【ミイラレ!第二十三話:ホクサンのビャッコのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。今度攫われたのは主人公。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/900965
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

からかうように呟いた瞬間、四季の頭上に重い風が吹いた。間近にいた四季には、それに対し伊奈が何をしたかわからない。ひとまずはっきりしたのは、春の苛立ち紛れの攻撃を彼女が受け流したらしいということだけだ。天井に鈍い音が響き、ぱらぱらと破片が落ちてくる。25 #4215tk

2015-11-17 20:39:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「危ないですねえ。ほんの冗談ではないですか」「あたいがその手の冗談が嫌いなの、忘れてんじゃねえだろうな!?」「まさか。……さて」不意に微笑を消した伊奈は、四季の目をまっすぐに覗き込む。金色の瞳、その瞳孔が細まった。「少し世間話でもいたしましょうか、頭領殿」26 #4215tk

2015-11-17 20:42:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「せ、世間話?」「ええ。まあそう固くならず。ひとまずはお座りくださいな」伊奈の言葉とともに、四季はすとんと腰を下ろした。いや、そうさせられた。見えない力で両肩を押しつけられたのだ。どうやらこの怪異、神通力とでも言うべき力を持っているらしい。27 #4215tk

2015-11-18 17:54:35
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

にわかに動揺する四季のすぐ前に伊奈が正座する。「さて頭領殿。どういった経緯でその地位を得られたのです?」「え、と」彼は背後の春へ振り向こうとした。できない。有無を言わさぬ力で首が固定されている。正面から伊奈の視線を受けた四季は、仕方なく正直に答えることにした。28 #4215tk

2015-11-18 17:57:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「その……巡さんから譲られたんです」「巡」伊奈の目が細められる。「そうでありましょうな。ご自分から望んで手に入れられたものではありますまい。となると、無論あたしのこともご存知ないでしょう。それとも彼奴か春殿からお聞きで?」四季は素直に首を横に振る。29 #4215tk

2015-11-18 18:00:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その様子に伊奈はくつくつと喉を鳴らした。「正直。よいことですよ……昔のあたしはね、山ン本組の四天王なんぞと称されておりました」四天王。そういえば、前に巡がこぼしていたような。「ええと、あの……呪文みたいな名前の人たち?」「なんだ、そっちは聞いてるんですか」30 #4215tk

2015-11-18 18:03:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

きょとんと四季を見つめた伊奈は、視線を宙にやって何やら思案しているようだった。「となるとあいつ、名前だけは伏せてたのか。妙なとこで律儀な……ええ、その一人です。ホクサンのビャッコといいましてね」その名なら聞き覚えがあった。成る程、この怪異が山ン本組の四天王か。31 #4215tk

2015-11-18 18:06:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そこまで思い至った四季は不意に身を強張らせる。巡の言葉を思い出したのだ。山ン本組の四天王は次代の頭領候補でもあり……「ひょんなことで頭領となった自分に敵意を持っているやもしれぬ?」見透かされたように思考を口に出され、四季は絶句して白い怪異を見やった。32 #4215tk

2015-11-18 18:09:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

伊奈はどこか意地の悪い笑みを浮かべている。「あたしくらい歳を経ますとね、人の心を見透かすことくらいはできますので。……もっとも、頭領殿の心は今しがたようやく見えた。動揺なさいましたな」四季は言葉を返せない。全身に嫌な汗が噴き出してくる。今の彼は無力だ。33 #4215tk

2015-11-18 18:12:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その様子を、歳経た怪異は楽しげに見やった。そしてからからと笑う。「はは、ご心配なく!取って食おうなどというつもりはありませぬので。なに、思ったよりもまともな頭領殿であるので、多少見直していたところです」「ま、まとも?」信じられない言葉が飛び出してきた。34 #4215tk

2015-11-18 18:15:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうですとも!人間というやつは意図せぬ幸運が舞い込むと調子に乗るものが多い。いくら尋常ならぬ霊気をお持ちとはいえ、頭領殿がそのような人間であったら……ふふ!まあ過ぎたことですな」伊奈が笑みを見せる。その口の端から鋭い牙が覗いた。四季の背筋に冷たいものが走る。35 #4215tk

2015-11-18 18:18:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ともあれ、あたしは今のところ頭領殿と敵対する理由もなさそうです。御笠も気に入っているようですし」四季は少し眉をひそめ、目だけを動かして横手に座っていた怪異を見やる。爛々と輝く瞳でこちらを見つめていた。気に入られている。本当に?「横から口を挟むがよ、伊奈」36 #4215tk

2015-11-18 18:21:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

断りを入れたのは黙って話を聞いていた春だ。四季の元まで歩み寄った彼女は、軽く彼の肩を叩く。それと同時、四季を縛っていた見えない力が消えた。「わざわざこんな場を設けたってことは、お前、山ン本組に戻ってくる気があるってことか?」「まあ、それも選択肢の内です」37 #4215tk

2015-11-18 18:24:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ここに至って、伊奈の表情がやや翳った。「愛する夜桜さんや娘たちとともに、安らかに暮らせる場所を得られるのであれば文句はなし。今すぐにでも組に戻りましょう。が」「が?」「やはりあたしとしちゃあ、巡の奴が気がかりなので」「またそれかよ」春が呆れたように息をつく。38 #4215tk

2015-11-18 18:27:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「お前といい奈留(なる)といい焔(ほむら)といい……ちょいと巡の奴への風当たりが強かねえか」「あたしは然程でもないですよ。ただ、腹の中でなにを企んでるかわからん奴に命を預けるような真似はしたくないって話です。なにやらいろいろ隠し事をしているようですし?」39 #4215tk

2015-11-18 18:30:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

伊奈の言葉に、春が眉根を寄せた。ここぞとばかりに白い怪異は言い募る。「そりゃあ、春殿が認めるんですから組への忠義や実力は本物でしょうよ。あいつの手腕で組の規模も大きくなった。それも認めます。だがどう考えてもあいつにゃ裏がある」「は!同類の勘ってやつか」40 #4215tk

2015-11-18 18:33:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

揶揄するような春の言葉に、伊奈は苦笑した。「そう思ってくださって結構。そうですね」と、彼女は四季を見やる。「ちょうどいい機会です。少し彼奴の腹を探らせてくださいな」「それで納得すんのか?」「ええ」溜息。「好きにしろ。若、すいませんがお力添えをお願いします」41 #4215tk

2015-11-18 18:36:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は眉間にしわを寄せて春を見る。「お力添え、って……具体的にどうすればいいの?」「おや、協力はしてくださるので」喉を鳴らして笑う伊奈。彼女は目を細めたままに四季を見やる。「そう身構えずともよろしいのですよ。あたしに大人しく捕まっていてくだされば」42 #4215tk

2015-11-19 18:03:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は少しだけ考え込み、眉間のしわを深くした。自分が捕まったとあれば、巡は確実に動きを見せる。伊奈が狙っているのはそれだ。「一応聞くけど、ケンカの枠は超えないよね?」「もちろん。あくまで彼奴の腹を探りたいだけですのでね」「それはいいがな、伊奈。巡以外にも」43 #4215tk

2015-11-19 18:06:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

しかめっ面の春が口を開こうとした、そのとき。「失礼いたしますっ!」軽い足音を立て、一匹の犬が部屋の中へ駆け込んできた。四季にも見覚えがある。三毛犬だ。伊奈は不快そうにそれを見やる。「何事ですか、騒々しい。客人もいるというのに」「も、申し訳ございません」44 #4215tk

2015-11-19 18:09:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

震えて頭を下げた三毛犬は、それでも口早に言葉を発した。「しかし緊急時ゆえ!御主人……もとい、充虎さまと美咲さまが退魔師および現山ン本組の怪異に追撃を受けています」「なんと」伊奈の目が驚愕に広がり、ついで細められる。「彼奴め、行動が早い……夜桜さんは?」45 #4215tk

2015-11-19 18:12:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「夜桜様にはシケが連絡に行っております。しかし、敵には数と地の利がありますので……このままでは……」「わかっておる」不機嫌に言葉を遮り、伊奈が立ち上がる。「成る程、頭領殿が人間ゆえに退魔師を引っ張り出せるか」「一応言うがそっちも殺すなよ。若の御意志だからな」46 #4215tk

2015-11-19 18:15:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

春の言葉に、伊奈が苦い顔をする。「春殿。あたしはまだ組に戻ったわけじゃないんですがね」「なに、お節介だよ。若の不興を買ったら入るもんも入れなくなるじゃねえか。……それともなにか?元四天王ともあろうものが、退魔師相手に全力を尽くさないと勝てませんってか」47 #4215tk

2015-11-19 18:18:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

白い怪異は春を睨み、低く唸る。「安い挑発を……まあ、いいでしょう。頭領殿にあたしの実力も見せねばなりますまいし」「そうそう。ああ、相手にはあの寺生まれの野郎もいるかもしれん。用心しろよ」出口に向かいかけていた伊奈の動きが、ぴたり、と止まった。48 #4215tk

2015-11-19 18:21:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「またそういう大事な話をついでのように……!あいつだけは殺していいでしょうね?」「あたいもそれでいい気はするんだが、まだ若の味方だ。やるにしても半殺しにしておけ」「さいで。……ええい、胸糞悪い。よくもまあ山ン本組の前に顔を出せたなあの人間」伊奈が吐き捨てた。49 #4215tk

2015-11-19 18:24:06