狭間】「?」 ふと、足元の重力が、くらりとおかしくなったような錯覚を覚える。目を上げて、 (…あ、) ざあと吹きすぎてゆく風の流れが、一部分だけ、奇妙におかしく歪んでいるのを視る。引き込まれるような…、…
2015-10-27 13:25:35狭間】件の、クレーンの人影のあたり。白金にちらちら光るような空気の流れが、ぎゅう、と寄せられて、吸い込まれている様子に、 (…葵、かな、) 冴島葵。あの少年の姿をふと思う。あの少年かな、と考える。
2015-10-27 13:28:16サクマ】ブラックホールと言えど、その収束的な力がかかるのはバスケットボールの直径とさほど変わらない範囲だ。自らの身体に被害は及ばない。その中心で小さな火が燃えながら煙草は間違いなく小さくなり、
2015-10-27 13:32:20狭間】ふつん、とコンテナの上から姿を消す。その人影がうずくまるクレーンの、赤白の縞模様のキリンの首。その首に手をかけるようにして、キリンの胴体の鉄骨のうえに、ぱ、と姿を現す。人違いであれば、問題なく逃げられるように。見上げるけれど、ここから相手の姿は見えない。
2015-10-27 13:32:52サクマ】次の瞬間、その異能を解く。気体の粒子さえ圧縮されていた虚空の中に一気に周りの酸素が流れ込み、極限まで圧縮されていた煙草が膨張しパァンと花火のように弾ける。火が酸素と結びついて一瞬だけやけに明るく火の粉を散らし光ってから消えた。
2015-10-27 13:38:00狭間】対岸のライトが見える。黒い波にちらちらと揺れる、金色の光の柱が何本も見える。視界の端にはこちら岸にもぽつぽつと、整然と並ぶ照明がある。クレーンの色が、黒々と、しかし明確にオレンジに照らされて、認識できるように思う。
2015-10-27 13:38:01狭間】突如の音に驚く。バランスを崩しかけて、 「…わ、」 とっさに小さな、ちいさな声を上げて、鉄骨を掴みなおす。響きはしないだろうけれども、わずかな音は立つ。
2015-10-27 13:42:07サクマ】視線と、人の息遣いのようなものが鉄骨を伝ってきた気がして、身体は動かさないまま意識を背後に向けたところで。「…」小さな悲鳴を耳にする。風で音は掠れているだろうがそこに誰かがいるのはそれではっきりと認識する。
2015-10-27 13:43:51狭間】しばしの時間が流れる。べたりとした風が、ただ流れてゆく。雲が、空の高いところで、ゆっくりと移動してゆく。移動、という言葉そのままの、動き方をするなあ、と、ぼんやり考える。
2015-10-27 13:52:55サクマ】流れて行ってしまう時間の中で、どうやらそこにいるのはわずかに期待した人物ではないという考えに至る。ただ、動くのは気怠い様子で、軽くそちらに首を捻ったくらいだ。そのままもう一本煙草を取り出してジッポで火をつける。
2015-10-27 14:00:42狭間】しばらく見上げていたが、動きがないと分かれば、その場に腰を下ろす。…あの少年では、なさそうかもなあ、と考える。彼であれば、何かが気になれば、ひょいと覗きにくるだろう。クレーンの、やや斜めに傾いだキリンの首の鉄柱を背にして凭れ掛かる。
2015-10-27 14:22:27狭間】目の前にはコンテナばかりが見えるから、首を仰け反らせて空を仰ぐ。雲が流れてゆく。あの少年でないならさっさと帰ればよさそうなものだとは自分でも思うけれど、黒い海の風の気配は思ったるくてけだるく、危険が降りかかってこないなら、まあそう慌てなくてもいいか、というふうに感じる。
2015-10-27 14:24:07サクマ】ふあ、と白煙が舞う。自分にはブラックホールすら生み出せる強い力を持つのに過去に戻る異能も自分の力を押さえてくれる異能も今のところ見つける事が出来ないでいる。空を見上げれば星は見えるだろうか。
2015-10-27 14:28:55狭間】上層をよぎる煙草の匂いも白煙も、海風にまぎれてここには届かない。眠いような気分を感じるけれど、目は冴えている。夜空の奥は暗い。雲は明るく地上の灯を反射して、ゆるゆると流れてゆく。
2015-10-27 14:34:36狭間】…葵くんだったらよかったのにな、とぽつんと考える。空を見上げたまま、くるくると指を回して小さな風を起こす。とはいえ、前回会ったときにはあの少年にはうっとうしがられたような気がするから、会っても大して話しはしてくれないかもしれないが。すこし笑うと、市松天雄の姿もふっと浮かぶ。
2015-10-27 14:38:33サクマ】手元でかちん、かちんとジッポの蓋を開け閉めして遊ぶ。ここにアイツがいたらどれだけ楽しいだろうという考えがふと過る。見上げる空がどこまでも深い。
2015-10-27 14:39:32狭間】それから、自分の風の師匠の、…顔だろうか声だろうか、姿というにはいえないそれも浮かんで、ああいう誰かと話をしたいのかな、と自分で考える。ふわふわと手元でつくった風を揺らす。この上には誰かがいるようだけれど、新しい面識を求める気分ではないなあ、たぶん、と考える。
2015-10-27 14:41:32狭間】それでも、逃げたり去ったりするほどの気分でもないから、鉄骨に凭れ掛かったまま鉄骨を跨いで、ぼんやり空を眺めている。鉄はひんやりしていて、海の風とも相まって少し寒いけれど、冷たいほどでもない。
2015-10-27 14:43:13サクマ】しばらくそうしているだろう。身体は次第に冷えてくる。背後の気配に動きが無いようで、まだそこにいるのかもう居なくなったのかすら感じられない。まだそこにいるとすれば不思議なものだ。クレーンはいくつかあるのだから他の場所にでも行けばいいのにと思う。
2015-10-27 14:48:30狭間】「……、」 無為に手遊びをしたり、なんとなく空をみあげたり、を、ゆっくり、延々と繰り返す。そのままの意味の手遊びであったり、風を捏ねて遊んだりもする。波の音が、ざあ、ざざ、と、揺れて、岸壁に水の打ち付けられるちゃぷちゃぷという音も時に聞こえてくる気がする。
2015-10-27 14:52:52