村子の水揚げ物語

キャンジャニ学園×関ジャニ∞ @canjani8kanjani

26 可愛いなんて思ってしまった自分が悔しくて、心の中で悪態をついた。 「…何や…今日可愛いな」 『…何？』 「や、私服なん見るん滅多にないやん」 …全部渋谷さんに買って貰った服や鞄や靴だけど…覚えてないのかな？ あんま詳しそうじゃないし、いっつも古着っぽいの着てるし。

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27 でもたまに選んでプレゼントしてくれるのはセンスがよくて友達にも褒められたりする。 似合うって…何だろ、ちょっと嬉しい。 言葉少なに流れる時間。 そういえばこうやって過ごすのは初めてだ。 何、話せばいいんだろう…。 緊張してキュッてスカートの端を握った。

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28 「もうすぐ着くで」 『え、もう？』 窓の外に観覧車が見える。 え…もしかしてここは…。 『ディズニーランド！？』 思わず振り向くと。 「海やろ、今日は」 ニヤッて笑った。 朝早く出てきたからまだそんなに駐車場も混んでない。 すんなり車を止めて外に出た。

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29 「来たことあるん？」 『シーはない！』 心が逸る。 海なんて適当に言った場所。 それをこんな風に返してくるなんて。 オッサンのくせに…！ 「顔笑ってんで」 『渋谷さんだって』 「や、喜んどるみたいでよかったなーって」 悔しいけどその通り。

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30 こんなとこに誕生日に連れてきてもらって嬉しくならない女子なんているはずない。 どんな気分のときだって心躍る夢の国。 ベタだけど大正解。 『行こ！』 「待てって」 『もう！』 ゆっくり歩く彼の手を引っ張って走り出す。 「わっ！」 後ろから焦った声が聞こえた。

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31 中では私の行きたいとこ見たいとこ、どこにでもついてきてくれた。 たまに、こんなんあんで、って教えてくれたりもして。 お土産もグッズとかもたくさん買って貰った。 チラッと鞄から覗いた、ボロボロになったガイドブック。 ちゃんと下調べしてきたんだ。 想像したら笑える。

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32 でも連れてきてくれるだけじゃなくて、ちゃんと一緒に楽しもうと思って調べてきてくれたんだなーって思って、それが嬉しかった。 それにお昼ご飯だって。 「予約はしてあるけど…まあお前の行きたいとこ行こーや」 って。 『そんな…いいよ。連れてって』

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33 そう言って案内されたのは、友達と来たら絶対行かないようなパーク内のレストラン。 外の景色が見える窓際の席に案内されて、出てきたのは今まで食べたことないような豪華なコース料理。 「ランチメニューやけどな」 って言うけど、運ばれてくる料理はどれも美味しくて。 もう充分。

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34 それからHappyBirthdayって書かれたプレートに盛られた可愛いデザート。 「18歳おめでと」 そうはにかみながら言うから、こっちも恥ずかしくなって、素直にありがとうって返事しちゃった。 もっと吃驚したのは、席からパーク内のショーが見れるとこだったこと。

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35 こんな席、昨日今日じゃ絶対に予約取れないはず。 一体いつから計画してくれてたんだろう。 それなのに私の行きたいところでいいって…バカなんだから。 そう思ったら胸がいっぱいになって、こっそり見えないように涙を拭った。

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36 帰りの車の中、じんわり広がる心地いい疲労と軽い振動に目を閉じる。 「疲れた？」 『うん…少し…』 「寝ててええで」 『ん…』 シュッてライターの音。 煙草の匂いと一緒に少しだけ開いた窓から外の冷たい空気が流れ込んできた。 『ねぇ』 「ん？あ、寒い？」 『んーん平気』

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37 むしろ少し火照った頬に冷たい風が気持ちいい。 『吃驚した』 「あ？何が？」 『まさかこんなとこ連れてきてくれるなんて思わなかった』 「ん、あぁ」 『本当に海連れてったら突き落としてやろうと思ってたのに」 「マジか」 危なかったな…って子供みたいな顔でクックッ笑った。

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38 『危なかったって…何で？』 「や、ホンマは馬鹿正直にどの海がええか調べてな…相談してん」 『相談って…誰に？』 「ヒナ…や、ツレにな。そしたら女子高生が海って言ったらディズニーシーやろ！って力説されたもんやから」 『…』 「アイツの言うことやし半信半疑ではあってんけどな」

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39 ヒナ？誰のことは知らないけど、女子高生とかどうとかそんなことまで話すような友達がいるんだ。 ってか相談って。 「ちょっと不安やってんけど…楽しかったんなら良かったなって…でもまぁ…」 『…』 「海突き落とされても介抱してくれんねやったらそんでもええなあ」

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40 そう悪戯っ子みたいに言うから。 『そんなん…放って帰るに決まってるじゃん』 「ふはっ、ひでぇ」 煙を吐いて笑った。 車内を流れる気怠い沈黙。 少しずつ窓の外の光が多くなる。 これからどうするんだろ…。 何も言わない横顔に、さっきまで高揚してた胸が不安に騒めいた。

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41 一日中大丈夫とは言ったけど、何時までとか、もしかして朝まで…とか、そんなことは一言も話題に出ない。 「なあ」 その空気が息苦しくなったのか、彼が口を開いた。 『…ん？』 「何で金溜めてるん？」 『え？』 その話？ 一瞬緊張した体が緩んで力が抜ける。

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42 「や、言いたくないんならええねんけど」 『…子供の頃…仲良かった子がいなくなったの』 それにつられた様に、自分でも驚くくらいするっと口から出た。 ずっとずっと昔のこと。 『何も言わずにいなくなって、親にどうしてって問い詰めても教えてくれなくて』

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43 無言で前を見たまま、煙草に火をつける。 『後から、借金で夜逃げしたんだって聞いた』 ふーって煙を吐いた。 『凄く悲しくて寂しくて…。その時思ったの。どんなにいい人だって大好きだって、お金がなきゃ生きていけないんだって』 「…」 『お金がなきゃダメなんだって』

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44 『よくある話でしょ？でも…もうあんな思いはしたくないの。それくらい強烈だったの。だから…』 何も言わない彼から目を背けて外を見た。 とりあえずお金さえあれば、あんな思いはしなくていい。 理不尽に目の前から消えるなんて、もう嫌。 幸せになりたかった、ただそれだけ。

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45 そのために、こうやって体を売ろうとしてる私。 でも。 唯一変わらない、確かなものだと思ってた。 幸せになるために絶対必要だと信じてたもの。 それが今は何だか些細に思える。 一体幸せって何なんだろう…。 何か…わかんなくなった。 「…その」 『え？』

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46 「その友達は？どうなったん？」 『…わかんない』 もう顔も覚えてない。 風の噂も聞こえてこない。 残ってるのは、強烈なトラウマだけ。 『バカだと思ってる？』 「そんなこと思ってへんよ。お前が今までの人生で経験して出した答えやもん。お前がそう思ったんならそうなんやろ」

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47 この人のこういうところが気に入ったんだと思う。 いくら馬鹿なこと言っても、嘘だって言わないとこ。 説教するでもなく頭ごなしに否定するでもなく、全部聞いてくれるとこ。 浅はかな小娘のすることでも、ちゃんと正面から向き合ってくれるとこ。 いつも真っ直ぐ私を見てくれるとこ。

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48 馬鹿正直な感じはあるけど、現実見て真面目に将来考えろ…って無責任に言うだけの大人とは違う気がする。 今まで誰にも言ったことなかった私自身を預けてもいいと思った。 ほとんど何も知らないのに。 それでもちゃんと隣で寄り添ってくれる…そんな人。 「元気やとええな、その友達」

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49 ほら…こういうとこ。 『…うん』 「それに…」 『…？』 「お前の人生やし。お前が好きに生きたらええやん。まあ…俺が偉そうに言えることちゃうけど」 大人びた顔で笑って、頭をポンポンしてくれた。 子ども扱いされてる？ でも…子供、か。

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50 あれが欲しいこれが欲しいって駄々こねて、遊園地ではしゃいで遊んで、自分の理屈で犯罪スレスレのことしてて、好き勝手に甘えて。 そんな私を、怒るでもなく突き放すでもなく、ちゃんとそのまま見てくれる。 この人に軽蔑されたくないな。 今更自分のしてきたことを後悔してる。