ストレイトロード:ルート140(17周目)
- Rista_Bakeya
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その夜は宿泊先を見つけられず、人通りの減った街角に車を止めた。やがて家々の窓が少しずつ暗くなり、街灯と星明かりだけが残った。流星群の時期は過ぎた頃だったか。暦を数えながら右隣を見ると、助手席に座る藍がちょうど寝返りを打った。私の方へ向けられた顔は先程までの不機嫌が嘘のようだった。
2015-12-23 23:40:50聖夜は家族が集い、その土地の伝統に則った食卓を囲むものだ。帰る家がないに等しい私は雇い主の家に招かれた。藍は両親の間に座り、長旅で見聞きした事や土産品の来歴を誇らしげに語っている。親は危ない橋を渡り続ける娘を一度も叱らない。風の魔女は今、どこにでもいる冒険好きの少女に戻っていた。
2015-12-24 19:05:37140文字で描く練習、825。則る。 彼にも急ぐ家路があったなら、どんな顔をして、どんな土地を目指しただろうか。 長旅が好きな少女はきっと知りたいはず。
2015-12-24 19:05:46牧場の入口で無数の羊が私達を出迎え、瞬く間に藍と羊飼いを包囲した。藍はくすぐったそうに笑いながら羊の頭を撫でている。その姿は雲の上に乗ったようにも見えた。だが遠巻きに眺めていた私は、無防備な藍の髪を別の羊が食む場面を見てしまった。身動きの取れない彼女は背後の悪戯にまだ気づかない。
2015-12-25 19:19:03町外れで出会った行商人は怪物の皮や爪を加工した小物を売っていた。商品を置くテント自体も様々な骨、そして翼から切り出した飛膜で造ったという。「大丈夫なの?」藍が加工らしい加工のない天井を見上げて尋ねた。「これが結構頑丈でね。竜巻で空を飛んでも壊れなかった」行商人は笑って柱を撫でた。
2015-12-26 19:05:52「風を操るなんて嘘だよ」魔女を疑う少年は科学の道を志しているらしい。抱えた本の表紙を見る前から表情で判った。「できるからここにいるの」「風速いくらまで出せる?」藍が返答に詰まり、何とかしろと視線で私に求めてきた。「測ってみますか?」「どうやって」提案を撥ね付ける口調の返答が来た。
2015-12-27 19:19:07客船に乗った直後に藍を見失い、出港後に甲板上で発見した。彼女は舳先の手前で手すりから身を乗り出し、粉雪混じりの風を浴びていた。「昨日の夜、そこに入ったカップルを見たの」足跡が侵入の証拠として残っていた。「度胸試しにはちょうどいい形よね」見知らぬ男女が何をしていたか想像がつかない。
2015-12-28 20:35:50藍は慌てる市長を押し退け群衆の前に立った。そして表紙に顔写真が入った本を広げると、その冒頭を読み上げた。魔女の背後で表紙と同じ顔が青白くなった。「さっきわたしに言ったことと正反対ね」藍が笑顔で振り返った。「これ、本当にあなたが書いたの?」市長は口を開けているが、答えは出てこない。
2015-12-29 20:07:01140文字で描く練習、830。冒頭。 成敗の一場面。 小説にしても自叙伝にしても、文章はイメージを与える。人柄が表れる。
2015-12-29 20:07:28今日現れた怪物の動き方は一日逃げ回る内におよそ掴んだ。上空から急降下する狙いと速度を読み、車が捕らえられる直前に加速して地面に激突させる。敵の戦力を減らした私は藍に 怒鳴られた。「勝手な行動しないで!」魔女にも休息が要る。守られることも必要だ。どう話せば受け入れてくれるだろうか。
2015-12-30 19:28:34…今日の140文字に謎の改行が混ざっていることに今気づいた。疲弊した頭でよく書けたなとも思うけど本に入る時は修正確定。
2015-12-30 20:52:51今日も荒野に二人きりの夜を迎えた。携帯端末が電波を拾わないので、最寄りの町はまだ遠いのだろう。私は動かなくなった車の窓から道路を見張っている。「交代」助手席で眠っていた藍が起きて私の袖を引いた。「車が来るか見張るんでしょ?」自信満々の藍を信じて仮眠に入った。数分で叩き起こされた。
2015-12-31 20:13:15140文字で描く練習、832。見張る。 チャンスを逃さないためには、いつもアンテナの感度を上げておくこと。
2015-12-31 20:13:21「娘さんですか?」車を降りて藍に連れ回されているとよく言われる言葉だ。本当にそうならどれほど気楽でいられたか。試着室に入った藍を待つ間、本物ならまた違う心境かもしれないと思い直した。「これはどう?」カーテンを勢いよく開けたのは藍ではなかった。私の隣に座る男が苦笑いで肯定を返した。
2016-01-01 20:26:38学校に居座っていた怪物が去ったとの報せはすぐ町中に知れ渡った。訪れた当初は藍を生意気な子供としか見なかった人々が、今や大人よりも丁重に扱っている。「風向きなんて簡単に変わるのよ」もちろん本人は名声欲しさに戦っているわけではないだろう。だが悪い気はしないらしいことが表情から窺えた。
2016-01-02 20:05:23私達の行く先々には空飛ぶ怪物との戦いがある。旅の目的ではなくそれに近づく手段として。安易な挑発が相手の猛攻を招き、車を飛ばして荒野を逃げ回る羽目になっても、藍は窓の外を眺めて言う。「ほら、また予想が外れた」現場に来ない研究者達が送りつけたデータがまた一つ、怪物の炎で灰に変わった。
2016-01-03 19:04:49