【ある冒険者の引退91】村を訪れた吟遊詩人に聞いてみた。旅は危険も多いのに、詩人のあなたはどうやって生き延びてきたのか。詩人は答えた。私は初めから詩人だったわけではありませんし、他の多くの詩人もそうでしょう。演奏や語りが好きな冒険者……そんな人がいてもいいとは思いませんか?
2015-10-24 00:01:01【ある冒険者の引退92】あの村の長は冒険者だったから――町外れの木こりは元冒険者だから――元冒険者――「なんだってこうも色眼鏡で見られるかね」「冒険者なんて、ならず者と変わらんってことさ」「そういう奴らもいるけどさ、そうでない奴もいるわけだろ。暮らしにくい世の中になったもんだ」
2015-10-24 00:12:50【ある冒険者の引退93】引退を宣言しては数日後に復帰する冒険者がいた。「あー……構ってほしいんだよね、あれ」「引退するたびに祝ってたら俺たち今頃路頭に迷ってるな」「引退パーティは『もう戻ってくるなよ』っていう皮肉のつもりだったんですけどね……」「次は何日で復帰するか、賭けるか?」
2015-10-24 00:17:56【ある冒険者の引退94】「風邪ひいた? 大丈夫? 引退する?」「腰痛めたって? 大変だ! 引退しなきゃ!」「薬指の切り傷は引退表明よね?」「髪の毛が抜けた……引退の兆しだ……」「あああうるさいな! やっと説得して冒険者になれたかと思ったらこれかよ! 兄貴も姉貴もついてくんな!」
2015-10-24 18:11:27【ある冒険者の引退95】「おお死んでしまうとは情けない。お前にもう一度機会をやろう」「死んだ息子にその言い種は酷すぎるだろ! 大体『機会をやろう』とか何様だよ!」「旦那様は世界中のダンジョンを無傷で踏破した御方ですぞ」「……マジで」「既に引退した身だが、まだまだ若者には負けんよ」
2015-10-25 06:35:27【ある冒険者の引退96】ギルドからの退職金で小さな飲食店を始めた。冒険中に磨いた調理技術を活かすためだが、そのせいか時折冒険時代を思い返すことがある。「いらっしゃ……ああどうも。いえもちろん復帰なんて滅相もない」復帰の際は退職金の返上。退職金目当ての冒険者を取り締まるためだ。
2015-10-30 02:51:38【ある冒険者の引退97】王は冒険が大好きで、ことあるごとに城を抜け出そうとします。この悪癖に悩む家臣たちですが、ある者は言いました。王の居るところに国あり、と。ある日、城を抜け出した王が物音に振り返ると、なんと全国民が後を追ってきました。以来、王は城を抜け出さなくなったそうです。
2015-10-31 08:10:57【ある冒険者の引退98】「そろそろ終わりかな」ん、何がだ?「本を読んでいてね。冒険者たちの物語をなんだけど、ほぼ実話を基にしているんだって」ありふれた話ばかりになりそうだな。「そうでもないよ。事実は小説より奇なり、さ」私たちの話も、いずれ本になるかね。「この冒険が終わったらね」
2015-10-31 17:59:52【ある冒険者の引退99】「景気良くやるさ。あの世に銭は持ってけねえ」「なーんにもやる気になれない。もう寝てる」世界の滅亡が予言されたせいで、自暴自棄になった奴もいれば、無気力になった奴もいる。俺のパーティも散り散りだ。まったく、滅亡する世界を冒険するなんて二度とないチャンスだろ?
2015-10-31 18:11:45【ある冒険者の引退100】最後のページを飾るのは君の物語だ……か。こんなオチでいいのか?「いいんですよ。締めに相応しい話が都合良く転がっているわけはないでしょう」だったら君のことを書けばいい。「僕にとっては、この本を出すこと自体が冒険でしたよ」話を集める旅も十分冒険だったけどな。
2015-11-01 00:00:19