『レードル大佐事件』紹介 ― 第一次世界大戦直前のオーストリア・ハンガリー帝国軍諜報部機密漏洩事件の顛末

しゅにっつぇるの歴史創作小説『レードル少佐』Kindle版販売開始に伴い、この小説の背景となったオーストリア・ハンガリー帝国軍諜報部の実際の事件の顛末をご紹介します。
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

どこかの映画のラストシーンで見たような、清々しいまでの一点消法。そして、見渡す限り誰もいない。昨晩からの雨は上がったが肌寒い風が吹き、黒いペレリン・マントが旗のようにたなびく。 pic.twitter.com/frFyaWX2XK

2016-05-25 00:36:21
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さて、今日は5月25日。オーストリア・ハンガリー帝国軍の情報部副部長を長年務めながら、同時に祖国を裏切り続けた参謀将校、アルフレート・レードル(1864-1913)の103回めの命日です。お馴染みの方にはまたしてもですみません。最近フォローしてくださった方にははじめまして。…

2016-05-25 09:45:38
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

…『レードル大佐事件』と呼ばれるスパイ事件は、独語圏および英国で現在までに少なくとも3回映画化され(あと1回はテレビ映画化)演劇化も2回されるほど、よく知られています。これはそんな「ドラマ化」におけるレードル役と、実際の本人の姿。pic.twitter.com/PiocG7PEuK

2016-05-25 09:45:59
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レードルの棺は、数多の作曲家が眠っていることで有名なウィーン中央墓地に埋まっています。区画はグループ79、27列38番。しかし現在そこにあるのは…草だけです。 pic.twitter.com/e6qnEbeldY

2016-05-25 09:47:49
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

当初は彼の犯行を隠蔽しようとした軍部により、夜陰に乗じて埋葬されたレードルの墓は、事件の露呈後、何度も荒らされました。そして1944年、ついに墓石すらも撤去されてしまったのです。「国の裏切者」「第一次世界大戦の敗因を作った男」という理由で。ただし棺はまだ、この地面の下にあります

2016-05-25 09:48:14
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

なぜそれほど執拗に彼の墓が荒らされたのかと思っていたのですが、実際その場に佇むと、疑問はすぐ氷解しました。振り向けば、そこにあるのは第一次世界大戦戦没者将校たちの区画。墓参する遺族の目に、レードルの名が入ってくるのは残酷な悪戯です。 pic.twitter.com/wVU9st1WQY

2016-05-25 09:49:04
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

墓を持たない国家反逆者も、しかし一人の人間でした。わたしは彼を弁護する気はありませんが、彼を通して見えるあの時代とその中で生きた人々の姿を追いたいと思っています。去年命日にツイートした事件の紹介をまとめてあります。ご興味ありましたら。togetter.com/li/899840

2016-05-25 09:49:29
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

【おまけ・もうひとつの『墓石のない墓』】レードル事件が発覚したのは1913年ですが、その少し前1909年にアドルフ・ホーフリヒターという中尉が墺洪軍参謀将校を狙って一斉に毒殺を試み、うち一人が亡くなるという事件がありました。彼が真犯人かということは、今でも異論を唱える人がいます

2016-05-25 09:54:27
しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

…いずれにしてもホーフリヒターは懲役刑となり、出獄後1945年まで生きました。亡くなるまで自らの無罪を訴え続けたといいます。彼の棺も中央墓地に埋まっているのですが、レードル同様、その墓石は既に撤去されています。あとに残るは草ばかり。 pic.twitter.com/zs7QFcJQlF

2016-05-25 09:54:48
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しゅにっつぇる (和名:揚げたビーフ) @schnitzel_san

(今回は記録に残る番地の数値からおおよその位置を割り出したのですが、正確な位置はもしかしたら間違っているかもしれません。いずれまた、ウィーン市立墓地管理局などに問い合わせてみたいと思います)

2016-05-25 09:55:12

おわりに

…今回Kindle版で出した『レードル少佐』は彼がまだ少佐だった1908年の出来事を扱っているので、ここでご紹介した顛末をわたしが扱うのはまだまだ先のことになります。
 純粋な歴史小説、というよりは、レードルとホリンカ少尉の「関係」を主軸にした、一種のBLものという体裁で書いています。(でも、純粋な成人向けBLものというほどではありません…)

 このまとめを通して、日本では何故かほとんどど知られていないレードル大佐事件について、ご興味をお持ちいただけましたら幸いです。