山本七平botまとめ/【裏切者ヨセフスの役割⑫】ローマ帝国に充満した反ユダヤ的主張に徹底反論し、自国の歴史と自民族の偉大性をローマ世界に広く紹介した超一流の宣伝マン、ヨセフス

山本七平『禁忌の聖書学』/裏切者ヨセフスの役割/43頁以降より抜粋引用。
0
山本七平bot @yamamoto7hei

①以後の彼も強運だった。 陰謀うずまく宮廷内で、ウェスパシアノス、ティトス、ドミティアノス三帝の治世を生き抜き、前記のように紀元102年と105年の間に世を去った。 だがこの間のヨセフスは一貫して「愛国者」であった。 これは否定できない。<『禁忌の聖書学』

2016-03-28 23:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

②彼は…全ローマに充満した反ユダヤ的な空気に対抗し、アンティセミティズムの元祖ともいうべきアピオーンに徹底的に反論し、同時に自国の歴史と自民族の偉大性をローマ世界に認めさせようとあらゆる努力をした。 この点ではまさに現代の日本に欲しいような、自国紹介者、実に有能な宣伝マンである。

2016-03-28 23:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

③『ユダヤ戦記』も『ユダヤ古代誌』もその努力の成果である。 これを可能にしたのはフラウィウス朝の庇護だが、その中でもティトスとは気が合ったらしい。 戦争は悲惨なものであり、特にユダヤ戦争のエルサレム攻囲戦は読むに耐えないほど悲惨である。 だが戦争には奇妙な一面もある。

2016-03-29 08:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

④ローマ人が大挙してイスラエルの地に来て長期間逗留したのはこれが初めてであり、彼らはこの地と人を自分の目で見たのであった。 「蛮族は普段は四つ這いの癖に、ローマ人の前に来ると二本足で立ってみせる」といった蔑視や偏見は「全ローマに比類ない」とユダヤ人が誇った壮大な神殿や、(続

2016-03-29 08:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤続>エリザベス・テイラーばりの東方の美女、特攻的な勇敢さで戦ったユダヤの戦士の前に消えた。 ティトスと、ヘロデ・アグリッパ二世の姉ベルニケの恋は有名で後々まで詩になったが、語られていないこういう例も多かったはずである。

2016-03-29 09:09:20
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥またティトスが建ててネアポリスと命名した植民市に、現地除隊をしたローマ人が入植したらしい。 このネアポリスをアラブ式に訛(なま)ったのが、現在のナブルスである。

2016-03-29 09:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦キリスト教期になってからヨセフスの著作を保存させたのは確かに「フラウィウス証言」であろうが、それは主として紀元325年以降の事であろう。 乾燥したエジプトは別だが、パピルスはローマでは今の酸性紙同様、一世紀持たない。 よほど広く読まれないと、世紀ごとに筆写し直すことはない。

2016-03-29 10:09:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧彼の全集が20世紀まで残ったということは、非キリスト教期も保存されつづけたということだが、それは広範な読者を持ったためといえる。 その背後にはローマ人の東方への新たな関心があったであろう。 また以後のローマ政府の、東方政策の手引ともなったのであろう。

2016-03-29 10:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨ローマ政府がヨセフスに著作をさせ、その為にあらゆる便宜を供与した理由はローマ軍の強大さを東方に知らせ、二度とこういう叛乱を起こさせない為であった。 その為ティトスは自らの「陣中日誌」を提供しており、今は残っていない…アラム語の著作は特に「叛乱防止」の色彩が強かったと想像される。

2016-03-29 11:09:07
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩ヨセフスはこれを実に巧みに逆用している。 簡単にいえばユダヤ人が偉大であることを強調すればするほど、それは逆に、それを圧倒したローマ人はさらに偉大だということになり、それを指揮したウェスパシアノスとティトスは史上無比の名将だということになるからである。

2016-03-29 11:38:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪ヨセフスのやり方は、その投降の時であれ著作の時であれ、常に巧みに相手の立場を逆用し、自己に有利な状況を現出させている。 こういう状況の中で『ユダヤ古代誌』を読めば、あの不可解な民族の謎は旧約聖書にあると人々が思っても不思議ではない。

2016-03-29 12:09:27
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫ヨセフスは『アピオーンヘの反論』の中で、ギリシア人の著作を旧約聖書と対比して「なで斬り」にしている観があるが、これは、ギリシア・ローマ文化を唯一の文化と信じていたヘレニズム世界の人々にとっては驚きであった。 では旧約聖書とはどんな本なのか。それは『七十人訳聖書』を読めばよい。

2016-03-29 12:38:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬ヨセフスは『ユダヤ古代誌』の中で、偽書『アリステアスの手紙』を巧みに改編して一つの歴史物語を記しているが、それに進む前にこの『アリステアスの手紙』について少し記しておこう。

2016-03-29 13:09:24
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭これは現代では「偽典」に入るが、紀元1600年代までは権威ある聖なる書とされており、エウセビオスもこれを『教会史』の中に組み込んでいる。 内容は『七十人訳』の成立に一役かったアリステアスという者が、その経過をフィロクラテスという友人に知らせた手紙という形式をとっている。

2016-03-29 13:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮何を読者対象としたかについては様々な説があるが、大体、ギリシア化したユダヤ人とギリシア人に対するユダヤ人側の宣伝文書乃至は弁証文書とみてよいであろう。

2016-03-29 14:09:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯いわば異教社会に住むユダヤ人に自らの伝統と文化に誇りをもたせ、同時にギリシア人に自己の偉大性を宣伝するという両面があると見てさしつかえない。

2016-03-29 14:39:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰書かれたのはプトレマイオスニ世フィラデルフォスの時ということになるが、これはフィクションで、本当の著作の年代はさまざまな説があるが、前100年を中心に前後に20年ぐらいと見てよいであろう。

2016-03-29 15:09:28
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱ヨセフスはこれを巧みに自分の著作の文脈に組み込み、まずアレクサンドロスの死後に生じた状態からはじめ、多くの歴史家も同じ内容のことを記していると傍証をあげ、同時に旧約聖書の宣伝をしつつ、次のように記しており、これでみてもヨセフスは実に巧みな宣伝屋であることがわかる。

2016-03-29 15:38:57