「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」 #1

ドルドルドドドドドドドゥクククククカカカカカ!チンチンチンチンチンチン!スタカスタサスタタタタタタタタタタ!
2011-01-18 17:22:28
キャバァーン!「アタリ!」スットコブンブンブブンブーン、ジャラララララララ!「アタリ!四十回転、スゴイ級で予告ヤッタ!」「予告ヤッタ!」「予告ヤッタきました!」「ワー!スゴーイ!」
2011-01-18 17:25:02
キャバァーン!「アタリ!」キャバァーン!キャバァーン!「ゴアイサツ!スゴーイ!スゴーイ!スゴーイ!」キャバァーン!
2011-01-18 17:26:41
ブッダの彫像めいた姿勢でストイックに右手の射出制御ハンドルを操作していた男が断末魔の叫びとともにのけぞり、血を吐いた。
2011-01-18 17:33:02
銀色の遊戯台はピンボール台を垂直に立てたような形状をしており、その筐体はじつに一列90台ずつが整列している。一台につき一人が肩をすぼめて背もたれのない椅子に腰掛けたさまは、さながら養鶏施設か工場奴隷の様相だ。
2011-01-18 17:42:28
だが、彼らは自由意志に基づいてこの場へ足を運び、手足も満足に伸ばせない空間へ、すすんで収まるのだ。彼らを駆り立てるのは、やるせない欲望、射幸心……このマッポー的な眺めは、「パーラー」と称されるパチンコ・カジノ施設すべてに共通するものなのだ。
2011-01-18 17:50:29
「おい!どかせ!店員=サン!とっととこの負け犬をどかせよ!もうすぐこっちがアタリするんだよ!」くたびれたブルゾンを着た中年男性が迷惑そうに大声を出した。先ほど血を吐いた男が彼に寄りかかっているのだ。男は死んでいる。
2011-01-18 17:54:26
死んだ男は1/10260000の確率で発生するボーナスゲームに挑戦中であった。8時間近くかけて積み上げたポイント倍点が、ムザンにも一瞬にして無駄になってしまった。ショック死である。アタリ中年男性の怒声は店内の極大ボリュームのBGMにかきけされ、店員の耳には容易には届かない。
2011-01-18 18:04:13
客の焦燥感を煽り立てる目的で、BGMは400BPM以上のデステクノかファナティック・トランスを流すものと相場が決まっている。このパーラー「過アタリ経営難可能性」においてもそのメソッドは当然に履行している。
2011-01-18 18:25:12
中年男性は激烈なビートに負けじと大声を張り上げ続けた。他の客はまったく注意を払わず、催眠的な様子でハンドルを黙々と動かしている。店員がやってきたのは五分後の事であった。
2011-01-18 18:35:01
「エート、どうしたんで?」無表情な青年スタッフが、ずれたメガネを直しながら問いかける。「どうしたじゃないよッ!こいつ見ろよ!死んでるでしょ!はやく持ってけ!」中年男性はショック死した男の死体をゆさぶった。「エート、ワカリマシタ」
2011-01-18 18:41:27
青年は淡々と、小型IRC端末から実体キーボードを引き出し、ノーティスを打ち込んだ。「チンタラやってんなよ!迷惑しすぎてアタリできなくなったわ!」中年男性が口から泡を飛ばして青年の襟元をつかんだ。「弁償しろよ!アタリするはずだったんだよ!」
2011-01-18 18:53:06
「エート、デキマセン」青年は無感情に答える。その無機質さが中年男性を一層苛立たせる!「畜生ナメやがって!生活かかってンだよこっちは!遊んでるんじゃないんだよ!」襟首を掴んで、グイグイと揺さぶる。
2011-01-18 19:17:07
そこへ、ノーティスを受けた警備スタッフが小走りにやってきた。「何やってんだこいつは。ハイ!」「アバーッ!」問答無用!スタン・ジュッテを中年男性に押し当てる!中年男性は目と口から煙を吹き出し、床に置かれた死体の上に重なって倒れた!
2011-01-18 19:20:55
「まったく面倒くさいったら。一人一人だぞ」「エート、ハイ」戦場の塹壕めいた爆音の下、青年と警備員は倒れた中年男性の頭と爪先を持ち、運び出す。一連のトラブルは他の客からは一瞥もされる事はない、ナムアミダブツ……!
2011-01-18 19:25:05
キャバァーン!ドルドルドドドドドドドゥクククククカカカカカ!チンチンチンチンチンチン!スタカスタサスタタタタタタタタタタ!………………
2011-01-18 19:26:13
殺人的な音楽が一瞬にして無音になった。同時に、「過アタリ経営難」の広大なフロアが完全な闇に包まれる。「アイエエエ!?」「なんだ?」「アーッ!スーパーリーチが!??アバババババーッ!」
2011-01-18 19:29:26
それまで全くの無反応で筐体に集中していた客たちが、てんでに騒ぎ出す。やがて入り口の方角から強烈なフラッシュライトが照らされた!「アイエエエ!」「なんだ!」「マッポか?ここは合法だぞ!」
2011-01-18 19:36:00
「ドーモ、ファシスト的な搾取構造に疑問を持たず、欺瞞的に用意された泡沫的なトランキライザー的遊戯にうつつを抜かす奴隷的存在の皆さん。私は進歩的革命組織イッキ・ウチコワシの戦闘的エージェント、フリックショットです」
2011-01-18 19:41:11
ニンジャは素早くオジギした。店内の電源が予備電源に切り替わり、薄暗いLEDボンボリが鬼火めいて灯る。客たちは恐怖のあまり、自分のパチンコ筐体の陰に、きっちりと整列するかのように等間隔でうずくまっていた。警備員が手に手に暴徒鎮圧銃を構えて前進する。「強盗め!」
2011-01-18 19:44:36
「只今より、この敗北主義的施設から物資を決断的に接収し、我らの革命的闘争の血肉的再生の礎へ転用する!」フリックショットはメンポ(金属製フェイスガード)に装着された拡声器から大音声で宣告した。「フザケルナー!」鎮圧銃を構えた警備員が突進する!
2011-01-18 20:00:46