【ミイラレ!第二十三話:ホクサンのビャッコのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。今度攫われたのは主人公。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/900965
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十三話:ホクサンのヒャッコのこと】 #4215tk

2015-11-16 17:45:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は暗闇の中にいた。闇はわずかに振動し、彼を内に閉じ込めたものが移動しているのを伝えてくる。いくら四季でも、自分が今まずい状況にあることはわかる。しかしまったく身動きがとれないのも事実だ。ここはあまりにも狭すぎる。その上、彼は羽交締めにされていた。1 #4215tk

2015-11-16 17:48:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

体感では人一人が入るのがやっとという広さの空間。それにも関わらず、四季の背後にはたしかに気配があり、彼が不要な動きをとるのを封じている。「いい子。そのままじっとしていて」耳元で女の声が囁く。背中に密着しているのだろう。生暖かい感触が伝わってくる。2 #4215tk

2015-11-16 17:51:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『ええと』四季はひとまず念話を試みる。びくり、と背後の怪異が震えた。「念話できたの、あなた」『一応。それはともかく、あなたはいったい何者なんですか?なんで俺をこんなとこに?』「ひーちゃんの中をこんなとこ扱いしないで」不機嫌にそう返される。3 #4215tk

2015-11-16 17:54:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

がり、と肩に爪が食い込み、四季は顔をしかめた。「質問には答えてあげる。私たちは山ン本組の残党だよ。正確にはお母さん、だけど」『残党?』四季は少なからず驚く。巡以外にもそうした怪異がいたのか?「あなたを攫ったのは、お母さんが一度あなたに会ってみたいと言ってたから」4 #4215tk

2015-11-16 17:57:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『だったらわざわざこんなことしないでも、一言伝えてくれれば』「あなた馬鹿なの?あなたがそれでよくても、周りの奴らがどう反応するかくらいわかるでしょう」不機嫌そうな怪異の言葉に、四季は声を上げるところだった。よく考えれば、退魔師がそういうことを喜ぶとは思えない。5 #4215tk

2015-11-16 18:00:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「とにかく、あなたはもうそんな心配しなくていいの。もうすぐお母さんと会えるんだから」クスクスとした笑い声。それと同時に揺れが止まった。「着いた。少しここで待ってなさい」怪異の声と同時に、背後から明かりが差し込む。背中の気配が離れ、明かりの中へと消えていく。6 #4215tk

2015-11-16 18:03:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

明かりはあっという間に消え、四季は闇の中に取り残された。身動きがとれないほどに狭い。『お前も災難だな』突然脳裏に響いた声に、四季は息を呑む。『ど、どちら様?』『お前とは面識がある。そちらの幽霊と退魔師には世話になった』その言葉で四季は相手の正体を悟る。7 #4215tk

2015-11-16 18:06:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『あの時捕まってた怪異さん?』『……まあ、そうだ。小護 曳子(こもり ひきこ)という』『ど、どうも。よろしくお願いします……?』思わず間の抜けた言葉を返してしまった。四季としては、あの怪異がなぜ自分に話しかけてきたのかがわからない。気まずい沈黙が広がる。8 #4215tk

2015-11-16 18:09:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『そう身構えなくてもいい。少なくとも奥方様はお前の命を取ろうなどとは思うまいからな』『は、はあ。それはよかったです』脈絡なく再開される会話に、四季は戸惑いながらも返事をくる。曳子は淡々と念話を送ってきた。『ありうるのは……娘のうちの誰かにお前を預けることだろう』9 #4215tk

2015-11-16 18:12:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

預ける。四季は思わず眉をひそめた。『なぜそう思うんですか?』『お前のような力の持ち主を、ただ食うことはありえない。今でさえ霊気を周囲に放っているしな』愕然とする彼に気づいたか、曳子がくぐもった笑い声を響かせる。『体の中に入れているとよくわかる。暖かいからな』10 #4215tk

2015-11-16 18:15:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『体の中』四季は反復し、微妙な表情を浮かべる。『その……今、俺、どういう状況になってるんです?』『だから私の体内に……ああ、そうだな。言い方を変えよう。カバンの中に詰め込まれていると思えばいい。間違っても暴れてくれるなよ。こそばゆいからな』11 #4215tk

2015-11-16 18:18:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

元より四季にそのつもりはない。最小限のスペースしかないのだから、無駄に動いても疲れるだけだ。『体内って、どういう原理で……?たしかに小守さん大きかったですけど、人間一人中に入れると目立つんじゃないですか?』『そこはご主人の術の賜物だ。収納術が得意でなあ』12 #4215tk

2015-11-16 18:21:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

どこか自慢げな曳子の声に、四季は気の抜けた相槌を打つ。なんというか、カバン扱いされるのはそこまで嫌ではないのだろうか……そんなことをつらつら考えていた最中「お待たせ」唐突に光が差した。思わず眼を細める内に、首根を掴まれ引きずり出される。「ぷはっ!」13 #4215tk

2015-11-16 18:24:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

猿轡を外された四季は勢いよく息を吸う。そして引きずり出した相手を見た。白髪の怪異。「来て。お母さんが待ってるから」そう言われると同時、肩を誰かに掴まれる。見上げると濁った目があった。曳子だ。彼女は遠慮なく四季を引きずり始める。どこともしれぬ闇の中へと。14 #4215tk

2015-11-16 18:27:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「お母さん!お母さーん!」一足先に白髪の怪異が闇の中へと小走りに消えていく。「連れてきた!お母さんが探してた人間、連れてきたよ!」「……おお、そうかい」笑いを含んだ声がそれに答えた。四季は唾を飲む。闇の中から感じる圧力は、彼を緊張させるには充分すぎた。15 #4215tk

2015-11-17 20:09:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「よくやってくれたねえ、御笠。……美咲たちは?」「追っかけてくる奴らをなんとかしてくれてる」「そうか、そうか。ふぅむ、夜桜さんに迎えに行ってもらうかね」会話の方向へ、四季は歩かされる。ただ曳子に手を引かれているだけなのだが、どういうわけか振り払える気がしない。16 #4215tk

2015-11-17 20:12:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「まあ、あの子たちがそう簡単に囚われるはずもない。なんせあたしと夜桜さんの子なんだから……差し当たっては」闇の中に入る。一瞬だけ目眩のような感覚。気づいたときには、一面に畳の広がる部屋の中へと情景が移っている。「あんたと顔を合わせておくとするかね」17 #4215tk

2015-11-17 20:15:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

部屋の中央で、その怪異は待っていた。御笠と呼ばれた白髪の怪異を伴って。「初めまして、日条 四季殿。手荒い歓迎をお許しいただきたい」それは一見すれば妙齢の女性である。漂白されたように白い髪と肌。白い着物に、唯一緋色の袴。巫女装束だ。彼女は悠々とお辞儀をした。18 #4215tk

2015-11-17 20:18:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「手前は龍造寺……いえ、旧姓で名乗ったほうがようございますな。北山 伊奈(きたやま いな)と申します。どうぞお見知りおきを」「ど、どうもご丁寧に」四季もまた慌てて一礼を返す。この怪異が山ン本組の残党なのだろうか?浮かんだ疑問に答えるように、中空に小槌が現れる。19 #4215tk

2015-11-17 20:21:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の眼前に現れたそれは回転しながら畳へ落ちる。落ちる頃には、それは小柄な女の姿へと変じていた。あ、と四季は声を上げる。「春、さん」「はい、その通りで。申し訳ありません、若。この場に至るまで姿を隠しておりました」沈痛な面持ちで小槌の付喪神が頭を下げる。20 #4215tk

2015-11-17 20:24:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

付喪神……古木 春はすぐに白髪の巫女へと向き直り、腕組みをして相手を見据える。「で、久しぶりじゃねえか伊奈。今までどこをほっつき歩いてやがった」「そう怖い顔をせんでくださいよ春殿。退魔師どもの目を眩ませて、ようやっとここへたどり着いたんですから」21 #4215tk

2015-11-17 20:27:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

伊奈が目を細めて笑う。対する春はなおも不審の眼差しを隠さない。「目的はなんだ?ことによっちゃただじゃすまさねえぞ。いくら昔世話してやった間柄とはいえ」「相変わらず血の気の多い!やめてくださいな、あたしゃ単に」と、伊奈は四季に向け手招きをする。22 #4215tk

2015-11-17 20:30:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それと同時、四季はまた目眩を覚えた。世界が歪み、元に戻る。そうすると、目と鼻の先に伊奈がいた。「え」思わず声が上がる。覆うようにして見下ろす彼女の目がにんまりと笑った。「今の頭領殿がどのような御仁か、確かめたいだけ。……ふふ、初々しいことで」23 #4215tk

2015-11-17 20:33:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

彼女は四季の顎に手をかけ、上向けさせる。「ふむ。まだ子供……まあこんなものかね。しかし霊気は確かに規格外。そう思うだろう、御笠?」呼びかけられたもう一人の白髪の怪異は、黙って頷くのみだ。「ふふ、春殿が入れ込むのもわかる。相変わらず若い燕が好きなのだから」24 #4215tk

2015-11-17 20:36:02