【ミイラレ!第三十話:『サバト』のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。この物語はコメディのはずでした。 こちらは原文のみとなります。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/944414
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の絶叫に、トリルはただ首を傾げるだけだ。「どうしたのさ、急に?そんな絶望的な顔しちゃって。そういう顔もボクはかわいいと思うけど……」妖しく笑う。そのときだ。「四季!?大丈夫!?」勢いよく四季の背後の襖が開かれ、幼馴染の声が飛び込んできたのは。50 #4215tk

2016-03-10 20:20:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は反射的に振り返った。廊下側から漏れる光がいつもより眩しく感じられ、思わず目を細める。その光の中に怜がいた。裸にバスタオル一枚を巻いただけの姿で。そういえば怜、お風呂入ってたんだっけ。不意に思い出してから、四季の脳は別の方向に混乱し始めた。51 #4215tk

2016-03-10 20:25:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜も怜とて、その表情にはあからさまに混乱の色が浮かんでいる。幼馴染の悲鳴を聞きつけて飛んできたら、悪魔に馬乗りされているばかりか口から霊魂を出しているような状況では無理もないかもしれない。暫しの間、二人は互いを見つめ合った。そしてほぼ同時に状況整理を終える。52 #4215tk

2016-03-10 20:28:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……わあああああああぁぁぁぁーッ!?」結果、重なり合った悲鳴が屋敷中に響き渡った。53 #4215tk

2016-03-10 20:32:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「落ち着いた?」「……た、たぶん」息を整えながら……といっても、今の状態だと呼吸がいらないと気づいたのはついさっきだ……四季はトリルに頷いてみせた。だいぶ慣れてきた。あまり慣れてはいけない気もするのだが。「よかった。じゃあちょっと講義の時間と行こうか」55 #4215tk

2016-03-10 20:36:30
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ようやく四季から下りたトリルは、彼の腕……彼女の言葉を借りれば『霊媒物質(エクトプラズム)』で構成された方の腕に手を置いた。「これはそうだな、凝固した霊気だと思えばいい。だからその持ち主の意思によって自在に姿や性質を変えるんだ。コツを掴めばすごく役に立つよ」56 #4215tk

2016-03-10 20:40:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あっさり言ってのける悪魔に、四季は顔をしかめた。「役に立つと言われてもさ。そのやり方が全然わからないんだけど」「ああ、それは」「お話中悪いんだけどよ、ちょっといいか?」と、口を挟んできたのは『口裂け女』の龍造寺 美咲。今まで怜と一緒に大浴場に行っていたのだ。57 #4215tk

2016-03-10 20:44:28
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

当然、トリルがいい顔をするはずもない。「なんだよお前。畜生の分際でボクと四季の間に入ってくる気か?」「ぶっ飛ばすぞクソガキ。……いや、それよりもだ頭領。いい加減身体に戻ったらくれねえか?正直その……」「その?」珍しく口ごもる彼女に、四季は首を傾げた。58 #4215tk

2016-03-10 20:48:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なんだ、目のやり場に困る」「は?」思わぬ反応。途端に、昆虫怪異たちからも同意の声が上がり始めた。「そうだよ頭領!怪異(ひと)前でそんな無防備な……ダメだって!」「はしたないです」「そんなカッコのままだと襲われちゃうヨー。いろんな意味でネ」「え、え?ええ!?」59 #4215tk

2016-03-10 20:52:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

意味がわからず、四季はいまだ部屋の隅にいた巡に視線を送る。鬼女は面倒気に頬を掻いた。「あー、怪異と人間とでは感覚が違いますんで……説明が面倒なんですが……そうですねえ。さっき草江の嬢ちゃんが風呂場からおっとり刀で駆けつけましたでしょう。あられもない格好で」60 #4215tk

2016-03-10 20:56:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ああ、うん。それが?」怜が不機嫌そうに唸っているのを気にしつつも、四季は先を促す。巡はまっすぐに彼を見た。「あたしら怪異にとってみりゃ、今の若旦那はあの格好と同じ状態。もしくはもっと悪いです」「え」「というかトリル。あんたも知ってて黙ってたろう?」61 #4215tk

2016-03-10 21:00:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ぎこちなく、四季は首だけでトリルに振り向く。彼女は心なし恍惚とした笑みを浮かべていた。「普段の四季も魅力的だけど、やっぱりこっちの方がそそるよね。お前もう少し黙ってろよ蜘蛛女」「ちょっとトリル!?」「あんたの趣味はいいから、とっとと若旦那を戻してやんな」62 #4215tk

2016-03-10 21:04:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡の指示にトリルは露骨に嫌そうな表情になった。が、四季の視線に渋々といった様子で頷く。「わかったよ……四季、少し触るけど我慢してね」「う、うん。けどどうやって戻」答えは返ってこなかった。無遠慮に彼の両肩を掴むと、そのまま倒れたままの肉体に押し込んだのだ。63 #4215tk

2016-03-11 20:30:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

…………「う、う」暗転していた意識が元に戻る。起き上がろうとした四季は不快感に顔を歪めた。体が異常に重い。起き上がるのも億劫なほどに。「四季?大丈夫?」心配そうに覗き込んできたのは怜。さすがにもうバスタオル一枚ではない。浴衣を着込んでいる。64 #4215tk

2016-03-11 20:34:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「肉の体は重いだろ、四季。そういう意味でも霊媒物質の使い方を覚えておいたほうがいい。役に立つからね」ついで飛び込んできたのはトリルの声。傍らに腰を下ろしていた悪魔は四季の頬に手をかけた。「今夜はつきっきりで教えてあげる」「ちょっと!?」怜が抗議の声を上げる。65 #4215tk

2016-03-11 20:38:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

退魔師の怒りの眼差しを、悪魔はむしろ心地よさげに受けた。「んー、キミは四季が関わると直にそういう感情をぶつけてくるよね?すごくいいと思うよそういうの。うん。とっても魅力的」「それはどうでもいいが、悪魔の。まさかあんたも今夜はここに泊まる気かい?」巡が言った。66 #4215tk

2016-03-11 20:42:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「まさか」トリルは肩を竦める。「薫を放っておけるわけないだろ。今夜は戻る。四季と一緒にね」巡は無言。しかし、その表情だけで難色を示していることが見て取れた。トリルが鼻を鳴らす。「なんだよその顔。キミらといるより、ボクの側にいた方が遥かに安全だろ?」67 #4215tk

2016-03-11 20:46:35
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そんなの……ッ」怜が悔しげに言葉を飲み込む。彼女も理解してしまったのだろう。単純な力関係だけで見れば、トリルの言葉に嘘がないことに。悪魔は嗤う。「あはは!怜、キミ結構魅力的だね?ま、今夜はせいぜい嫉妬で蛇みたいにくねってなよ。明日には返してあげるから」68 #4215tk

2016-03-11 20:50:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そう言い放ち、トリルはいまだに起き上がれぬ四季を横抱きに持ち上げた。その背から大きな蝙蝠の翼が生える。「じゃあね」一方的な別れの言葉の後、悪魔は飛び上がった。天井にぶつかる瞬間、二人の姿が搔き消える。後には呆然と顔を見合わせる怪異と、俯く退魔師だけが残った。69 #4215tk

2016-03-11 20:54:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

一人の男が路上に倒れている。否、死んでいる。おびただしい量の血が道路に広がっていた。血溜まりの傍には、赤帽子の少女が恍惚とした様子でしゃがみこむ。そこに靴音を響かせ到着した影が一つ。『まったく、派手にやったものね』咎めるような声に、少女がびくりと顔を上げた。71 #4215tk

2016-03-11 21:00:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

少女の目に映ったのは黒衣の女の姿。腰のあたりまで伸ばされた癖のない髪も黒であれば、その肌もまた薄い黒。闇に染まった眼窩から覗く瞳だけが異質な金色の光を湛えていた。「こ、こんばんはサバト様」少女……赤帽子の妖精、リジーは慌てて立ち上がり一礼する。72 #4215tk

2016-03-11 21:04:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「その……こんなにしたのはリジーじゃない、です。影の」『私が言いたいのは』黒衣の女は釈明を断ち切る。『派手にやったあとにも関わらず、後片付けもしないで何をしているのか。ということなのだけれど』「ご、ごめんなさい」リジーは深く頭を下げる。その額に汗が滲んだ。73 #4215tk

2016-03-11 21:08:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『サバト』と呼ばれるこの怪異のことを、リジーはよく知らない。知っているのは自分が彼女の手によってこの国に召喚されたことと、自分よりも遥かに強大な怪異であること。加えて、最近は仲間の負傷のせいで機嫌が悪いということくらいだ。いずれにせよこれ以上怒らせたくはない。74 #4215tk

2016-03-11 21:12:09