5月 三國佐久間と狭間駿

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狭間 駿 @c_yu_n

狭間】「………、」 ひと仕事終えて、凭れ掛かるようにコンテナの陰に佇む。手持ち無沙汰の時間に、さきほどざっと確認した札束の枚数を、ぱらぱらと数えてゆく。さっきまで依頼人だった相手の去ってゆく姿はあえて見ない。ある意味での礼儀のようなものだと思っている。

2015-10-27 11:59:54
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】夜の埠頭。コンテナが整然と積み上げられた片隅。

2015-10-27 12:00:20
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】ねっとりとした潮風が吹いてゆく。そろそろ初夏と呼ばれる季節。 (………煙草、) 供える以外にあえて吸ったことはないけれど、もし嗜みとして覚えていたら、こういうとききっと煙草を吸いたくなるんだろうなとふと考える。ぽつ、と点す火と、煙の香り。当然自分はいま、それを持っていない。

2015-10-27 12:02:54
狭間 駿 @c_yu_n

【2014年5月半ば/夜:東京:埠頭の片隅】

2015-10-27 12:04:35
ーーー @HaKo_723

ざあ、と高い場所を吹き抜ける風が髪や服の裾を揺らしている。眼下の波は黒く穏やかで赤い光を受けて光沢があるガラスのようだ。キリンのような巨大なクレーンの上、対岸を見据える頭の先、その熱を持たない鉄のに腰掛けて立てた片膝に頬杖をついて向こうの夜景を見つめている。

2015-10-27 12:11:50
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】「………、」 充分な時間をつぶしてから、凭れていたコンテナから背を起こす。すとん、と札を封筒に入れなおしてバッグにしまう。ちょっと上を向くようにして息を吐く。ゆっくり、歩きはじめる。足元は、夜なのに方々からの照明の反射で妙に明るい。

2015-10-27 12:12:15
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】なんとはなしに、海を見よう、と思った。夜の海。このあたりの海は、湾の対岸の街明かりで金色に夜景が光る。積まれたコンテナのあいだを、監視カメラを避けながら海岸線へとすすむ。

2015-10-27 12:15:35
ーーー @HaKo_723

サクマ】口から吐いた白い煙が潮風に乗って空中で掻き消える。いつか前にこんなふうに一人で夜を眺めようとした時に鳴った携帯電話をふと思い出す。あれからその着信はない。指に挟んだタバコを吸えば火がチリチリと赤く燃える。

2015-10-27 12:21:01
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】馬鹿みたいに大きな鉄の箱が、ペンキの色を均一に塗って、不思議に統一された色合いで整然と並んでいる。都会の明るい夜が降っている。道は広く感じられる。積まれた荷物たちは巨大な迷路の壁のようで、しかし迷路というにはあまりにきちんと整っている。潮風の匂いはどことなく生臭い。

2015-10-27 12:24:23
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】鉄の壁の集合を抜けてしまうと、海が広がる。黒々と、というにはあまりに、光が多い。金の眩しいライトが対岸で発光して、波にまっすぐな金の柱が何本ものびている。さあ、と風が抜けてゆくのを感じる。岸には、コンテナよりもさらに巨大な、ごついシルエットのクレーンが何機も据えられている。

2015-10-27 12:27:26
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】「 、」 ゆっくりと一度見渡してみてから、やはり鉄骨の無骨な整然さで形組まれたクレーンのそのシルエットのひとつに、ふと違和感を感じた気がして、遠いそれに目を凝らしてみる。

2015-10-27 12:29:29
ーーー @HaKo_723

サクマ】時間がゆっくりと、燻ぶる煙草に火がじわじわと浸透するように音もなく過ぎてゆく。ビルの群れの中で点滅する赤い航空障害灯は呼吸をしているようだ。明るく、人々はまだ街の中で各々動いているだろうに、街は静かに眠っているように見える。

2015-10-27 12:31:32
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】「………、」 半ば無意識に、左の目もとに指先を持ってゆく。遠くてよく見えない。コンテナが途切れ、海に面するようになったコンクリートの一画に立ったまま、その手をふと、ちいさく揺らしてみる。しゅる、とゆるやかな小さな風が生まれて、吹く潮風にすうっと乗る。

2015-10-27 12:37:52
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】その風が、海風に乗って通り抜ける。煙草の、かすれた煙を拾う。クレーンのうえに、ぽつんと乗って見えるシルエットのもとでほどけて、かすかな風がその影にするりとまとわりついて、流れて消える。

2015-10-27 12:40:25
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】(ひとだ、) ふつうはいるはずのない場所にいるそれに対して、そう認識する。ひとり、すこし首を傾げるようにして、目を瞬く。あんなところにいるとは、常人なら、ずいぶんな酔狂だ…異能者だろうか。

2015-10-27 12:43:48
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】(………、……、) とはいえ、それ以上は正直たいして興味もわかず、コトンと、立ったまま傍らのコンテナに肩を預ける。視界だけ、その影が目には入る方向を向くことを選ぶ。ざあ、と波の寄せ、返す黒い音がする。ちらちらと、目の端で波に光が反射している。

2015-10-27 12:47:14
ーーー @HaKo_723

サクマ】それを見つめることで、自分は”起きている”と明確に認識する。まだ間違いなく自らはこの世界で生きている実感。生きていかねばいけないという執念と憂愁。時間は有限であると再三自らに言い聞かせる。

2015-10-27 12:47:22
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】「……、」 ふと、その姿勢のまま見上げてみる。いま自分が肩を預けたコンテナには、もうひとつ、同じ大きさの箱が積まれている。並べられたひとつ奥のコンテナは、それよりも高く、三段。さらにもうひとつ奥では、5段、重ねられている。…高いなあ、と感じる。見上げる高さの、鉄の箱。

2015-10-27 12:50:49
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】次の刹那に、トン、と、5段のコンテナのてっぺんに踵をつけている。空間移動。地面が遠くなり、いっきに暗く沈む。いっぺんに視界が開ける。黒く光を映す海の面積を、たくさん視界に収められるようになる。ざあ、と正面からの風が抜ける。髪がなびいて、服の裾がばたりと煽られる。

2015-10-27 12:53:49
ーーー @HaKo_723

サクマ】夜に似た黒い服を纏っている。見えても影としか認識されないだろう。髪と服、煙といった柔らかいものだけが風にたゆたう。か

2015-10-27 12:58:50
狭間 駿 @c_yu_n

狭間】クレーンの人影は、こちらに気付いているような様子はない、ようだ。そう近い場所でもない。それはそれとして、また何気なく視界を巡らせてみる。空は光を反射し、夜なのにやはりうっすらと明るい。雲が流れてゆく。地上約13メートルの平坦な鉄の面は見晴らしがよく、奇妙に砂漠を連想させる。

2015-10-27 12:59:55
ーーー @HaKo_723

サクマ】「……、」ふと、目の前の宙に半分の長さになってしまった黒い巻紙の煙草を放り投げる。それに対して強い重力を発生させよう。煙草は投げ出された宙で停止したまま握りつぶされた紙のようにくしゃりと小さくなっていく。

2015-10-27 13:10:33
ーーー @HaKo_723

サクマ】ぎぎぎ、と圧を加えるように力を増していく。見えない球の空間の中で押しつぶされていく煙草は質量を無視して点になり消えようとする。そこにあるのは手のひらに収まりそうなブラックホールと言えるような代物だ。

2015-10-27 13:15:53
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