

無論のこと、彼らがこの近場の神社に訪れているのには理由がある。この町の神へ面会するためだ。怜の提案である。『この町に蔓延る怪異の情報が得られるだけでも有益』退魔師の首に巻きついた白い蛇神、朽縄御前が言う。『協力が得られるならばなお良いが、さて』31 #4215tk

2015-10-07 20:48:27
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

平然と進んでいく怜に対し、四季はだいぶ緊張していた。『別に大丈夫だと思うけどなァ』頭に響く声はナナのもの。あの騒動が済んだあとも、結局彼に憑いたままなのだ。『案外気安いもんだぜ、最近の神様って』「本当?」『マジ、マジ。てか大将は今更ビビる必要ねえって』32 #4215tk

2015-10-07 20:51:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

軽い口調で言われ、四季は思わず溜息をつく。そうは言われても緊張するものは緊張するのだ……と。「あれ?」鳥居を潜っていた彼はふと異変に気付く。雨音がなくなっている。空を仰いで目を丸くした。重苦しい灰色の雲が広がっていたはずの空に、太陽が輝いている。33 #4215tk

2015-10-07 20:54:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……まさか一発で入れるとはね」後方からの声に、四季は慌てて振り向いた。いつの間にか怜がそこにいる。「あ、あれ?俺、いつ追い越したっけ?」「気づかずに入ってたのか……そりゃ神隠しにも遭うよ」深く溜息をつかれる。「私でも、ここに入るのには準備がいるのにさ」34 #4215tk

2015-10-07 20:57:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ここ、って」ただ神社に入っただけではないのか?四季が問おうとしたそのとき。「もし」「はい?……わっ」またも背中に声をかけられ振り向いた彼は、声の主を見て驚く。そこに佇んでいたのは狛犬だ。石像ではない。黄色の毛皮に覆われたその体は、確かに息づいている。35 #4215tk

2015-10-07 21:00:27
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「貴方は迷い人かな?それとも客人か」狛犬が問う。四季はふと気づく。その横には白い毛皮に太く短い一本角を持つもう一体の狛犬がおり、そちらは口を結んで怜に視線を注いでいる。「後ろの退魔師殿は、貴方の御友人と見てよいか?」「あ、はい!そうです!」36 #4215tk

2015-10-07 21:03:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

慌てて頷く四季を、黄色い狛犬はじっと見つめた。ついで白い狛犬に視線を送る。白い方がむっつりと頷いてみせた。「成る程!これは珍しいことですな」黄色の狛犬が破顔する。「特に退魔師以外の人の子がここを訪れるのは。もう何十年ぶりのことでしょう」37 #4215tk

2015-10-07 21:06:36
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

パタパタと尾を振りながら見上げてくる黄狛犬に、四季は愛想笑いを浮かべた。「おい」「ん、わかっておる!……失礼いたしました。それで、ご用件は?」ぼそりと白狛犬に促され、黄狛犬が四季たちを見つめる。「天照様と倉稲魂様にお目通りを」怜が答えた。38 #4215tk

2015-10-07 21:09:23
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は思わず横目で彼女を見やる。天照?相当に有名な神様では?そんな存在がこの小さな神社に……?「ふうむ。少々お待ちください」黄狛犬が本堂の方へ駆けていく。残された白狛犬が、むっつりと口を結んで四季たちを見据えていた。「ねえ、怜」四季はこっそりと怜に近づく。40 #4215tk

2015-10-08 20:48:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「その、そんな凄い神様がこんな神じ……ん、んッ」白狛犬の目を思い出し、咳払い。「……この町にいるの?本当に」「いる」彼女は至極あっさりと答えた。「というより、誰でも知ってるような有名ですごい神様だからこそ、どこにでもいるって言った方が正確だね」「……えっと?」41 #4215tk

2015-10-08 20:51:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「我らは我らを祀る社の数だけいる、ということ」割り込んできたのは聞き慣れぬ声。見ると、金髪の女性が黄狛犬を連れ添い静かに歩み寄ってきている。「雨の中ご苦労でした、人の子らよ。大儀です」穏やかな笑み。静かな威厳。二人は思わず頭を下げる。誰かが小さく噴き出す。42 #4215tk

2015-10-08 20:54:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……なんてね。今時こういう堅苦しいのもどうかって感じよね。そんな畏まらなくていいよ?四季くんに怜ちゃん」一転して砕けた口調。四季は驚いて顔を上げた。「なんで名前を」「君たちの地元にもあったでしょ?お稲荷様。あれ、基本的には私のお社だからね」43 #4215tk

2015-10-08 20:57:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

気安い様子で二人の前まで来た金髪の女は、白狛犬を撫でる。「コマノもそんな睨まなくて大丈夫よ。この子ら、悪い子たちじゃないからね」わずかに頷き、白狛犬が下がる。「でもまあ、実際に顔を合わせるのはこれが初めてか。私が倉稲魂。気楽にイナメって呼んでね」44 #4215tk

2015-10-08 21:00:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

にこりと笑う神様を、四季はぽかんとした顔で見つめる。その様子を見て、イナメが口元に手を当てくすくすと笑みを漏らした。「拍子抜けしちゃった?もう少し威厳を出した方がよかったかな。どう思う?ナナ」『あ、やっぱり憑いてるのはお見通しなんスね……』45 #4215tk

2015-10-08 21:03:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ぽん、と軽い音を立ててナナが姿を現した。相変わらず四季の肩に乗った彼女は、丁寧なお辞儀をイナメに送る。『ご無沙汰してます、イナメさん』「本当にね。少しは顔くらい出しなさい?この不良娘」片眉を上げて咎めるような表情。四季は目を丸くして二人を見やる。46 #4215tk

2015-10-08 21:06:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……知り合いだったの?」『ああ。昔っから世話になってる人なんだ』ナナがウインクする。『言ったろ?最近の神様は気安いもんだって』「あら、お痛がすぎる子にはその限りじゃないわよ」イナメがたしなめるように言う。「あなたのご先祖様みたいに、度がすぎるとね」47 #4215tk

2015-10-08 21:09:23
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ご先祖様。そういえば、彼女は自分が血統書付きだとかなんとか言っていた気がする。四季はふと思い出していた。「ナナのご先祖様って、どんな怪異だったんですか?」「玉藻前。あ、最近の子には九尾の狐って言った方が伝わるのかな」軽い口調の答えに、四季は目を剥いた。48 #4215tk

2015-10-08 21:12:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ああ」彼の後ろで話を聞いていた怜が呟く。「やっぱりか」「やっぱり!?」思わぬ言葉に四季は勢いよく振り向いた。退魔師は小さく肩を竦めてみせる。「結構いるんだよ、玉藻前の一族って」「そ、そうなの……?そんな大したことない扱いなの?」「まあね」49 #4215tk

2015-10-09 21:57:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『そもそも小童。お主、玉藻前がどのような最期を遂げたか知っておるか?』鎌首をもたげた蛇神に顔を覗き込まれ、四季は小さく首を横に振る。『彼奴はの、人間の軍勢に追い詰められ終いには毒を放つ石に姿を変じた。殺生石と呼ばれるやつじゃな。しかしそれは後年に砕かれた』50 #4215tk

2015-10-09 22:00:15