幽霊屋敷の仮定決闘#2
重い足取りで地下室を目指すシェルヒ。プライド。確かに、プライドはある。このまま決定的な差を見せつけられ、おめおめ街に戻ることはできない。最後に意地を見せようと、シェルヒは地下室を目指した。まるで糸が絡みついたかのように歩みは遅い。勝てる自信はない。 55
2015-10-11 15:07:09「シェルヒ、あんた、諦めてるんじゃないわよ。あたしがついているんだから」 壁のしみがシェルヒの歩く廊下の壁に回り込む。ルーミはまだシェルヒに失望していないようだった。 「だめだ……勝てそうにない」 シェルヒは階段を下りる。小さな天窓の明かり。地下室はこの先だろう。 56
2015-10-11 15:09:39ルーミもまた階段の壁伝いに地下へと降りる。 「あたしはあなたにプライドを取り戻してほしいの。魔法陣の罠は卑怯よ。誰だって自分の半生に後悔や後ろめたさはあるわ。それが人生ですもの。そんな、全てが上手くいった例を無理やり作り出して、馬鹿にしてるのよ。あなたを」 57
2015-10-11 15:13:03「どうして僕を助けるのさ」 シェルヒはまるで捨てられた子犬のように卑屈になっていた。ルーミはため息をつく。 「どうしてって……あなたは勝てるからだよ」 「さっきまでのみっともない姿を、君も見たろう」 「でも、あれは……あなたなんだよ。あなたは自分と戦っているのよ」 58
2015-10-11 15:15:19シェルヒは地下室の扉の前に立った。ドアノブを回す。鍵がかかっている。ガチャガチャと何度も回す。 「僕に可能性があったから何だっていうんだ。僕はもう何者にもなれない」 「あなたはヒーローになれる」 ルーミはドアの横の壁に移動し、鍵に手を添える。微かな金属音。 59
2015-10-11 15:18:23鍵はあっけなく開かれた。シェルヒは黙ってドアノブに手をかけている。ルーミは続けた。 「今まで何人もの盗賊が館に忍び込んでは殺されたよ。彼らは皆ヒーローにはなれなかった。でも、それが何だっていうの? あなたは今までの盗賊とは違う。あなたの可能性は誰よりも強い」 60
2015-10-11 15:22:09「どれほどの時間が経とうとも、あたしはそれがすべて消えたとは思わない。確かに騎士にはなれないかもしれない。でも、あなたがその気になれば、いつだってヒーローになれる。そう、誰よりも強いヒーローに。あたしはそれを信じられる。今のあなたはちょっと落ち込んでいるだけ」 61
2015-10-11 15:26:19「僕が信じられないものを、どうして君が信じられる……」 ルーミはカウンセラーではない。彼女はそれ以上何も語らなかった。扉が開く。地下室は4メートル四方の正方形の小部屋だ。天井は低く、むき出しの梁に頭をぶつけそうだ。天井近くに小窓があり、外の光が差し込んでいた。 62
2015-10-11 15:29:31シェルヒは最後に部屋の外を振り向く。ルーミの姿はすでになかった。彼女は失望しきってしまったのだろうか。シェルヒは目を伏せて、逃げ込むように地下室に入る。扉を閉め、鍵をかける。地下室には重いタンスやクローゼットがいくつかあった。すべてドアの前に移動させる。 63
2015-10-11 15:31:54籠城だ。時間稼ぎにしかならないだろう。こんな障壁などたやすく突破するはずだ。そこからが勝負だ。もう短剣はない。シェルヒは丸腰のまま、地下室の中心に胡坐をかいた。目を閉じ、精神を集中させる。自分の力を引き出すように、深く呼吸する。時間がない、その一瞬を全て惜しむように。 64
2015-10-11 15:34:14