北野勇作さんの【ほぼ百字小説】
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【ほぼ百字小説】(46) 駅だな。誰かが言った。たしかに駅としか言いようの構造物だ。でも、駅なんてここにあるはずないのにな。降りてみるか。いや、わざわざ降りなくても向こうから来てくれそうだぞ。なるほど、プラットホームは満杯だ。
2015-11-14 19:59:32【ほぼ百字小説】(47) 勇敢な人間たちは武器を取って戦い、人間と武器は全滅して楽器だけが残った。だからこんな晴れた秋の日には、息が必要な楽器によって必要な分だけ人間は再生してもらえるのだ。まあひとつのハッピーエンドではある。
2015-11-15 20:06:09【ほぼ百字小説】(48) かつての校舎は、もうない。なのに黒板は残っている。壁も柱も、支えるものなど何もないのに、更地に黒板だけが浮いている。もしかしたら、ここにあった小学校とは関係なく、もっと前からここにあったものなのかも。
2015-11-16 09:01:58ここ何週間かはええ感じで書けてると思う。こういう感覚はひさしぶり。【ほぼ百字小説】のおかげもあるだろう。なんとなくそういうことをやったほうがいいのでは、と思って始めたことだが、まあ何をやればいいのかは身体が教えてくれる。田舎で稲刈りをしている最中に思いついた。
2015-11-16 14:14:00【ほぼ百字小説】(49) これは政治家。清濁併せ呑みウンコにして出すことができます。これは論客。清濁併せ呑みゲロにして出すことができます。これは清濁併せ呑み人形。政治家と論客、ワンタッチでどちらにも切り替えることができます。
2015-11-16 17:05:01【ほぼ百字小説】(50) 進路にハードルを置いていく仕事です。指示された高さのハードルを指示された位置に置いていくだけの簡単でハードルの低い仕事です。使用するハードルは基本的に低いですが、能力に応じて上げていくことも可能です。
2015-11-17 06:27:00【ほぼ百字小説】(51) 予言どおり、空港に巨大な蝶が舞い降りてきた。その美しい羽は何本もの滑走路を覆い尽くす大きさだ。いや、蛾だろ蛾。えっ、蝶でしょ。羽を広げたままだから、蛾だよ。じゃ、「美しい」は「毒々しい」に差し替えで。
2015-11-17 22:45:07【ほぼ百時小説】(52) 商店街で亀を見た。人間くらいの大きさの二本足で歩く亀だ。妻に教えてやろうと走って帰る。亀なんだよ。で、甲羅は触ったの? なんで? 長生きできるらしいよ。そうなのか。というか、みんな知ってることなのか。
2015-11-17 22:47:20【ほぼ百字小説】(53) なぜ、船内にブランコが必要なのか。それが宇宙船の駆動力に他ならないからからです。つまり、飛行士に要求される正しい資質とは、なんの疑いも抱かずただひたすら漕ぎ続けられること。以上。質問は受け付けません。
2015-11-18 16:26:07【ほぼ百字小説】(54) 水筒の中に何かがいる。口から覗いてみたら向こうもこっちを覗いていた。逆さにして振ってみたが水筒の内壁に手足を突っ張って出てこない。熱湯を入れても平気らしい。それならまあ、何も入ってないのと同じことか。
2015-11-19 19:29:16【ほぼ百字小説】(55) マンホールの蓋を跳ね上げ現れたのはマンホールマン。マンホールマンは身体にマンホールを持っていて、そのマンホールマンマンホールの蓋を跳ね上げ現れるのはもちろんマンホールマンマンホールマンで、その以下略。
2015-11-19 21:21:09【ほぼ百時小説】(56) また同じテントが現れる。いや、同じなのかどうかはわからないのだが、同じにしか見えない赤い三角のテントである。誰かが中にいるのか。よく見ようとして近づくと逃げる。テントごと逃げる。そういう生き物なのか。
2015-11-20 23:02:53【ほぼ百字小説】(57) 大きいのが強いわけやないねん。実際、大きさと強さとはほとんど関係ない。そやからべつに大きく出してもええねんで。ただ、大きく出そうとするとコントロールが留守になりがちやから小さくしとくんや。小説やしな。
2015-11-20 23:04:25【ほぼ百字小説】(58) 指輪が抜けなくなってしまう恐怖で指輪をすることができないという呪いを解いてもらったのだが、指輪が抜けたことに気づかず指輪を無くしてしまうのが心配で指輪をすることができないというのは、新しい呪いなのか。
2015-11-21 11:50:36【ほぼ百字小説】(59) 妻がまたザリガニを拾ってきた。今回もやっぱり、アスファルト道路の上を歩いてくるのが遠くから見えたのだという。今度こそ恩返ししてくれるかもよ。何がどうなればそんな展開になるんだよ。だって今度はメスだし。
2015-11-21 12:41:48【ほぼ百字小説】(60) 砂漠を歩いていた亀がサボテンと出会う。知性ある爬虫類と知性ある植物、砂漠には珍しく会話らしきものが成立する。彼らはしばし語り合い、亀は遠い土地の話と引き換えに、サボテンの身体の一部を食べさせてもらう。
2015-11-22 11:30:53【ほぼ百字小説】(61) ペンにはペン、卵には卵、楽器には楽器のケースがあって、だから人にも人のケースがあるだろう。ほら、あった。でもよく見ると棺で、人のケースというよりは死人のケース。吸血鬼のベッドという可能性もあるけどな。
2015-11-22 22:04:04【ほぼ百字小説】(62) 便器のように見えるかもしれませんが、投票箱です。けっこうぐんにゃりと柔らかいのですが、投票箱です。熱くも冷たくない、人肌です。あ、最近、歯が生えましたよ。投票の際は、指を噛み切られないよう気を付けて。
2015-11-23 09:07:38【ほぼ百字小説】(63) あの金属の塔、じつは正義の巨大ロボットなのだ。だがもちろん真の危機が迫るまでその正体は秘密である。だから時が来るまで秘密を守って待ち続け、待って待ってついに待ちきれなくなったぼくは、悪の博士になった。
2015-11-24 19:01:55【ほぼ百字小説】(64) 隣で寝ていた娘が半身を起こし、目を金色に光らせながら謎の言語を発した。どうした、と尋ねたつもりの私の口から出たのも同じ言語で、そのまま二人で話し合った。ひとり公園へ流星群を見に行っていた妻には内緒。
2015-11-24 20:39:09【ほぼ百字小説】(65) 目覚めたら、皆まだ寝ている。では寝なおすか、と思うが、いつ起きればいいのだったか。たしか寝る前に、皆で決めたはずだが。また適当に目覚ましをセットするか。何百年か前からこんなことばかりしている気がする。
2015-11-25 08:39:07【ほぼ百字小説】(66) 雨をきっかけにいろんなものが動き出すことになっていたものだから、予想外に早く降った雨に現場は大混乱。動き出すだけならまだいいが、うるさくて何もできない。なんでもいいからまずそのカエルを地球に送り返せ。
2015-11-25 20:05:40【ほぼ百字小説】(67) 暗闇で何かを落としたと思うのだが、何を落としたのかがわからない。仕方がないのでまた同じ暗闇に行き、暗闇で探し、暗闇で拾って、暗闇から出てきた。でも、何を落として何を拾ったのかは、暗闇でしかわからない。
2015-11-26 15:58:50【ほぼ百字小説】(68) でかい亀が大暴れ。だからこれは夢なのだろうなと思う。亀としては大きいのだろうが、怪獣というほど大きくはない。人間の大人くらいか。なんとも中途半端な大きさだ。それでもけっこう怖い、ということはわかった。
2015-11-26 16:18:51