百々百々駄惰堕【暑かった日】

テキストカラテ・ドージョーのオリジナルツイッター小説【百々百々駄惰堕(どど・もも・だだだ)】。 暴力的表現、性的表現あり。閲覧の際はご注意下さい。 感想は是非ハッシュタグ #mpbkrt まで。
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テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「母なる大地の腐れマンコが/怪物べしゃりと産み出した/何故生まれて来やがった/呪わしい命…」 1

2016-03-29 20:31:11
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

老人の頭のような荒野に、ハスキーな女の歌声が響き渡った。どこか感傷的な旋律のその歌は、乾いた風に乗り、遠くへと飛んで行く。彼女の歌声を聞いた者があるかは、分からない。歌声の主たるその女は、お世辞にも品があるとは言えないこの歌を、特に何の感情も込めず歌っているようだった。 2

2016-03-29 20:34:36
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

彼女はボロの修道服を身にまとっていた。とはいっても、普通のそれではない。肩から先と豊満な胸元の露出が妙に高く、必要以上に体のラインが見えるタイトな作り。その上スカートにはスリットが入り、艶めかしい脚が覗いている。まるで見ろとでも言うように。腕や脚の関節には、染みのついた包帯。 3

2016-03-29 20:38:21
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

しかし真に奇妙なのは、その尋常でない長身であろう。メートル法に換算して、およそ二メートルと十センチに少し足りない程度。そんな彼女の腰まで届いているのが、ヴェールから零れ落ちている黒い前髪である。それは、彼女の顔を左半分覆い隠していた。 4

2016-03-29 20:41:40
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

重いブーツの足音と自作の歌を響かせながら、女は荒れ野を進む。白い肌と黒い修道服のコントラストは、見る者の目をチカチカと痛めるだろう。しかし注意して見れば、それだけでないことが分かる。彼女の体、あるいは服のあちこちには、赤黒い何かが付着しているのだ。 5

2016-03-29 20:46:40
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

それは一体何か?彼女の手へと視線をやれば、すぐに察することができる。赤く塗られた爪。指の付け根辺りにゴツゴツとした金属が取り付けられた、黒い革の指抜き手袋。それをはめた両手にぶら下げているのは、歪な肉塊である。 6

2016-03-29 20:50:02
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

それが何かの死骸であることは明白だが、何の死骸なのかが問題である。大きさはどちらも一メートルに満たない程度。体毛は無い。巨大な蝙蝠の翼めいたものが生えているが、それとは別に赤ん坊の腕のようなものが六本。それが、白く球状に近い肉の塊に直接くっついている。 7

2016-03-29 20:53:17
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

目や耳や鼻、口等にあたる器官は見当たらない。白くて丸いものに翼と手を無理矢理植えつけたような、どこか冒涜的で思わず目を背けたくなる物体。しかしその破けた皮膚から流れる酸化した血液、そして露出された内臓めいたものが、これが確かに生き物であることを物語っている。 8

2016-03-29 20:56:52
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

彼女はその死骸の腕を、取っ手を持つように握っていた。それは、小さな子供の手を引いて、家へ連れ帰る姉のようにも見える。「何故生まれて来やがった/呪わしい命…」『何故』の『な』に大きくアクセントを置き、彼女はこの単調な歌を繰り返していた。何度も、何度も。 9

2016-03-29 21:00:44
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「母なる…」女は不意に歌と足を止め、その赤い瞳をギョロリと動かした。彼女の視線の先には、大きい岩。その陰から、何かの這うような音が聞こえる。彼女は両手の死骸をどさりと地面に置いた。「…あのさぁ、話が通じるならでいいんだけど。ヤるなら早くしてくれっかな」 10

2016-03-29 21:04:57
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

彼女は首をぐりぐりと動かしながら、淡々と言った。「アタシさ、結構ギリなのね。だってコイツら飛ぶんだもん。逃げるし。たった二匹狩るだけで限界よ。暑いしさ。肌に悪いよねこの天気」岩陰の気配は、しばし様子をうかがっているようだった。「もう一狩りって気分じゃさ、あんまりないわけ」 11

2016-03-29 21:09:57
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

ずるり、ずるり。「お、ひょっとしてこっちの話分かる?つまりさ、喧嘩ならなるべくやめときたいし、アタシの体に興味あるなら一旦帰ってシャワー浴びさせてって話なんだけど――」草と砂利の音を立てながら岩陰から現れたのは、「――あー。アタシもアンタじゃちょっとムラムラこないかな」 12

2016-03-29 21:13:29
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

どこか出来損なった白い何か、と呼ぶしかない生物だった。鱗のないトカゲめいた胴体に、人間の脚に似たものが七本。そのアシンメトリーさが、見る者の心に不快感を湧き上がらせる。引きずっていたのは太い尻尾。鎌首をもたげたその頭らしい部分には、やはり何の器官もないように見えた。 13

2016-03-29 21:16:47
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「…まあ、レベル3ってトコ?」それの体長を確認しながら、女は言った。三、四メートル。彼女より大きい。「ぃぃぃぃぃぃいいいいいい」『それ』は震えながら、笛めいて甲高い耳障りな音を立てる。同時に、『それ』の顔にあたる部分の先端に、虚ろな穴が拡がった。「いいよ。さっさとイってね」 14

2016-03-29 21:21:19
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

準備体操めいて手をぶらぶらさせつつ、彼女は再び歌を口ずさんだ。「母なる大地に埋めてやっても/亡者がどろりと起き出した/何故素直に死なねんだ/呪わしい命…」刹那、ごとん、と何かの落ちる音。それは彼女の側から聞こえた。落ちていたのは、彼女の右肘から先だった。 15

2016-03-29 21:26:04
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

断面から血液が噴き出す。しかしその腕は、ただ落ちているというわけではなかった。繋がっているのだ。彼女の腕の骨が、チェーンめいて伸びて。更に注目すれば、それが最早骨とすら呼べぬことが分かるだろう。紛れもない金属。更に言えば、似ている。人が蛇腹剣と呼ぶものに…! 16

2016-03-29 21:30:47
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

掛け声と共に、彼女は右腕を大きく振り上げた!ジャリジャリジャリジャリ!鎖のような音を立てながら、彼女の腕が大きく宙を舞う!「惰ァッ!」彼女がその腕を勢いよく振り下ろすと、彼女の肘から先が尋常ならざる速度で『それ』の首に激突した!「ぃぃぃぃいいいい!」衝撃音!悲鳴! 18

2016-03-29 21:36:27
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「駄…ァアッ!」直後、女はその場で屈み、大きく跳躍!同時に、再びジャリジャリと金属音!伸びた腕の骨が縮む音だ!彼女の体は、『それ』に向かって一直線に飛んで行く!彼女の手は、既に『それ』の首を掴んでいるのだ!風圧で彼女の前髪がばさばさとなびく!嗚呼、その下には…! 19

2016-03-29 21:40:54
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

赤くただれた皮膚。失われた頬の肉。むき出しの歯…!それは、目の前にいる『それ』と同じ程度には、怪物らしく見えた。零れ落ちそうな眼球は、獲物の姿を確かに捉え、赤く輝く!『それ』は大きく口を開ける!「唾ッ、ウウウ!」彼女が左手の手袋を口で外すと、その手の甲から何かが飛び出した! 20

2016-03-29 21:44:23
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

それは、剣の切っ先!彼女の左腕もまた、武器であったのだ!彼女の左腕の筋肉がブチブチ音を立て盛り上がる!彼女は『それ』の脳天に、左腕の剣を突き刺した!「ウッ!ウッ!ウゥーッ!」何度も!何度も!「ウゥオーッ!」「ぃぃいいいい!」気の狂ったような叫び声!飛び散る血液、そして脳! 21

2016-03-29 21:48:10
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「オァァアアアハハハハハ!脳に入ってる!脳犯してる!ェアハハハハハァァァ!」彼女は目をぎらつかせ、奇声とも笑い声ともとれる声を上げていた。もっとも、顔の左半分は既に笑ったような顔であったが。やがて『それ』は倒れた。倒れてもまだ、彼女は刺すのをやめなかった。 22

2016-03-29 21:52:10
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

『それ』の顔らしき部分が原型を留めなくなる頃。「フゥ…ゥウウーッ…」彼女は大きく息を吐き、首を数度捻った。腕が外れたままその場に座り込み、空を見上げる。恍惚の表情。そのぽかんと開いた口の端からは、唾液が流れていた。 23

2016-03-29 21:55:58
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「…嘘ついたかも」彼女は目だけで死骸を見下ろし、震える声で話しかけた。「今脳汁すごいよ…今日帰ったら絶対すぐセックスしよ…シャワーとかいい…キキでも捕まえて…冷えた寝室で…」彼女は内股でゆらりと立ち上がると、左腕の剣を引っ込め、右腕を元に戻し、手袋を拾った。 24

2016-03-29 22:01:00