【ある冒険者の引退】

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退46】たった一日で冒険者を辞めた友人に話を聞いてみた。「前々から変わった奴だと思っていたが、これは一体どうしたことだ」「ああ、俺は言ってみたかったのさ。『俺もかつては冒険者だったのだが……』ってね」

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【ある冒険者の引退47】「何故だ、俺は命を狙われるような覚えはないぞ！」「……君は食うに困って冒険者となり、そして一山当てた」「あ、ああ」「困るんですよ、そういう人が出てくると。同じように夢を見て冒険者となる輩が後を絶たない。だから冒険者の最期は、バッドエンドになって頂きます」

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【ある冒険者の引退48】「例えば……世界から医者が一人もいなくなったら、それは誰もが医者であることと同義ではないかな」その目は狂気に染まっていた。「乱暴な理屈だな」言い返す――無駄と知りつつ。「だから、唯一冒険者認定を受けた君がいなくなれば、僕は念願の冒険者になれるってことさ！」

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【ある冒険者の引退49】「フフフ、これで人間は終わりだ……」ある日突然、あらゆる意欲が失われる奇病が蔓延。魔王を倒すべく旅だった冒険者たちも例外ではなく、世界は緩やかに滅亡への道を歩み始めた。「魔王様～人間どもほっといていいんですか～？」「な～んかやる気でないんだよな～」

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【ある冒険者の引退50】「こんなクソ暑い中で依頼なんか知ったことか！ 俺はもうやめだ！」「どうせお前のことだ、半年後には『こんな寒い中で～』って言うんだろ？」「ああ、是非そう言いたいもんだな！ この砂漠を生きて抜けられたらよお！」「そんときゃまた、お前の愚痴に付き合ってやるさ」

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【ある冒険者の引退51】最大手の冒険者ギルドに所属したという兄弟がいたが、弟は一月経たずに辞めてしまった。曰く「俺は冒険者って肩書きが欲しかったんだ。これで俺も一流の冒険者だな」と現状に満足した兄に幻滅したとのことだ。弟は無所属のまま冒険を始め、今や一流の仲間入りを果たしている。

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【ある冒険者の引退52】「爺さん役目は終わったんだろ？ もう町にでも帰ったら……」「はは、ワシはとうに引退したが、世間じゃ今も遺跡荒らしの手配犯だろうよ。昔は無茶したもんさ」魔法の鍵を手に去っていく勇者を眺めながら老人は思う。勇者のために鍵を作るのは、これが最後だといいな、と。

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【ある冒険者の引退53】「楽な仕事だと思ってましたよ。最初はね」そう語るのは元冒険者のＡさん。「ところがどっこい『勤務中は他に何もしてはいけない』とはね。夜逃げも考えましたよ」今やベテラン村人Ａさんの初々しい過去だ。今日も彼は言い続ける。「武具は装備しないと意味がないぞ」と。

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【ある冒険者の引退54】「冒険者から魔術師に転職するんだ」「え、もうそこまでレベル上がったの？」「いつまでも初心者向けの職じゃね～」「俺も経験値稼がないと――」 『……って夢を見たんだ。何がなんだかわけわからねえ……』『お前疲れてるんだよ……気にしないで、新しい人生始めようぜ』

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【ある冒険者の引退55】「如何でしたか？」「主よ、下界は最悪です。山に登れば巨人あり、海を潜れば大蛇が泳ぎ、虚の奥に待つるは竜、森は毒花毒虫だらけ。無論私にかかれば危険などあるはずもなく。二度と行く気はありませんが」「……ところで、私は『人々の生を学べ』と言った筈ですが？」

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【ある冒険者の引退56】「刃物マニアのお前が、今度はコレクションを売る側になるとはねえ」「ダンジョンにあるめぼしいもんはあらかた集めちまったし、満足したからな」「在庫がなくなったら、また旅に出るのか？」「いや、冒険はもういいさ。次は……肉屋でも始めるかな。経験が活きるだろうし」

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【ある冒険者の引退57】「最近できたあそこの肉屋……なんだか得体の知れない肉を使ってるって噂だぜ」「そう思ってたけど案外うまいぞ」「食ったのか！ 知ってて食うなんて呆れた奴だ」「食わず嫌いはよくないな。味もそうだが、何より食感がいいんだ。店主は肉の捌き方を知り尽くしてるな」

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【ある冒険者の引退58】「わざわざ『元冒険者』って報道するのやめてくれんかねえ」「奴らにゃ得体の知れない生き物なんだろ、俺らは」「あいつらの辞書に『飢え』はないんだろうな。物書きの癖に」「食人よりも死だなんて綺麗事だ」「さすがに生きてる奴は食わなかったがな。ま、俺も若い頃は――」

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【ある冒険者の引退59】太陽を手に入れようと機械で空を駆けた冒険者は、その傲慢な行いが神の怒りに触れ地に墜ちてしまったという。「その人、死んじゃったの？」「いいや、『空を飛べる上に神様に叱ってもらえるツアー』を始めたそうだよ。意外と盛況だそうだ」「神様、綺麗だもんね……」

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【ある冒険者の引退60】「世界を闇で覆ってやる……」そう言い残し消えた彼女は念願叶って魔王となり、その言葉を現実のものとした。「いったいどんなトリックを使った？」「悪魔と取引して」「ふむ」「魔王の力で一日中夜にしたそうだ」「それでいいのか……」「太陽光パネルがウザかったんだとよ」

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【ある冒険者の引退61】「老いたからって、お前の腕や頭なら引く手あまただろ。こんな余生退屈じゃないか」「僕は、子供の頃から冒険者が夢だったんだ」「知ってる」「それは今でも続いてるよ。現役の冒険者から、引退した元冒険者になってね。他の何にもならない、生涯冒険者で在り続けたいんだ」

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【ある冒険者の引退62】おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました

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【ある冒険者の引退63】世界の広さを見てこい、と送り出された青年。日々の生活に苦労したのも過去の話、今では困っている人を助ける余裕もあるほどだ。「世界を隅々まで歩いたら実家に帰るんですよ。たくさんの土産話を聞かせる日が楽しみだなあ。３０年は歩いてるけど、まだまだ世界は広いですね」

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【ある冒険者の引退64】その機械との出会いが彼の運命を変えた。あてもなく歩く日々は資金繰りと資材調達に奔走する日々へ変わり、武器に馴染んだ両手も今は工具の方がしっくりくる。壊れた何かの修理のために一生を捧げる、それもまた彼の冒険なのかもしれない。

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【ある冒険者の引退65】「はい、これで貴方は不死身です」「よし、念願の……」「ちなみに痛覚遮断は不要ですか」「え？」「他に不老、呪い反射、体力増強など、別料金でご用意しますよ」「じゃあ俺、ただ死なないだけか！ 意味ねえ！」死ぬこともできない男は今もどこかに隠れ住んでいるそうです。

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【ある冒険者の引退66】収穫の時期を過ぎた農民が様々な理由で一時的に冒険者になるのはよくある話だ。だから、命が惜しかったら出来心で農作物を盗もうなどとは思うな。たとえ相手が老人であってもだ。老いた農民の扱う鎌が、引退した元冒険者のデスサイズへと早変わりする様を見たくはないだろう？

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【ある冒険者の引退67】水脈の位置を正確に突き止める知識と技術を持つ彼は冒険者たちから重宝された。しかし冒険の才能については欠片も見られず、ある国で温泉を掘り当てたことをきっかけに引退を決意、領内の温泉の管理人となる。彼を惜しむ声は多かったが、彼をよく知る者は彼を快く送り出した。

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【ある冒険者の引退68】「俺の人生は決められた運命だって考えたら冒険が詰まらなくなってさ」「で、辞めたのか。その引退も運命かもな？」「やっぱり続ける！」「こう悩むのも運命だったりしてな」「ああもう、どうしたらいいんだよ」「足掻くなよ。折角、運命の神様に運んでいただいてるんだぜ」