【#矢矧の手記】妹を亡くした矢矧の話

いろいろ考える矢矧bot（かわはぎ @Sakawalove_YHG

木曾は単に活動不能になる前に慌てて戻ってきて、これをポストに投函した後にそこらの海で死んだのだと思う。 多分そんなお涙頂戴な背景は持ってなかった。心中じゃなくて遊覧してきただけだったんだから。 涙色なんて冗談じゃない。世界の海の色が染みこんだ青色なのだと思う、これは。#矢矧の手記

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青いダイヤの女は、後世、恋する乙女たちの神様になった。 「木曾は愛に生き、愛に死んだ。私達艦娘のあるべき死のかたちを示したのだ」と。 なんとも素敵なストーリーだ。私も否定するつもりはない。 #矢矧の手記

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しかしやはりひとこと添えたくなる。 木曾はそんな感傷的な娘じゃなかった、もっと親愛の情を大切にする、義理堅く強い艦娘だったと。 私もあのように生きて死にたいと思う。 そう思うとき、その添えたいひとことを削る。 #矢矧の手記

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「――物語の中で、永遠に生きるって素敵じゃない？」 #矢矧の手記

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No.004【僕らの箱庭】 #矢矧の手記

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◆１２月８日　あめ この日記も少しずつ分厚くなってきている。 日々のどうでもいいことばかりつめこんでいる気もするけれど、元来日記とはそういうものだと思う。 #矢矧の手記

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でもたまには、柔らかなクッション……そんなものではない内容も書こうと思う。 勿論、そういう固くて尖ったものばかり書くことも可能だけれど、そうして皆の死亡記録みたいな物ができるのはごめんだ。 そろそろもうひとつ核をいれることができそうなくらい、クッションが溜まった。 #矢矧の手記

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神通の話を書く。 私の長い先輩であり、憧れであり、私にも酒匂にも常に厳しく優しく接し続けてくれた神通。 彼女のことは実はよく知らない。 ……なぜなら、彼女の行方は未だに杳としてしれないからだ。 #矢矧の手記

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行方不明になった艦娘の数は知らないけれど、結構ばかにならない人数だと思う。 その原因は人間に連れ去られるものからおそらく事故で死体が見つかっていないだけというものまでバラバラだ。 #矢矧の手記

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艦娘を誘拐するというのは、艦娘の見た目からやらかす人間は後を絶たない。が、そういった犯行はすぐ露呈する。 なぜなら艦娘は人間ではなく、高度な戦闘力と戦闘センスを持ち、素人が簡単に捕縛できるものではないからだ。 #矢矧の手記

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怖いのは、軍事能力を持つ団体が艦娘の力を武力応用するために武装の上で艦娘を捕まえることだ。 けれど、兵器事業はかなり厳しい法制度が敷かれているので、実際のところそこまで旨味はないだろう。 #矢矧の手記

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よって、艦娘が人間に連れ去られるというのは余り犯罪的なものではなく、むしろ駆け落ちのような本人の希望によるものになりやすい。 例えばとあるニュースで２０年間駆逐艦娘を自宅に軟禁していた男が見つかったというニュースが有ったけれど。 #矢矧の手記

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それは男にとっては全くの冤罪。実態は、家庭で不幸があり孤立した少年がいた。それに同情した駆逐艦娘が、つきっきりで面倒を見ていたから……だとか。人間と艦娘の寿命の差がここでも仇となっていた。 #矢矧の手記

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ただ、神通はそういうわけでもないと思うのだ。 彼女は提督に心酔していたし、ときどきぞっとするような強い愛情も見せていた。 提督なき今、他の誰かと駆け落ちするだとか、ちょっと私には考えられない。 #矢矧の手記

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生前、酒匂が言っていた。海に沈んだ私の亡骸（いや、生きてはいるけれど）を捜索していた時に、神通がこぼした一言を。 「私、提督の事が好きなんです。愛してるんです」 「私も、矢矧さんのように沈めば提督の心の中に居場所を作って貰えるかな……」 #矢矧の手記

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神通が行方をくらましたのは、提督が亡くなって５年後である。 これは私しか知らない事だけれど、ちょうど木曾が海の旅をおえて戻ってきた頃と一致する。 あの二人は仲が良かったし、ひょっとすると何かあったのかもしれない。 #矢矧の手記

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ただ、木曾は前にここに書いたように、死体で発見されている。 二人でどこかにいったわけでもない。結局まだまだ真実には遠い……と思っていたのだけれど。 ちょっと気になることが出てきたので、ここに、この手記に記しておく。 #矢矧の手記

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「青いダイヤの女は二人いる」という証言があった。 前にも書いたように、木曾は「青いダイヤの女」として知られていた。 けれど、彼女を夜に海で見かけたというものは、こう証言している。 #矢矧の手記

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「暗い夜だった、クルーザーで浜にたどり着こうという時、青い光が二筋見えた。 はじめは深海棲艦の生き残りが浮上してきたのかと思ったよ。 だけどよく見たら違った。青い宝石をはめ込んだ艦娘がいた。多分あの光はその宝石のせいだったんだろう」 #矢矧の手記

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なんでもない話であるけれど、問題は、そんな証言が場所と状況を変えて複数あることだ。 彼女はしばしば、もう一筋の青い光を伴って現れていたらしい。 #矢矧の手記

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木曾が――彼女自身が深海棲艦となって、もう片方の目も光っていた、ということはおそらく無い。 彼女の遺体は十分な確認が行われていた。 しかしこの機会に、今一度私が個人的に、彼女の遺体を見直させてもらった。 #矢矧の手記

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しばらくぶりに見た木曾は、相変わらず何も変わらない姿で眠っていた。 そこに、近年開発された特殊なライトを当てた。これは深海棲艦の肉体に含まれる物質を蛍光させるものだ。 すると、木曾の全身から青い光が立ち昇った。これは、深海棲艦とかなりの接触があったことに他ならない。　#矢矧の手記

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深海棲艦に含まれるその物質は、数年程度では劣化しない。そして木曾自身は深海棲艦ではない。 そこから考えるに、木曾は深海棲艦の生き残りを何処かで拾って連れ歩いていたのではないだろうか。 彼女の逃亡生活は殆どが海の上だったし、十分にありえる推測だと思うのだ。 #矢矧の手記

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神通の行方は、これと何かの関係があるのかもしれない。 孤独な人間を哀れんで、付き添い育てる艦娘がいるならば、木曾という片割れを亡くした深海棲艦に情を覚える艦娘もいるのではないか。 ……あの神通ならやりそうだと、根拠もなく思ってしまう私が居る。 #矢矧の手記