- entry_yahhoo
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「ヌゥーッ…」爆風が距離を取った吹雪の体を揺らす。爆音が耳を劈く。何と恐るべき爆発か。吹雪は知らぬが、嵐の爆雷にはブインに籍を置くある火薬提督が開発した特殊な火薬を詰め込んでおり、対潜力をある程度喪失した代りに10数倍の爆発力を獲得しているのだ。 34
2015-12-15 00:00:27爆煙が晴れる。コールドレインの足と思わしき肉片が浮かんでいた。吹雪はソウル痕跡を探す。「いない……断末魔も上げれずに死んだ、か?」そう呟き、立ち上がる。無論カラテ警戒は怠らない。「生きていたとしてもソウル痕跡を辿れぬほど瀕死…今の内に離脱しましょう」 35
2015-12-15 00:09:07吹雪は水上バギーへと歩き出す。「待ってくれ!」その背に嵐が声をかける。吹雪は立ち止まり、振り向いた。嵐がドゲザしていた。「俺に、カラテを教えてくれ!」「……」「アンタ、鹿屋の“死神”なんだろ!さっきのカラテで分かった!俺は、どうしても強くならなきゃならねぇんだ!」 36
2015-12-15 00:16:45「……」「頼む!」嵐は深く頭を下げた。吹雪は長く沈黙した。日が落ち始める。やがて、吹雪は口を開いた。「お断りします」「ナンデ!」嵐は顔を上げる。「何がダメなんだよ!」「…私のカラテは、時として己の命を投げ出すことすら厭わぬ危険なカラテです」「それでも構わねぇ!」「駄目です」 37
2015-12-15 00:23:00吹雪は決然と言い、嵐の瞳をしっかりと見た。嵐も吹雪を見る。既に緑の炎光は消え去り、左目の虹彩も元の大きさに戻っている。鶯茶色の瞳には諭すような色が灯っている。「貴方は、守りたい人がいるんですよね?」「ああ」「大切な人ですか?」「ああ」「なら尚のこと駄目です」 38
2015-12-15 00:28:00吹雪は言葉を続ける。「誰かを守ると言う事は、自分の命を大切にしない事ではありません。貴方が覚えるべきは私のような命懸けのカラテではなく、必ず生きて帰るカラテです」「生きて…帰る」嵐は己の手を見た。「その人は…まぁ私の想像ですが。貴方が死んだら酷く悲しむと思いますよ」 39
2015-12-15 00:30:43「悲しむ」嵐の脳裏に過るのは萩風の笑顔。嵐は思う。「アイツの笑顔…確かに、曇らせたくないな」嵐はそう呟き、立ち上がる。「分かったよ吹雪=サン…無理言って悪かったな」「まぁ、組手の相手なら喜んでしますよ」「本当か!」「まぁ、今はカラテよりも」吹雪が空を仰いだ。「帰りましょう」 40
2015-12-15 00:35:35二人は水上バギーに跨る。吹雪はエンジンを入れ、アクセルを回した。BRRRRR!轟音を鳴らし、水上バギーが発進する。嵐は沈み行く夕日を見た。夜が来る。愛しき彼女を苦しめる夜が。((はぎ、俺。お前を守るから。命も、心も))嵐は心の奥でそう呟く。夕日が優しくバギーを照らした。 41
2015-12-15 00:44:01エピローグ「イン・ア・ダーク・ダーク・シー・ボトム」
音が聞こえた。優しい水の音が。「……」コールドレインは目を開いた。まず見えたのは碧であった。碧の水。温かさを感じる。 2
2015-12-15 00:47:19((ここは…))コールドレインは何故ここに自分がいるのか考えようとした。記憶が曖昧だ。最後の記憶は何時だ。脳裏に過るのは艦娘。白い船。死神。緑の炎。そして爆発。そこまで思い出し、コールドレインは己の体を見下ろした。胸から下は無かった。 3
2015-12-15 00:51:11「消し飛んだか」コールドレインは呟く(その口元は戦闘機パイロットめいたマスクに覆われていた)。イクサに敗れた。厳然たる事実がコールドレインに突き付けられる。「だが、生きている」コールドレインは満足げに呟いた。生きている。ならば続けられる。復讐を。反逆を。 4
2015-12-15 00:54:02『良かった。目が覚めたか』何処からか、心底安堵したかのような声が聞こえた。コールドレインは見つけた。己を包むこの碧の水はガラスの筒に覆われていること。そして、ガラスの向こう。椅子に座る誰か。((人間や艦娘の気配ではない…))「同胞?」『そうだ』肯定の声。 5
2015-12-15 00:58:57ガラスと水で滲んで良く見えないが、その深海棲艦は紅いマントを身に着けているように見えた。『ドーモ』その者はアイサツした。王者の如く堂々と。『ライオンハートです』 6
2015-12-15 01:01:17「ドーモ、コールドレインです」コールドレインはアイサツを返す。「ライオンハート?聞かない名だ」『そうだろうな』ライオンハートは席を立ち、コールドレインが居るガラス筒に近づく。『私は離反者だからな』「離反者?離島一派か?」コールドレインは問う。「否」ライオンハートは否定。 7
2015-12-15 01:07:35ライオンハートがガラス筒に触れる。優しげに。姿が若干鮮明に見える。その全身にはイ級めいた衣装が施されていた。その頭部には王冠めいた複数の角。『君は、自我を持った深海棲艦についてどう思う』「どう、とは」『本来我々に自我は無い。ただ他者を模倣するだけだ』 8
2015-12-15 01:09:56「……」コールドレインはライオンハートの言葉を待つ。『我々の一部は艦娘を模倣するようになった。それ以外に人類から得るものが無かったからな。そうして人と同じ骨格を、姿を、そしてカラテを得た。そして、段々と変化が起こった。人間のような自我を得る者達が現れた』「それが」『我々だ』 9
2015-12-15 01:13:08ライオンハートが自分を、そしてコールドレインを指差す。『自我を得た我々は、次第に疎まれるようになった。当然だ。全体の目的に寄与しなくなった個体なぞ、邪魔でしかないからな』「……そうだな」コールドレインは歯を食いしばる。脳裏に過るは現在の深海のトップ。戦艦水鬼。そして“提督” 10
2015-12-15 01:15:21『君はどう思う?』ライオンハートが問い掛けた。「どう、とは?」『我々は確かに全体にとっては不都合な存在だ。だが、我々は望んで進化した』ライオンハートは強く拳を握った。『そんな我々を、たったそれだけの事実で踏みにじられるのを良しとしていいのか…否、否。否!』 11
2015-12-15 01:19:00ライオンハートは熱を込めて言葉を続ける。『我々は自我を得た!エゴを得た!我々は虚ろではない!確かに存在する!』ライオンハートは両腕を広げた。『それは誰にも冒せない尊厳だ!事実だ!私は、我々を踏みにじることを良しとしない!君はどうだ!』「私は…」 12
2015-12-15 01:23:26