【ある冒険者の引退】

小話のまとめ
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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退69】言葉を話す剣を手に入れたという男は巧みな腹話術で人々を欺き続けたが、腹話術師として稼いだ方が実入りがいいと考え冒険者を引退する。彼を知るものはここに至り『言葉を話す剣』が嘘であったと気付き始めるも、その見事な技術は認めざるを得ず、苦笑混じりで喝采を送った。

2015-09-20 20:36:01
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退70】「冒険は目的のための手段でしかないだろう」「冒険こそが冒険者の目的そのものではないのか」一つの冒険を達成したとき、ある冒険者の物語はここで終わりを迎え、ある冒険者の物語は新たなページを紡ぐ。冒険者の物語に正解はなく、どの答えもが正解であった。

2015-09-22 05:48:12

71~80

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退71】「隣町まで手紙を届ける」そんな簡単なことさえ町を出たことがない彼にとっては冒険だった。託された地図を片手に見知らぬ道を進み、不安に押し潰されそうになりながらも彼は依頼を成し遂げる。「ただいまー!」家に帰れば無邪気な少年も、数刻前までは確かに冒険者だった。

2015-10-05 00:38:39
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退72】「隣町まで荷物を届ける」そんな簡単なことさえ町を出たことがない彼女にとっては冒険だった。脳裏に刻まれた地図を頼りに、幾度となく危機に陥りながらも彼女は依頼を成し遂げる。「ニャー」無事に帰還した彼女を、研究員たちは人外冒険者計画の第一歩として大いに喜んだ。

2015-10-05 00:38:48
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退73】友の死をきっかけに引退を決意した冒険者。人の死など日常茶飯事、それを臆病者と揶揄する者もいたが「私の冒険に対する情熱がその程度だったということさ」と気にも留めない。しかし冒険のみならず、彼女の人生すべてが友のためにあったことは、本人すら気付いていなかった。

2015-10-08 23:13:29
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退74】空を自由に飛ぶという夢を持つも、果たしてそれは実現しなかった。せめて死ぬ前に一度……そう思った男は、先は長くないからと老骨に鞭打って、世界で最も高い山の頂から身を投げ出した。老い故に空中でもまともに体が動かなかっただろうと言われるが、真実を知る者はいない。

2015-10-09 22:30:46
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退75】「死人の蘇生? そりゃまた……」「驚いたか?」「いや、よくある話だと思ってな。で? 足を洗うってことは、うまくいったのかね」「逆だよ。遺体が腐っちまった、遅すぎたんだ」「不用心だな、何も対策しなかったのか」「処理はしたが、さすがに千年はもたなかったのさ」

2015-10-10 00:04:52
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退76】「やっぱ冒険って言ったらドラゴン退治だろ!」憧れの冒険者になった少年。挑戦と失敗を重ね、知恵を絞りついにドラゴンを討伐するも、この世界にはドラゴンより凶悪な生物が数多く存在し、ドラゴン退治など駆け出しの仕事だと思い知らされ、真っ当に生きることを決意する。

2015-10-10 00:39:11
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退77】「で、どうするよ。一人でも欠けたらこいつは動かねえ。補充か?」「知らん奴に任せたくはない」「これを売れば食うには困らんさ」「他の生き方か。それもいいかもな」「解散だ。楽しかったぜ」勇猛と謳われた戦車乗りの四人組は、仲間の一人が戦死したその日、活動を終えた。

2015-10-10 07:01:54
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退78】「得物もまともに扱えなくなっちゃ、ここらが引き際か……」――祭りが始まると、敷地の片隅に目立たないように射的屋が立つ。無愛想な男だが、彼が的を外したという話は誰も聞いたことがなく、子供たちには人気がある。「いいか、撃つ直前まで絶対に引き金に指を掛けるなよ」

2015-10-10 16:31:33
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退79】蘇生術が使える冒険者は重宝されるに違いない――そして彼に、その機会は訪れた。深手を負い絶命した冒険者に術を施し蘇生は成功したが、傷の処置も行われぬまま意識を取り戻した冒険者は苦しみ悶え再び死を迎える。ここに至り、彼は冒険中に蘇生が行われない理由を理解した。

2015-10-11 00:21:39
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退80】頼りになる相棒――彼の唯一無二の得物であったカタナが折れてしまった。彼が他に扱える武器はなく、修復を試みた者は皆黙って首を振る。彼自身も諦めつつあったが、その才能を惜しむ者は多く、カタナを直せるものには莫大な賞金が出るとまで言われたほどだった。

2015-10-11 22:02:44

81~90

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退81】「この戦いが終わったらもう戦わなくて済むのだろうか」「いやここは『作物を育てるため大自然と戦う』ってやつだろ」「かーっ! よくそんなくっさい台詞言えるな!」「お前たち、見えてきたぞ」魔王の期待を背負った魔物たちは、勇者の居城を目にすると気を引き締めた。

2015-10-12 07:38:13
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退82】他にやりたいことができたから――そう言って引退していった冒険者を、彼は何度も見送った。寂しさはあるが、これでいいとも思っていた。明日も知れない冒険の日々を送るよりも、堅実な生活を健全な趣味とともに過ごした方がいいに決まっている。そして彼は一人、旅を続けた。

2015-10-12 07:38:33
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退83】天変地異により荒廃した世界、人々はその日を生きることで精一杯だった。「こんなときに?」「こんなときだからこそ、だ」かつてあらゆる地を人が踏破した世界は、もはや存在しない。「一度は諦めた夢がここにあるんだ。見ろよ。この世界すべてが未知! 前人未踏の世界だ!」

2015-10-13 00:31:06
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退84】冒険者養成学校にて。「ここを卒業しても、一度も冒険せず引退する冒険者もいます」どうして、もったいない、才能がなかったんだ、臆病者――生徒たちの声。「ここは冒険に不可欠な技能を学ぶところですが、それを冒険以外の物事に活用する才能が開花することもあるのですよ」

2015-10-17 08:26:11
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退85】どんな危険なダンジョンからも必ず無傷で生還してきた元冒険者と聞いて、彼に弟子入りを申し出る者が少なからず存在する。「俺はこの逃げ足一つで生き延びてきたんだ。老いぼれ爺が若い奴らに一体何を教えろってんだよ」そんな彼の逃げ足は、老いてもなお健在である。

2015-10-17 08:35:50
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退86】「飽きた? 無限に近い生成パターンを?」「毎回新たな冒険を、ねえ……。例えば、それじゃ他の奴らと同じ体験を共有できない」「それだけじゃないだろ」「まあな」時は未来。生身の冒険は旧時代のものとなり、『今』の冒険は意識を仮想空間へダイブさせるというものだった。

2015-10-17 08:50:07
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退87】「こう毎日が冒険続きだと、冒険こそが日常だと感じるな」「もう普通の生活には戻れませんってか?」「そうかもな。冒険を冒険だと思わなくなったら、俺は一体何者なんだろうな」「さあてな。ただ言えるのは、冒険を辞めたくても辞められない中毒者ってことだ」「違いない」

2015-10-17 09:08:34
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退88】見習いの死霊術師にとって、ダンジョンは格好の修練場だった。何しろ冒険者の死体にはことかかない……そう思っていたが、いつしか喜々としてダンジョン攻略を目指している自分に気付き、慌てて師の下へ帰る。延々と続く説教を聞きながら、彼はもう二度と冒険はしないと誓う。

2015-10-17 09:27:19
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退89】炎の扱いには一目置かれる魔法使いがいた。事実、これまで火に関する事故とは無縁だったが、気の緩みから彼の扱う炎が世界樹に引火、炎上させてしまう。経験不足ゆえに緊急時の対応がお粗末な一面が発覚し、あえなく冒険者免許を剥奪され、再び座学からの出直しとなった。

2015-10-18 10:00:15
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の引退90】闇に憧れ闇魔導師を目指す男。変わり者呼ばわりも気にせず闇属性一筋で修行を重ね、晴れて彼は闇使いの冒険者となった。しかし闇の魔法しか学ばなかったために毒や麻痺などの術を扱うことすらできず、ただ周囲を暗くできるだけの彼は、一日経たずして冒険を断念するのだった。

2015-10-18 10:16:17

91~100

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