【ミイラレ!第三十話:『サバト』のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。この物語はコメディのはずでした。 こちらは原文のみとなります。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/944414
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第三十話:『サバト』のこと】 #4215tk

2016-02-29 20:04:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

夜は更けていく。町の傍らで行われた死闘、この世界を去った悪魔。そうした事実はほとんどの人間に知られることはない。人々はただ朝を待ち、自らの家に篭るのみ。闇夜に満ちるのは静寂だけ。そのはずだった。とある家の二階、窓を割りながら外へ飛び出た人影が現れるまでは。1 #4215tk

2016-02-29 20:08:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ぐっ!」暗い空の下、道路に転がったのは青年だ。彼はすぐに立ち上がると、二階の窓向けて構えを取る。……無論のこと、こんな芸当ができる一般人はそうはいない。彼は退魔師だった。今日は非番で、ゆっくり体を休めて翌日に備える。その心算は突然破られた。2 #4215tk

2016-02-29 20:12:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「もう、すばしこいんだから」青年の頭上から降ってきたのはまだ幼い少女の声。窓から身を乗り出した声の主は、赤く輝く瞳で青年を見下ろす。すっぽりと頭を覆うのは、鮮烈な赤色に染まった帽子。「あと、もうちょっとで!あなたを血の噴水に変えられそうだったのに!」3 #4215tk

2016-02-29 20:16:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

無邪気に笑う少女……否、少女の形をした怪異に、青年は眉根を寄せた。突然ベッドの下から現れた悪意の塊。不意打ちを避けられたのは僥倖と言わざるを得ない。「ふざけやがって……!」右手を打ち振る。袖から滑り出てきた短い棒は、彼の手に収まった瞬間変形を開始。4 #4215tk

2016-02-29 20:20:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

伸び、しなり、両端から糸のごとく伸びた光がその形を固定する。一瞬で弓の形へと変貌したそれを、青年は迷うことなく怪異へ向けた。「まあ怖い」赤帽子の少女はおどけたように笑みを浮かべる。「けどあの人たちほどじゃないわ。『サバト』さまの足元にも及ばない」5 #4215tk

2016-02-29 20:24:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

青年は答えず、ただ怪異を睨みつける。弓を引く。光の矢が装填される。怪異はにやにやと笑みを浮かべる。退魔師はその笑みめがけ、矢を「……がっ」放つ直前、軽い衝撃が体に走る。なにか。退魔師は振り返った。そこにもう一人、怪異がいた。おぼろげな影のようななにか。6 #4215tk

2016-02-29 20:28:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

間近で見ても曖昧な輪郭しか認識できぬ顔。退魔師はそれから目を離し、視線を下へ。影のごとき怪異の持った影のごとき刃が、自分の体を貫いている。「は」そこまで認識したとき、体から力が抜けた。彼は崩れ落ちる。影の怪異は立ち尽くし、それを見下ろす。7 #4215tk

2016-02-29 20:32:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

青年の時間にブレーキがかかる。対照的に恐ろしい速さで広がる血溜まりを、彼は他人事のように見つめた。歓声とともに赤帽子の怪異が地に降り立つ。もはや退魔師のことなどお構いなしに、彼女は自らの帽子を鮮血に浸した。調子っぱずれの歌。青年の意識が途絶える。8 #4215tk

2016-02-29 20:36:29
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……かくして、殺人鬼たちの舞台が幕を開けた。人々の知らぬ間に。9 #4215tk

2016-02-29 20:40:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……不穏な影が跋扈し始めたその夜もまた、四季の周囲は賑やかであった。「あの、ちょっと待って。もう一度整理させて」額に人差し指を当てながら、四季は目を瞑る。「いろいろ騒ぎがあったからみんな疲れてる。だから今日はもう休む。ここまではいいよね?」「ええ、なにも」10 #4215tk

2016-03-01 20:04:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

平然と答えたのは薄青い肌をした鬼女、巡。「若旦那も明日がおありです。あまり夜更かしするわけにはいかんでしょう?」「ああ、うん。それはそう。けどさ」四季は目を開き、巡の背後に控えていた昆虫怪異たちを見た。「その……みんなで一緒の部屋に寝るっていうのはなんで?」11 #4215tk

2016-03-01 20:08:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「理由は二つございますね」困惑の眼差しを真っ向から受け止め、巡は言った。「まず襲撃への備えです。一応ここは神域であるとはいえ、その気になれば潜り込むことのできる怪異がいる。若旦那を一人にして、寝込みを襲われるなんぞもってのほか」「いや、まあ、そうだけど……」12 #4215tk

2016-03-01 20:12:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「二つ目」四季に二の句を継がせることなく、巡は続ける。「特に役立ったわけでもありませんが、まあこいつらも疲労困憊。少しでも早く回復させるためにも、若旦那のお力添えが必要です」四季を見つめるその目には、一切の抗弁を受け付けぬという強い意志が滲み出ていた。13 #4215tk

2016-03-01 20:17:23
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「故に、ま、肉屏風ですな。山ン本組頭領としての役得です。素直に受け止めてやってください」あっさりと言ってのけた鬼女に、四季は思わず眉根を寄せた。正直に言うと、その環境はつまり、困る。この歳になってそれは恥ずかしいというのが彼の偽らざる気持ちだった。14 #4215tk

2016-03-01 20:20:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うー……その、みんなはそれでいいわけ?」なんとか回避の糸口を探そうと、四季は昆虫怪異たちに声をかける。当の彼女たちは寄り集まり、なにやらひそひそ話を始めていたところだった。「……え?ああ、いいんじゃない?この部屋広いしさ。問題ないだろ」15 #4215tk

2016-03-01 20:24:41
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

気のない様子で答えたのは飛羽だ。ぼかんと口を開ける四季を尻目に、彼女は仲間たちへと向き直る。「で。位置どうするよ、位置」「アタシ頭領の隣がいいナー」「うぅむ……私がお側に寄ると、他の邪魔になるしな」「蜘蛛足ではな。まあ、希望者が頭領殿の近くに行けばいい」16 #4215tk

2016-03-01 20:28:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

和気藹々と場所取りの相談を始めた彼女らに、四季は思わず天を仰いだ。どうやら反対するものは一人もいない、らしい。「結構なご身分ですな」巡がにやりと笑みを浮かべる。恨みがましげに視線を向けた四季は、昆虫怪異の一人が巡の側に忍び寄っていることに気づいた。17 #4215tk

2016-03-01 20:32:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……で。お前は何の用だ、貴崎」振り向きもせず巡が尋ねる。忍び寄っていた蜂の怪異、茜はびくりと震えた。「え、えーと。その、めぐりんに質問がね?」「言ってみろ」「めぐりんも同じ部屋で寝るのよね?」「はぁ?なんであたしが」「寝るよね」すかさず四季は口を挟む。18 #4215tk

2016-03-01 20:36:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡が無表情に四季を見る。四季は逃げることなく視線を受け止める。せめてもの意趣返し。なにやら尊敬の眼差しを向けてくる茜は、まあこの際気にしないことにした。「……見つめ合っちゃってまあ。ボクがいない間に随分仲良くなったもんだね」そこに、声が割って入った。19 #4215tk

2016-03-01 20:40:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は目を丸くした。慌てて声の方へ向き直ると、そこには見覚えのある赤髪の少女の姿。「トリル!?いつの間に」「ついさっき来たばっかだよ」不機嫌そうに返した少女は、足早に四季の元までやってきた。「どこもかしこも面倒ばかり。結界の一つも壊さないとやってられないね」20 #4215tk

2016-03-02 20:28:33
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

不穏な一言。四季はまじまじとトリルを見つめた。彼女は肩を竦める。「そんな不安そうな顔しなくていいよ。なんかここの結界が強化されてたから、ちょっと穴を開けて入ってきただけ」「……神様連中が姿を消してたのはそういうわけかい。よくやるよ」巡が呆れたように言った。21 #4215tk

2016-03-02 20:32:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「わざわざ神様連中の仕事を増やしてまで、なんの用だい。あんたも暇じゃなかろうに」「そりゃそうだよ。こうしてる間にも薫は大変なんだから」苛立たしげな返事。表情を暗くする四季を一瞥してから、彼女は続ける。「でもまあ、大事な用があるからね。今は使い魔どもに任せてる」22 #4215tk

2016-03-02 20:36:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「まず、四季。ニコールのやつ帰ったから」「へ?」突然の情報に、四季は頓狂な声を上げる。「帰ったって……なんで?」「飽きたんだと」トリルはぶっきらぼうに答える。四季は黙って彼女の顔を見つめた。トリルは見返してくる。なにか文句でもあるのかと言いたげに。数秒の沈黙。23 #4215tk

2016-03-02 20:40:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……わかった。わざわざありがと、トリル」四季はただ、それだけ言った。妙な胸騒ぎを感じる。が、根掘り葉掘り聞き出す必要もない。彼はそう自分の中で結論する。「どういたしまして。で、次。これはどっちかっていうと巡の方に」「あたしに?」巡がわずかに眉をひそめる。24 #4215tk

2016-03-02 20:44:14
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