幽霊屋敷の仮定決闘#2

盗賊のシェルヒと、幽霊屋敷で出会った幽霊ルーミ。二人は魔法仕掛けの残酷な運命に必死で抗います #1はこちら http://togetter.com/li/884905 #3はこちら http://togetter.com/li/885931 #4はこちら http://togetter.com/li/886400 続きを読む
0
減衰世界 @decay_world

重い足取りで地下室を目指すシェルヒ。プライド。確かに、プライドはある。このまま決定的な差を見せつけられ、おめおめ街に戻ることはできない。最後に意地を見せようと、シェルヒは地下室を目指した。まるで糸が絡みついたかのように歩みは遅い。勝てる自信はない。 55

2015-10-11 15:07:09
減衰世界 @decay_world

「シェルヒ、あんた、諦めてるんじゃないわよ。あたしがついているんだから」  壁のしみがシェルヒの歩く廊下の壁に回り込む。ルーミはまだシェルヒに失望していないようだった。 「だめだ……勝てそうにない」  シェルヒは階段を下りる。小さな天窓の明かり。地下室はこの先だろう。 56

2015-10-11 15:09:39
減衰世界 @decay_world

ルーミもまた階段の壁伝いに地下へと降りる。 「あたしはあなたにプライドを取り戻してほしいの。魔法陣の罠は卑怯よ。誰だって自分の半生に後悔や後ろめたさはあるわ。それが人生ですもの。そんな、全てが上手くいった例を無理やり作り出して、馬鹿にしてるのよ。あなたを」 57

2015-10-11 15:13:03
減衰世界 @decay_world

「どうして僕を助けるのさ」  シェルヒはまるで捨てられた子犬のように卑屈になっていた。ルーミはため息をつく。 「どうしてって……あなたは勝てるからだよ」 「さっきまでのみっともない姿を、君も見たろう」 「でも、あれは……あなたなんだよ。あなたは自分と戦っているのよ」 58

2015-10-11 15:15:19
減衰世界 @decay_world

シェルヒは地下室の扉の前に立った。ドアノブを回す。鍵がかかっている。ガチャガチャと何度も回す。 「僕に可能性があったから何だっていうんだ。僕はもう何者にもなれない」 「あなたはヒーローになれる」  ルーミはドアの横の壁に移動し、鍵に手を添える。微かな金属音。 59

2015-10-11 15:18:23
減衰世界 @decay_world

鍵はあっけなく開かれた。シェルヒは黙ってドアノブに手をかけている。ルーミは続けた。 「今まで何人もの盗賊が館に忍び込んでは殺されたよ。彼らは皆ヒーローにはなれなかった。でも、それが何だっていうの? あなたは今までの盗賊とは違う。あなたの可能性は誰よりも強い」 60

2015-10-11 15:22:09
減衰世界 @decay_world

「どれほどの時間が経とうとも、あたしはそれがすべて消えたとは思わない。確かに騎士にはなれないかもしれない。でも、あなたがその気になれば、いつだってヒーローになれる。そう、誰よりも強いヒーローに。あたしはそれを信じられる。今のあなたはちょっと落ち込んでいるだけ」 61

2015-10-11 15:26:19
減衰世界 @decay_world

「僕が信じられないものを、どうして君が信じられる……」  ルーミはカウンセラーではない。彼女はそれ以上何も語らなかった。扉が開く。地下室は4メートル四方の正方形の小部屋だ。天井は低く、むき出しの梁に頭をぶつけそうだ。天井近くに小窓があり、外の光が差し込んでいた。 62

2015-10-11 15:29:31
減衰世界 @decay_world

シェルヒは最後に部屋の外を振り向く。ルーミの姿はすでになかった。彼女は失望しきってしまったのだろうか。シェルヒは目を伏せて、逃げ込むように地下室に入る。扉を閉め、鍵をかける。地下室には重いタンスやクローゼットがいくつかあった。すべてドアの前に移動させる。 63

2015-10-11 15:31:54
減衰世界 @decay_world

籠城だ。時間稼ぎにしかならないだろう。こんな障壁などたやすく突破するはずだ。そこからが勝負だ。もう短剣はない。シェルヒは丸腰のまま、地下室の中心に胡坐をかいた。目を閉じ、精神を集中させる。自分の力を引き出すように、深く呼吸する。時間がない、その一瞬を全て惜しむように。 64

2015-10-11 15:34:14
減衰世界 @decay_world

――幽霊屋敷の仮定決闘#2 (了) #3へつづく

2015-10-11 15:34:33