【ミイラレ!第三十話:『サバト』のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。この物語はコメディのはずでした。 こちらは原文のみとなります。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/944414
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「キミ、一応は四季を守ってるんだろ?だったら知らなきゃ駄目だ。シェイプシフターとかいう屑が四季を狙ってる」シェイプシフター。何度も耳にしたその名に、四季は思わず息を呑んだ。巡が目を細める。「詳しく話しな」「ボクに命令するなよ。話してやるからありがたく聞け」25 #4215tk

2016-03-02 20:48:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そしてトリルは語りだす。魔界に戻る前のニコールが目敏く寺に入り込んでいた変化の怪異を見つけ出したこと。魔界に帰る前の余興としてそれを追い、結果としてその一味と交戦したことを。「半殺しにしたらしいけど、結局逃げられたんだとさ。それだけで許せる相手じゃないけどね」26 #4215tk

2016-03-02 20:52:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

トリルの言葉に不穏な響きが滲む。四季が思わずたじろぐほどに。黙ってそれを聞いていた巡が、納得したように頷いた。「うちの馬鹿どもを煽っただけじゃなく、また胡乱な真似をしでかしてるか。その怪異、もはや山ン本組の障害と見做した方がよさそうだね」静かに結論づける。27 #4215tk

2016-03-02 20:56:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は思い出す。この町に来る前に遭遇した、あの風変わりな怪異。「なんでそんな……」「理由なんか知る必要ないだろ」吐き棄てるようにトリル。「狙われてるんだから潰せばいいんだ。余計な情なんてかけなくていい」有無を言わせぬ断定。四季はまじまじとトリルを見た。28 #4215tk

2016-03-02 21:00:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……トリル。なんか今日、機嫌悪い?」「別に!さて、最後の用事だよ。四季、ちょっと今夜ボクと付き合って」「つ、えっ!?」唐突な誘い。四季は絶句する。悪魔はわずかに口の端を歪めた。「君が想像したことは別の機会にしようか。今回は護身の方法を覚えてもらうよ」29 #4215tk

2016-03-02 21:04:32
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

護身。その言葉に色めき立ったのは四季自身でなく、むしろその周囲だった。驚愕や非難の視線が一斉に悪魔へ向けられる。「護身、たってさぁ」一番に口を開いたのは飛羽。「こう言っちゃなんだけど、若旦那は所詮人間だぞ。ちょっと護身術を習ったところで怪異に対抗できるはずも」30 #4215tk

2016-03-07 21:00:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「黙れ蚊トンボ」「蚊は余計だ!」「黙れ、っつってんだよ。ボクがやると決めた。お前らに口を挟む権利はない」冷たく言い放つトリルに、四季は嗜めるような視線を送る。とはいえ、彼も飛羽の言いたいことはよくわかる。人間が怪異に勝つのはそう簡単なことではないのだ。31 #4215tk

2016-03-07 21:04:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「別に格闘技を教え込もうってわけじゃないんだ。そういうのはながれにでも任せておけばいい」「じゃあ、どうするの?」「霊気の使い方を覚えてもらう。これだけでもかなりマシになるはずだよ」怪異たちの間にざわめきが広がる。四季はその反応に首を傾げた。32 #4215tk

2016-03-07 21:08:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「成る程、あんたの言うことももっともだ」巡が言う。難しい顔つきで。「しかし、それは……山ン本組はまだ若旦那の霊気が必要な状況で」「うるさいなあもう。その口塞いでやろうか。ボクの口で」トリルがそう言った途端、鬼女の姿は一瞬で部屋の隅へ。ご丁寧に茜を盾にしている。33 #4215tk

2016-03-07 21:12:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「はは、掴めた。キミ、こういう冗談に弱いんだね」「め、めぐりん?どうしたの?あたしは全然構わないというか、もっと密着してもらいたいくらいなんだけどあいたぁっ!?」顔を赤くしていた茜が頭をはたかれる。それを笑い飛ばしてから、トリルは四季を見上げた。34 #4215tk

2016-03-07 21:41:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ま、そういうわけさ。不安がらなくても大丈夫。ボクが手取り足取り教えるから」「う、うん。あの、霊気を護身に使うってどうやって?寺岡先生みたいに、なんかビームみたいのを出すの?」ほんの少しの期待とともに、四季は聞く。「あ、それは無理」淡い期待は一瞬で砕かれた。35 #4215tk

2016-03-07 21:17:31
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

トリルがやや渋い顔をする。最強の退魔師と戦ったことを思い出しているのか。「……これを認めるのはかなりムカつくんだけど、あの退魔師野郎はたぶんこの世界の人間の中でもトップクラスに霊気の扱いが上手い。あそこまで使えるようにするには、相当時間がかかるんじゃないかな」36 #4215tk

2016-03-07 21:20:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そ、そっか」「それに」気落ちする四季に、トリルはさらに続けた。「四季の霊気の量であれをやろうとすると、下手すれば反動で体が粉々になって死ぬ」「えっ」「人間の身体って脆弱だからね……まあボクは四季の魂があればいいけど、別にまだ死にたくないでしょ?」37 #4215tk

2016-03-07 21:24:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

こくこくと頷く四季。悪魔は笑った。「物分りがよくて助かる。じゃ、早速始めようか」言って彼女は指を鳴らした。ふっ、と部屋の明かりが消える。なにを。口を開くより遥かに早く、飛びかかってきた悪魔が四季を押し倒す。冷たい両手がまっすぐ首に伸び、無慈悲に締め上げた。38 #4215tk

2016-03-07 21:28:29
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「か、はっ」声にならない音が喉から漏れる。霞む視界の中、金色の瞳だけがやけに眩しく見えた。馬乗りになったトリル。その瞳に射竦められているせいか、抵抗すらできない。死の文字が脳裏によぎる。なぜ。どうして?疑問も虚しく意識が遠のく。喉の奥から何かがこみ上げる。39 #4215tk

2016-03-09 21:44:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「思ったより早いな」四季の耳に悪魔の呟きが飛び込む。その言葉の意味する言葉を判断する余裕は今の彼にない。喉元まで到達したそれは、トリルの手によってそれから先の道を阻まれている。気色の悪い熱と異物感に、四季の目に涙が浮かんだ。悪魔が楽しげに喉を鳴らす。40 #4215tk

2016-03-09 21:48:33
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「つらい?そうだよね。でも大丈夫、すぐに慣れるよ」言うやいなや、彼女は四季の喉から手を離した。せき止められていたものが、勢いよく口から溢れる。意識が飛び、視界がホワイトアウトした。……身体の芯まで凍るような冷たさと雑音に、彼の意識は揺り動かされる。41 #4215tk

2016-03-09 21:52:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……!」「……!?」「ああもう、煩いな虫ども。黙れ。上手くいったんだから」飛び込んできたトリルの言葉に、四季は目を開く。暗闇の中だというのに、嫌にはっきりと彼女の姿が見えた。「な……なにするんだよ!?」抗議してから、彼は自身の体に違和感を覚える。42 #4215tk

2016-03-09 21:56:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

まず不自然なのは視界の位置。トリルに押し倒されていたはずなのに、いつの間にか彼女と同じ目線の高さとなっている。身体の感覚もなんだか妙だ。妙に軽いというか不安定というか。周囲を見渡すと、昆虫怪異たちが目を見開いてこちらを見ている。その表情まではっきり見て取れた。43 #4215tk

2016-03-09 22:00:27
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

よく見えるのは怪異の表情だけではない。灯りのないはずの部屋の中の様子が手に取るようにわかる。不自然ささえ感じるほどに。「うー……なんかよくわからないけどさ。トリル、ちょっとそこを」どいて。言うより早く、四季は気づく。彼女はまだ自分の腹の上に馬乗りになっている。44 #4215tk

2016-03-09 22:04:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

馬乗り?そんなはずはない。彼女に乗られたまま、同じ目線に立つなどできるはずが。四季は慌てて自身の体を見下ろす。胸から順々に視線を下ろしていくと、なぜか足が見つからない。代わりに、誰かの口があった。口。四季はおそるおそる真下を見る。そこに見知った顔があった。45 #4215tk

2016-03-09 22:08:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

男……いや、少年の顔である。黒い短髪。癖っ毛なのか、ところどころで髪が跳ねている。顔立ちはごく平凡。よく言えば大人しそうで、悪く言えば気弱さが表に出ている。知った顔だった。とても見覚えがある。自分の顔。その口から……今の自分は……半身を出している?46 #4215tk

2016-03-09 22:12:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「幽体離脱はしたことなかった?」硬直する四季の耳に、愉しげな悪魔の声。「あったとしても、こういう形ではないか。うん、四季なら出せると思ったんだよ霊媒物質(エクトプラズム)。ちゃんと自分の姿を取れてるし、初めてにしちゃ上出来だね!」「な……な……!?」47 #4215tk

2016-03-09 22:16:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「今の四季は少しだけボクらに近づいた。霊媒物質ってのは便利でね、自分の意思次第で硬度も形も好きなだけ……ねえ、四季。聞いてる?」四季はそれに答える術を持たない。ただ死んだように白目を開く自分の顔と向き合い、なんとか状況を把握しようと脳を空回りさせるのみ。48 #4215tk

2016-03-09 22:20:26
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ナルシストの気でもあるのかい?いい加減こっち向きなよ」悪魔は四季の頭を掴み、強引に自分の方へ。本来ならば曲がってはいけない方向に首が曲がった。痛くはない。ただ、なんとも説明しがたい異様な感覚だけがある。「ああああぁぁぁぁッ!?」そこで彼は限界を迎えた。49 #4215tk

2016-03-09 22:24:20