北野勇作さんの【ほぼ百字小説】

北野勇作さんの【ほぼ百字小説】と関連ツイートをまとめました。 2016年6月30日発売の年刊日本SF傑作選「アステロイド・ツリーの彼方へ」(創元SF文庫)に、2015年にツイートされた1~151から100作が収録されました。 https://www.amazon.co.jp/dp/448873409X/ref=cm_sw_r_tw_dp_5mczxb130CQX9 1001篇以降を「その2」 https://togetter.com/li/1130221 にまとめました。 続きを読む
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北野勇作 『100文字SF』発売中! @yuusakukitano

【ほぼ百字小説】(69) 年老いた遊園地が死んだ。残された遊園地たちは、遺言状の内容をめぐっていがみあい、メリーゴーランドや観覧車や空中ブランコその他がいつもよりよけいに回転し、深夜になってもその回転が弱まることはなかった。

2015-11-26 21:29:02
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【ほぼ百字小説】(70) いつだって、よりよい焼き目をつけようとしていた。そのことに気づく者もいたが、でもまあ食べ終われば忘れてしまう。そんなこととは関係なく、トースターは続けたのだ。ただいさましいだけでやれることではない。

2015-11-27 09:38:56
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【ほぼ百字小説】(71) つまりこういうことです、と探偵が言った。皆さんがずっと羊毛百パーセントの毛布だと思い込んでいたこの毛布、じつは羊百パーセントの毛布だったのですよ。そうだったのかっ。警部が叫び、毛布がめえええと鳴いた。

2015-11-27 21:14:43
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【ほぼ百字小説】(72) 洗濯物を干していると、ベランダにカナブンが飛んできた。これが大きい。亀と並ぶと、同じくらいの大きさだ。いっしょに何かやっている。なあ、あれってカナブンの親分なのかな? 妻に言ったが、妻は呆れ顔で無言。

2015-11-28 09:35:59
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【ほぼ百字小説】(73) コンセントがあるのに気付いたのは、いつだったろう。とにかくぼくは、子供の頃からこのコンセントの存在を知っていた。でも、理由はわからなかった。今、やっとわかったよ。プラグのある君と出会うためだったんだ。

2015-11-28 18:59:51
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【ほぼ百字小説】(74) 髭ではなく髭根か、と思ったのは最近。だとすれば剃らないほうが身体によさそうだし、どうせ髭剃りではうまく剃れないからそのまま。根ならそろそろ根付かせるべきか、というか、根付かせたくなっているよ。根だな。

2015-11-29 09:39:47
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【ほぼ百字小説】(75) いい肉なのはたしかだけど、いったいどこから持ってきたんだよ。いや、いい肉だと思うよ。うん、いい肉だよ。だからさ、いい肉なのはもうわかったから、何のいい肉なのかってことをね。なんだよ、いい肉そうだなあ。

2015-11-29 10:28:53
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【ほぼ百字小説】(76) 狭き門から入っていくために身体を小さくすることを勧められ、どうしたものかと迷っている。入るにはそれしかないのか。でもそれって、狭き門をくぐってきた者というより、たんに小さい者を求めているだけなのでは。

2015-11-29 21:09:26
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【ほぼ百字小説】(77) 力自慢などではなくバケツを振り回しても水がこぼれないことを証明するためにバケツを振り回しているのだ、と主張する。まあバケツを振り回しているぶんには害は無いのだからこのままバケツを振り回させておこうよ。

2015-11-30 08:16:46
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【ほぼ百字小説】(78) 家と家との狭い隙間を通ってしか出入りのできない四角い空き地が近所にあって、そこは誰のものでもない土地だという話だが、雪が積もると蜜柑大のかまくらが隙間なく並ぶから、きっと誰かのものではあるのだろうな。

2015-11-30 13:46:49
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【ほぼ百字小説】(79) 悪の組織に捕まって、カレンダーに改造される。月末になると、締め切りに追われた正義の味方が襲ってくる。月が変わるのはカレンダーのせいではないが、彼らには彼らの理屈があるようだ。正義も悪もよくわからない。

2015-11-30 20:00:47
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【ほぼ百字小説】(80) 子供の頃、ぼくは石鹸箱に何かを入れて庭の木の下に埋めたのだった。水色の丸みを帯びたプラスチックの容器。何を入れたんだっけ。こうしてあの石鹸箱に似た容器に入ることになった今、そんなことを思い出している。

2015-12-01 08:22:57
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【ほぼ百字小説】(81) 鬼ごっこのためにひたすら肉体を鍛える。もちろんただ鍛えるだけでは満足できず、徹底した肉体改造を行う。角が必要だ。植える。牙が必要だ。植える。皮膚の色は赤。変える。そこまでやる。彼こそ、鬼ごっこの鬼だ。

2015-12-01 19:04:18
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【ほぼ百字小説】(82) どんな包装紙も大切にとっておかずにいられない母なのだ。もったいないから、と捨てないのだが、いつ使うんだ。万事がその調子だから、実家の押し入れにはぼくたちの抜け殻がすべて押し込んである。いつ使うんだよ。

2015-12-02 08:04:57
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【ほぼ百字小説】(83) 花瓶の中で妖精らしきものが溺死していた。背中に透き通った翅のある絵に描いたような妖精だ。事情はわからないが、恨みでもあるのか毎晩化けて出る。井戸から出るように花瓶から出る。妖精だけあって幽霊も綺麗だ。

2015-12-02 20:52:54
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【ほぼ百字小説】(84) 空き地に電柱が一本立っている。空き地になる前からそこにあった電柱。すべてなくなって更地になり、誰にも使われないままそこが雑草に覆われてしまった今も、立っている。夜になると、その下にはいつも誰かが立つ。

2015-12-02 21:44:41
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【ほぼ百字小説】(85) 近所に猿が出たと聞いた。近くに山などはないから飼われていたのが逃げ出したのか。公園の砂場には足跡が。商店街に糞が。あの塀の上で見た。だんだん近づいてきている気がするし、急に毛深くなったような気もする。

2015-12-03 08:45:16
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【ほぼ百字小説】(86) ひとつ多いなあ。右の親知らずの奥にもう一本ありますよ。歯科医が言う。このあいだ整骨院で、腰の骨がひとつ足りない、と言われたところ。そういう雑な造りらしいな。その程度には辻褄は合っている、とも言えるか。

2015-12-03 14:20:34
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【ほぼ百字小説】(87) 広くて大きな風呂にいる。腿くらいの深さの湯の中をざぶざぶと歩いていく。どこで道を間違えたのだろう。立ち込める湯気の向こうから、何かが笑っているような声が聞こえてくる。湯を好む生き物が棲んでいるらしい。

2015-12-03 20:25:09
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【ほぼ百字小説】(88) 風鈴が鳴っている。こんなに寒いのにいったいなんのためなのか。いくつも鳴っている。鋭く尖った音が耳にきんきん痛い。風の強い外に出てみると、軒下にずらり並んだ風鈴はどれも割れていて、でも音だけは聞こえる。

2015-12-04 07:28:04
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【ほぼ百字小説】(89) 風の噂では今夜あたり妻が帰ってくる。とは言っても、風の噂だからどの程度の確からしさなのかはわからない。それでも心の準備は必要だ。そして心の準備以外には何ができるか。まあとりあえず今夜はカレーにするか。

2015-12-04 13:48:48
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【ほぼ百字小説】(90) 学校のプールには何かがいる。冬になっても水を抜かないのは前から変だと思ってた。それで夜になってから忍び込んだ。でも操られてるだけなのかも。体育の授業で泳いだだろ。あのときプールの水を飲んじゃったから。

2015-12-04 19:05:02
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【ほぼ百字小説】(91) 毛糸玉が転がって転がって転がり続ける。赤い毛糸を追いかけていくと、玄関を抜けて路地へと出てそれでもまだまだ続いているから追いかけて追いかけて追いかけ続けるが、さすがにこれはおかしいなと思い始めている。

2015-12-05 09:04:12
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【ほぼ百字小説】(92) ついにジグソーパズルの達人がやってきた。彼ならきっとやれるはず。散らばったばらばらの欠片を見渡して熟考の後、静かにうなずく。そして、破壊されたこの世界の再建が始まった。そういうシーンのジグソーパズル。

2015-12-05 15:37:08
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【ほぼ百字小説】(93) お前は自動販売機なのだ。そう言われ、口から硬貨を入れられる。では、引き換えに出さねば。しかしいったい何を出せばいいのか。何の自動販売機なのかがわからない。まあわかっても、出せるかどうかはわからないが。

2015-12-05 20:05:03
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