北野勇作さんの【ほぼ百字小説】

北野勇作 『100文字ＳＦ』発売中！ @yuusakukitano

【ほぼ百字小説】（９４）　長い廊下のある家に住んでいる。玄関から奥へとまっすぐ伸びる廊下に、ときどき深緑色のスリッパが置いてある。いつもきちんと揃えて置いてある。誰のためなのだろう。私か。まあ、私しか住んでいないのだからなあ。

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【ほぼ百字小説】（９５）　爪切りで爪切りを切るコンテストが今年も開催される。爪切りを構えた参加者が互いの爪切りを切りあうのだ。爪切りで切られた爪切りが会場に散乱し、最後に残った勝者がつぶやく。また爪でないものを切ってしまった。

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【ほぼ百字小説】（９６）　土鍋型ＵＦＯを捕獲して、その内部に卵型ＵＦＯとか大根型ＵＦＯとか蒟蒻型ＵＦＯとかを収納しようしたところでいつも、竹輪麩型ＵＦＯの存在を知らない関西人が関東人と揉めて、結局は全部に逃げられてしまうのだ。

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@tatsurokashi まあ、目についたときにぱらぱら見てもらえたらうれしいです。こんなのがやれるのがツイッターのおもしろいとこですね。原稿用紙換算で原稿料とか考えてたら、アホらしくてできない。百個書いても25枚ですから。勝手に書いて、勝手にばらまくのがいちばんです。

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【ほぼ百字小説】（９７）　誰かがスイッチを押したらしい。突然、ジャングルが出現する。底なし沼も出現する。ついでに撮影クルーも出現したが、ああしろこうしろとあまりにうるさいので底なし沼に誘い出して沈め、全員で口裏を合わせて生還。

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【ほぼ百字小説】（９８）　夜、走っていると目の前に突然、登り坂が現れる。こんな坂、ここにはないはず。だが私はこの坂をよく知っている。そうか、あいつが帰ってきたのか、と思う。子供の頃、私はそいつのぎざぎざの背中でよく遊んでいた。

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【ほぼ百字小説】（９９）　風船が飛んでくる。いくつもいくつも飛んでくる。北の窓から入ってきて、南の窓へと抜けていく。ここはそういうところなんですよ。大家が言う。風船にはたまに手紙が付いてますけど、決して返事は出さないようにね。

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【ほぼ百字小説】（１００）　娘と月刊漫画誌を買いに商店街へ。もう売り切れてるかも、と心配そうな娘に私は笑って、大丈夫、いざとなったら昨日の商店街へ買いに行こう。するとすっかり成長した娘の声が、ああ、昔よくそんなこと言ってたねえ。

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というわけで100個。これで原稿用紙25枚かあ。

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まあ、もうちょっと続けます。５００くらいあったほうがおもしろいだろうし。寝よう。

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【ほぼ百字小説】（１０１）　牧場だと聞いていたのだが、どうにも牧場らしくない。これは騙されたのかな、とも思うが、しかし今さらどうしようもない。そこらをぶらぶらすると、景色だけはいい。山を見たり空を見たり雲を見たりして草を食った。

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【ほぼ百字小説】（１０２）　タコ焼き問題が再燃する。かねてよりタコ焼きのタコは生物のタコではなく象徴としてのタコであり生物としてのタコを内包する必要なし、という説を唱える一派だったが今回、イカ焼きもお好み焼きもタコ焼きだと主張。

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@mizcohol まあどんなふうにでも。ツイッターがないとこんなことしてないでしょうから、活字にこだわることもないと思います。たまたま流れてきたツイートとしてひとつだけ楽しんでもらってもいいです。もちろん紙の上でずらっと並べたのも見たいですけど。あ、朗読百連発とかも。

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【ほぼ百字小説】（１０３）　噴水が出現する。突然の出現ではあるが、突然出現するからな、とあらかじめ予告はされていて、だから濡れても濡れたほうが悪い、というか、濡れたくらいで文句を言うのはおかしいらしいから、笑うしかないと思うよ。

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【ほぼ百字小説】（１０４）　高枝切り鋏で高枝を切る。隣の庭に落ちてしまった高枝を拾おうと柵の隙間から手を伸ばしたら、なんと腕が抜けなくなった。大声で助けを呼んでいると、隣家の夫人がにやにやしながら出てきて、お前の落とした高枝は。

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【ほぼ百字小説】（１０５）　なあああお、と猫。反対側からそれに答えるように、なあああお。さらに別のところから、なあああお。そしてまた、と犬の遠吠えのごとく延々続く。いったい何匹いるのだ、と最初は不安になったものだが、じつは一匹。

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【ほぼ百字小説】（１０６）　雨が降っているせいか朝になっても表は暗い。そして雨のせいか二階の物干しが騒がしいが、洗濯ものは昨夜のうちに部屋の中に移したから大丈夫か。物干しでの集会はいいのだが、勝手に服を着られたりするのは困るよ。

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【ほぼ百字小説】（１０７）　突然の激しい雨に狭い軒下は大混雑。眼鏡を水滴だらけにした会社員、きゃらきゃら笑う女子高校たち、老夫婦、買い物途中の中年女、スケボー少年、最終的にはドラゴンに跨った勇者まで来た。そうか、雨には弱いのか。

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【ほぼ百字小説】（１０８）　冬なのに生ぬるい風がずっと吹いているのは、日本の南方に大量の幽霊が発生したためと思われます。かねてより、発生と消滅を繰り返してはいましたが、ここ数年は発生が消滅を大幅に上回り、ある量を超えたようです。

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煩悩の数まで到達した。寝よう。

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【ほぼ百字小説】（１０９）　物干しで洗濯バサミに襲われる。最近は群れで飛行していると聞いていたが襲われたのは初めて。ぱちぱちぱちぱち。振り向くとすぐそこまで迫っていた。洗濯ものを放り出して逃げる。干されるのはともかく痛いのは嫌。

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【ほぼ百字小説】（１１０）　基本的にはバケツリレーで対処するということに決定しましたが、むろん従来のバケツリレーで充分だとは言えません。国民の皆さんには、バケツマラソン、いや、バケツトライアスロンの気迫で取り組んでいただきたい。

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【ほぼ百字小説】（１１１）　いつものように妻にバリカンで頭を刈ってもらう。あれ？　数字があるよ。鏡を見るとなるほど確かに。新しく始まったやつかな。三桁じゃないだろ。そのほうが憶えやすいじゃない。なら、なおさら知られちゃまずいな。

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【ほぼ百字小説】（１１２）　嵐の翌朝、海岸で神様を拾った。神様は蛸に似ている。というか、蛸そのもの。それでも自分は神様だ、と主張する。たとえ火あぶりにされようとも意見を最後まで曲げなかったその態度はなかなか立派だ。うまかったし。

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【ほぼ百字小説】（１１３）　今日はいつもの参観日と違う。まず椅子の後ろの名札で特定を試みた。椅子にかけた上着のせいで見えないのが数人。だがあの中だな。おおっ、机の中にお道具箱。名前も書いてある。そうか、娘はあんなのが好みなのか。